「なんだあの小娘は!!」
ダンッッッ!!!

「おねいさーーん。注文いいですかー?」

とある酒場に、そんな声が響いた。


二人の被害者



「だいたいなぁ…………!!」

 注文を聞き終えて戻っていくおねいさんから目を離させるように、めの前の男がぐちり出す。

……………めずらしい…………。

 それもそのはずというのかどうか、すでに、空になった酒瓶が三本。上に一本下に二本転がっている。テーブルの………

 そして、新しく栓を開けてグラスについで、ストレートで流し込んでいるのはどうなんだ………?

 まぁ。そりゃ酔うわな。

 呼び出されてきてみれば、呼び出した本人はすでに悪酔い。

 一人で愚痴っていろよ………思うセイジュ、酔ってるレラン。ちなみに時刻は真昼間。

―――――――もちろん、「あの小娘の」話題が振れるものなど広いエルディスと言えども限られる。


「聞いているのか?」
(聞こえてるよ…………。)

 向かい合う席に二人。まわりも昼間から飲むものばかりですでに話など聞いていない、聞けない状況のものばかりである。
 入り口から程近い奥の席。角であり隅の席に。座る二人。店の中は、すでに人の声が音にしか聞こえないようだ。つまり、うるさい。そして、酔っている男に興味を示すものなどいない。

 はっきり言って、睨まれれば一部を除いた誰もが恐れる視線をすべて俺に向けないでほしい……。
しかし、

(おーーーい? 大丈夫かーーー?)
 心の中で問いかけてみる。無駄に終わったが。

「第一。何物だあれは!!!」
「俺が知るか………」
「ふざけるにもほどがある!!」
「というより。王子の問題だ……」
 ゆらりと、レランの視線が動いた。

(危険だ!!!!)

 身の危険を感じるセイジュ。

「いや!! ほら!! む! 昔に知り合ったと言うか旅仲間だったんだろっっ!!?」
「だからどうした。」
(こっちが言いてえよ!!!)
「だからな!! まぁ……あれだ…………」
(だから結局王子の性格の問題だろ!)

 それもどんなんだよ?

「あれが来てから秩序が乱れて仕方ない。」
「そうか?」
 首を傾げて考えていると、またレランの目が険呑になる。
(ひーーーーーーぃぃぃーーー)



 しかし、考えようによってはよいことのほうが多い。
 王子はたぶん国王、王妃、その他の忠告を受ける気はないようなのだ。自分のすべき仕事はあれが来る前よりも、処理する早さも手際も違う。――――そして、暇な時間を使ってどこかに出かけて行くのだ。誰も文句は言えまい。

が、だ。それはレランにしてみれば一番許せないことのようだ。何といっても、置いていかれるから。
 今日もそうだ。だいたい、はっきり言って何もしないほうが逆にいいのではないかと思うほど事態を悪化させる置手紙を残して消えるのだ。――――王子は。



本日→【出かけてくる。休んでろ。】



 これじゃぁね〜〜〜いや、俺はラッキーだけど……………





「あの小娘はもう少しなぁ!!!!」

 まだネタは尽きないらしい。……………尽きそうにない……。

「王子に言えよ………」
「原因はあれだっ!!!」
(絶対王子にあるって………)
「どうしたら葬(ほうむ)れるか。」
「おいおいおい………」
 後が怖いから真剣に考えないでくれ…………


 なれた手つきで酒とつまみを置いていくおねえさん。グラスに入った氷が、レランの頭を冷やさないだろうか?







  ※  ※  ※






「休暇でもやるか。」

「………誰の」

「レランの」

「新手の嫌がらせ?」

「……………………」


 そんなつもりはない王子?? 王子(カイル)とあの小娘(リール)は通りを歩く。空には薄く雲がかかっていて、静に風がふいている。それでも通りの人々は、昼を回ったこの時間、一時活気が落ち着いた。道を行く人も、すれ違う人も、自分のペース。人がほとんどいなくて、がらがら。と、言うわけではないけれど、人ごみに埋もれる。ということはない。

 国民は、公的行事に出てこない。王子に気づいているのかいないのか? 並んで歩く二人組み。



「おなかすいたーーーー。」
「何か食べるか」
「あそこがい〜〜〜」

 ビシッと指先した場所は酒場。

 もちろん。カイルは無言で入っていきましたとも。







「いらっしゃいませ〜〜〜〜」

 中から聞こえたのは、雑音にしか聞こえない酔っ払いの声と、店の人の声。

 広い店内には、予想以上に人がいたのだろう。カイルは目を細めた。―――――――不満そうに。左から右に―――――広い店内を簡単に見渡したリールはカイルに言う。

「ねぇ。あっちの奥の席に行かない?」
「そうだな。」

 初めから、こんな昼間から飲んでいる者共に興味はないらしい。店に入ってから正面に向けていた視線を一瞬でも動かさなかったカイルは、大きなテーブルでごちゃごちゃと飲んでいる男達の間をリールの腕を引きながら進んでいった。






 そんな二人を店員以外で見送っていた男が一人。――――――セイジュだ。
 リールが店内を見渡した視線が右に来たとき。時間にして0.5秒。リールとセイジュの目が合った。そして次の瞬間には、リールはカイルに奥に行こうと提案していた。

 確認しよう。セイジュとレランがいたのは入り口に程近い席。レランは入り口に背を向け、反対にセイジュが。愚痴を聞く気のないセイジュが、唯一視線を向けられる場所ともいえる。自分達のあと何人目の客か――――――暇なセイジュは数えていた。入り口の壁際にはセイジュがいるテーブルまでいくつかテーブルがあり、どれも人で埋まっていたが。


(…………………………)
 向こう(リール)に、こちらの状況は伝わったようで。

(気づかないもんだな〜〜〜)

 レラン(こっち)も、王子(あっち)も。



「おい………」
 低い低い声がする。
(だっっーーーーーー!!! この酔っ払い!)

 レランは、こんな感じだし。王子にいたっては、この酒場にすら興味はなさそうだ。

 興味関心の対象は一つ。―――――――それも何か違う気が。


 だがしかし、それだけ言っといて、気づいていないレラン。この酒場の中でリール以外はどうでもいいと思ったであろう王子。そして、内心相当何を思ったか知らないが、まったく悟られないようにした女。………………なんだこいつ等?


 おそらくこの四人の中では一番まともであろうと、思うセイジュは、傾きつつある雲を払った太陽の光に、時間の経過を感じて目を細めた。


――――――まるで不吉の暗示を見るように。






「おねえさーーん。お酒追加。」


END




相関係図?  リール⇔カイル→レラン→セイジュ 

「→」はいじめられる(被害を受ける)対象? 


旧タイトル「レランの休日」 
なんかセイジュの話のようだったから。(終わりが) 
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