「おい。ニルファに行って来い。」
 ある日、いつものように唐突に。王子は書類と役目を 言い渡した。

「……………」
 あまり、文句は言わないほうだと思っていた。が、

「ナクテスの仕事です。それか、オーク……」
「お前に、言っている。」
「……………」
 レランは、黙った。

脱出



「おい。」
 低い声と共に、チャキっと剣が言っていた。

「なんだぁ!!? ……ぐえぇーー」
 醜い声を上げながら、木の上でサボっていたセイジュ はつるし上げられた。

「王子を見ていろ。」
 目がいってるよーーー

「…………なんで?」
 心底不思議そうにセイジュは言う。そのまったく王子 の護衛らしからぬ言葉に、さらにレランは不愉快そうに 眉間にしわを寄せた。

「何でだと?」
「お前が………」
 どこかに行くらしい。レランは旅支度(じたく)である。
(……………なるほど。)
 いったいどれだけ理不尽に。王子に命令されたのか。

「いいな」
 きつくそれだけ言って、レランはその場から去った。

「はいはい。」



ごそごそ、がさがさ
 一人荷物をまとめる王子。

「どこか行くんでーーー?」
 窓の外から声をかけた。

(…………お前か。)
 剣を引き抜いて、壁を登ってくるやつの手に突きつけた。

「………ちょーー王子っっ!!」
「不法侵入者は牢獄行きか……」
 どこか人事のように呟いた。

「まじでーーー?」
 ふっと笑って、カイルは剣を引っ込めた。

がざがざ
 部屋に帰った。

「ふぅ」
 剣でちくちくと刺された手の甲をさする。――――心臓に 悪い。
 バルコニーに降り立った俺を一度だけ王子が振り返った。 ――――目が合う。…………何も見ていないかのようにそら された。

「何してるんで。」
 外の兵士の訓練が始める声を受けて、王子に背を向けて聞いた。

「この城を出る。」

―――――やってくるだろうと思った男(セイジュ)は、特に 驚いてはいなかった。

こつ、こつ!

――――チャキ
 セイジュの喉元にあてた。

―――――――邪魔をするな。

「そりゃ、あなたの剣の腕は認めますよ。」

こつ、こつ、
 足音が離れた。

「何をしにーーー? 婚約者でも探しに?」
 また、窓の外を眺めながら聞いた。

「そんなもの母上が用意する。」
――――母上の気に入った――――………を。

…………違いない。セイジュは思った。


Menu   Next