〜出会い編2〜宿屋


 さすがに、町の中までは………町の入り口をくぐったら、男と女は左 右を反対になるように足を踏み出した。


(なんだったのか? まいいや。とりあえず宿屋〜〜)
 入り組んだ街中を女は一人歩く。この町は戦いの名残で、町の中心を 通る通りは作られていない。行き止まりにいたっては悪態をついて引き 返す。女はこんな事ばかりしていた。


「あれか?」
 比較的大き目の町か思っていたのに、宿屋は一つしかないそうだ。親 切にも大通りに案内してくれたおじいさんからの情報だ。正面を真っ直 ぐ行って左手に、小さな看板を見つけろと言われた。
 すれ違う人々を眺めながら、てくてくと歩く。


 宿屋は町の中心よりにあり、目の前にも道を持っていた。人通りが激 しく、急に進みにくくなった道を歩く。すれ違う人、行きかう人がぶつ かり会わないのが不思議だった。


「あ!」
「!」
 宿屋の入り口、大き目の扉の前に、今まさに入ろうとしている男女が 一人ずつ。女は右手の扉を、男は左手の扉に手をかけている。

「「………………」」
 さて、どうしたものか――――――しばらく二人は頭の中で考えるの に必死で、行動は止まっていた。

「……………」
「…………!」
ぐいっ!
 いきなり男が女の腕を引いたと思えば――

バアン!!!!

 内から外に向かって、勢いよく扉が開かれた。
 出てきた欲深そうな男は一度宿屋に向かい舌打ちした後、大またで、 横柄な態度で、町の住民にあたるように睨みつけながら去って行った。 もちろん、扉の横に避難した男女の存在に気づくことなどない。

 男は女から手を離し、開かれたままの扉を進む。女は小さく礼を 言った後、後ろに続いて歩き出した。

 もう昼と呼ぶには遅い時間だった、しかしいくらまぶしいとは言え 夜に閉めるべき厚手のカーテンを閉めるのはどういった風習だろうか。 薄暗い部屋では、何十人かの傭兵が、冷め切った食事を前に密談して いる。
 それでか。カーテンを締め切るのは風習ではないようなので安心する。

 奥のカウンターに、主人らしき老人が座っている。首が上下に動く のは、居眠りの最中なのだろう。

「主人。部屋を借りたいのだが。」
 男は、静かに主人に話しかける。
 重そうに顔をあげた主人は、目の前に立つ男と女を見て、一本の 鍵を差し出した。

「「…………」」

「おい。主人」
「ん〜〜お前さんら夫婦だろ。」

「「は?」」
 初対面の男と夫婦とは、ずいぶんな言いようだ。

「「違います。」」
 ぴったりあった声で言われても説得力に欠けるようで。

「ぐ〜〜〜。」
 主人は寝だした。
「おい!!」
「ってちょっと!!」

「おじいちゃん!!!!! 何やってるのよ!」
 二人があわてて老人に問い詰める前に、奥の扉から女性が現れた。
「店番はしないでって言ったじゃない!」
 女性は老人を引っ張って、奥の部屋に押し込んだ。

「「………………」」

「…………ふう。」
ぱち
 振り返って安堵した女性と男の目が合った。
「……! いらっしゃいませ。」
 はっとして女性は対応を始める。

「ごめんなさい家のおじいちゃん少しボケてきていて…居眠りするし。 店番はしないように言ってあるんですけど……」
「まいいさ。それより、部屋を借りたいんだが。」
「あ! はい。」
 カウンターの前に男と女が一人ずつ。女は男より一歩下がった場所 にいた。

「……………恋人? ……ではない……」
 ぼそっとつぶやいた言葉は、二人の顔にヒビが入ったのを見て否定 する。

「一人部屋が二つ……」
「何か?」
 目をそらした女性に、女は一歩進んで声をかける。

「それが………今二人部屋が一つしか空いてないんです。」

「「…………………どうぞ。」」
 相手に視線を向けながら、男も女も譲り合った。
 宿の女性は驚きながらも興味深そうに二人を見る。

「「………………」」

 先に沈黙を破ったのは女だ。
「そっちが泊まればいいじゃない。」
「そういう訳にもいかないだろ。お前が泊まればいいだろ。」
「別にいいわよ。」
「お前が泊まれ。」
「なんでよ!!! あんたが泊まりなさいよ!」
「冗談だろ。」
「だから……」

 一度譲り合いだした二人は、なかなか決着がつかないようで。言い 争うように、譲り合っている。女性は眺めていただけだったが、思い 出した事があるらしい。二人に向かって声をかけた。

「そうでした。たとえお一人でも、二人分の料金払っていただきますので。」

「「…………は??」」

だって、二人部屋ですから。


 ―――――――宿屋のおねーさんは商売上手だ。

Back   Menu   Next