ざわざわ、ざわざわ………
 部屋は、ざわめいていた。

ごーーーん……ごーーん………
 三つの鐘の音がなった。

 始まりの合図。

試験と、一人



 目の前で、くだらない男の論議が終わった。――――次の部屋に 移るように指示がある。
 まわりの者共を見渡して、ゆっくりと先頭について歩き出した。


「次の試験は筆記である!!!」

――――知っている。………早くしろ。

「制限時間は―――?」

「「「「???」」」」

 入り口付近での騒ぎに、皆視線を向けた。

「誰だ!!」
「もう締め切りは過ぎている! いったい何のようだ!!」

「俺は参加者じゃない。」

「!!!?」
 隙間からのぞく視線に、兵士はあわてて扉を開けた。

 開かれた扉、そこから入ってきたのは―――

「王子ぃ!!?」
 うるさくてかなわない大臣が、素(す)っ頓狂(とんきょう)な声 を上げた。

―――――王子!!?
―――あれが!? あの方が?
 しずまっていた者共に動揺が走った。

 今行っているのは、“エルディス国第一王子の護衛選抜試験”だ。

「王子!!? 様。ななな………なぜにこんなところに……? おい!! お前たち!! 椅子の用意を……」

「お前達は、俺が立っているだけで倒れるとでも思っているのか?」
 あわてふためく大臣に、冷ややかな声がかけられた。―――――冷 たい。

「――――ひぃ! いえそそそそそ…そんな滅相もない……」
「だったら続けろ。余計な気遣いは無用だ。」
 それだけ言って、エルディスの王子は入り口の横の壁に背をあずけた。

「はぁ………」
 うるさかった大臣は、がっくりと肩を落としながら壇上の方に向かっ ている。
 しかし、受験者の視線はすべて王子に向かっていた。――――もちろん。 自分自身も。
 それに気づいたのか王子は顔を上げて、ゆっくりと机に座り振り返って いる者達を見渡した。

…………なぜだかは、知らないが、誰の目も、王子を捕らえることはなっ たし、王子は、この人数の中、誰とも目を合わせようとしなかった。

「これよーーーり、試験をはじめる!!」
 間の抜ける声に、振り返った。―――――配られた紙に目を落として、 始まりの合図を待った。


きぃ
 邪魔をしないようにしずかに開けられた扉。

「王子?」
「リヴァロか?」
「ああリヴァロ様!! どうか王子様に言ってさしあげ……」
「国王陛下が、“好きにしろ”と。」
「そうか」
「なななななにをリヴァロ様」
 王子の横にいた、大臣の御付の者があわてふためく。―――王子はそ 知らぬ顔だ。小声で交わされる会話にも、興味はないらしい。

「……………はじめ!!」

―――――始まった。


「王子」
「?」
 絶えず視線を正面に向けていた王子に、問題の紙を渡した。

――――受け取って、黙り込んだ王子。………これで、当分は静かだ。



「やめ!!!」

 一時間。早いものだ。自分がこれを受けたときは―――――

「リヴァロ」
「はい」
「これを作ったのは、ノーザイス先生か?」
「そう、聞き及(およ)んでいますが。」
「そうか」
 それきり、王子は黙った。


 次の戦術試験には、王子の姿はなかった。大臣どもは明らかに ほっとしているし、相手は相手にもならないし。王子の姿を探し てきょろきょろする者共は、はっきり言って邪魔だ。



「ノーザイス先生!!!」
 バン、と強く扉が開かれた。
「おお! 王子様。この老いぼれのところにわざわざ何用でおこしに?」
「これ!! は、なんだ!」
「…………? ああ、貴方(あなた)の護衛選抜試験を覗(のぞ)かれたの で? どうでしたか? なかなか、相応(ふさわ)しそうなのは…」
「それはどうでもいい!」
 その一言にリヴァロの目がつり上がった。

「これは何だ!!!」
「…………何かと申されましても。試験問題ですが?」
「半分も解けない。」
「それはもちろん。貴方の護衛をする者が、あなたより物知りでなく てなんとしますか。」
「答えは!」
「それは、今度貴方の護衛となる者に聞いてください。」
 筆記の試験で九割は取らないと不合格だ。
「今、だ!!」
「王子。知りたがるのもよいですが、昨日の歴史の教科書がまだ終わっ ておりません。授業は、明日ですから、本日はお帰りに。」
「おい!!!」
「王子。ノーザイス様はお忙しいのですから。」
 リヴァロが王子を抱えあげた。(肩に)
「こら!! 放せリヴァロ!」
「陛下がお許しを出したのは、試験の見学です。授業でもないのにノー ザイス様にお会いになることは許されてません。」

「この!! はーーなーせーーー!!!」
 今年十三となった王子の苛立(いらだ)ちの混じった声は、もはや日常 の音となっていた。




「まぁ、でしたらエルカベイルが試験の見学をするのをお許しに?」
 王妃は、明らかにわざとらしく声を上げた。
「王妃よ。ここには、今二人しかいないが?」
「そうですわね。でも、あの子迷惑をかけなければいいですけど。」
「そこまでバカではあるまい。」
「相変わらずリヴァロが?」
「そうだが?」

 王子の護衛は、王子自身の護衛を決めるまでは、王の五人護衛が行う。 十を過ぎたころから、王子の護衛を選抜するための準備が始まる。

 ――――五人の護衛を決めるのだ。簡単なことではない。優れた護衛 を代々出してきた家柄でも、何の関係もない旅の者でも、知識と実力が あれば護衛になることは可能だ。試験に受かれば。――――もちろん、 何か策略を企(たくら)む者達もいる。それらの排除を行って、今第一回 試験を行っている。

 だが、何が起こるかわからないので、王子本人が試験を見学すること はほとんどない。―――王が許さない。

「あれは自分で見ないと納得しないところがあるからな。後々になって 面倒が起こるよりずっといい。」
「まぁ、リヴァロは大変でしょうに。」
 まったく同情をかもし出さない声で、王妃はカップのお茶に口をつけた。
「いつもの事だろう。」
「そうでしたわ。」

 若いのによく働く。リヴァロは、父親が剣を握ることができなくなっ てしまったので、代わりとして王の護衛に推薦されたものだった。護衛 の中では一番若いので、そこそこ歳が近いとされる王子の護衛によくま わされた。

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