一人旅 〜遭遇〜


ドガン!! ガシャン! ガコガゴドガ!――――――………。
 止める兵士をあっさりひいて。城門をくぐった馬車は、止めようとした兵士のせいでバランスを崩し無残にも大破。松明に突っ込み火をもみ消した。しかし、馬車がバランスを崩す瞬間。船長と乗組員、紐の解かれた雇われ女は飛び降りた。

 着地したのもつかの間。
「何者だ!?」
 と問う兵士を片っ端から切り捨てる。放り投げる。気絶させる。ふっとばす。

「アイエにあわせろ!!!」

 女は一人、兵士に囲まれ逃げ場を失い。自分の剣をどう取り返すか、どうやって逃走経路を確保するか思案中。

 すでに日は暮れていて、松明の明かりが消えかかる中。人の顔を判別するは難しかった



「侵入者だと。」
 男は正面口で暴れる賊が出たという報告を受け走り出す。目に宿る意思は、ほとんど殺気に近かった。



(やばい。やばい!)
 だんだんと多くなる兵士。松明をもち明るくなる周囲。リールは危機感を感じている。
(早く! 見つかる前に逃げないと!!!)
 もう一度、リールの剣を振るうワンドを見ると、覚悟を決めて兵士の少ないほうへ後ずさり始めた。

ガッッッ!!!
「きゃっ!」
 どれほど動揺していたのだろうか。足元の何かにかかとを引っ掛けしりもちをつく。

ガラァンッ!! ――ドサァッ
 音に驚くと、ワンドとベイズンが、突然現れた者に一撃で気絶させられていた。

じゃり
 二人を気絶させた男が、リールに近づく。その後ろに松明を持った者が続く。
(やば!!)
 体勢を立て直そうとリールが腕に力を加えたとき、


ザク
「―――――っ!」
 声を抑えるのに必死だった。

 リールの真横に、ワンドの持っていた剣。―――リールの剣が突き刺さる。斜めに刺さった剣は、後ろに手をつけていたリールの手首を、切り落とさないのが不思議な位置だ。ある意味で自分の剣が返ってきたことになるが、動くなという牽制(けんせい)だ。
 ――――――現れた男が、剣を残った賊に向け投げたのだ。

(来ないでよ!!)
 近づいてきる明かり。足音。
 顔を隠しても無駄だ。………リールは思う。


「なぜお前がここにいる。」
 剣を投げ近づいてきたのはレラン。
 その横から兵士の持つ松明に照らされても、リールの顔は夜より暗かった。

 炎が揺れる。
 何も、誰も言葉を話さない。
シャラァァァ……
 レランは静かに剣を引き抜く。
ピタ
 リールの首筋にあてた。
 言葉の中身を感じていたリールはため息をつく。
「……………カイルは?」

 一通りの思案は終わったようだ。


――――――長い沈黙が表す。レランが答えを返すか、返さないか考えている事を。剣を引き、答える。

カチッ
 剣は鞘に収まった。

「……………………………………王子は領土の視察に行った。」
「なにあんたまた置いてかれたの?」

ピシイィィィッッ

 空間にヒビが入った。周りの兵士は引いている!! レランの表情は変わらない。リール! 頭の上にハテナマークを浮かべている場合じゃないぞ!!!!!!!??

「……………これを牢へ連れて行け。」
「!? はぃぃぃ?!!!?」
ガシ―――ずるずる…
「え? マジ? ちょっと! なにすんのよ! ってオイ!! ちょっちょっと待て!! えっっっと……じゃ! じゃぁ王妃様は?」
「国王様、王妃様もいらっしゃらない。」
「は?」
「なんでも、これで小言を聞くことなく、を思う存分旅を満喫できると。連れて行け。」

 何が!?と聞く暇もない。つまり、この国には今、国王も、王妃も、王子もいないと。

(やってけるのか…………?)
 やっていけるのである。
(あ、ありえない)
 話に呆然としていたリールが我に返れば時遅し。
「って!! 行くなよ! 聞いてるの!? 放せっての! ドコ連れてくき?? 人の話し聞いてるの!! っっっ〜〜〜この人でなし〜〜〜〜!!!!」

 頭を抱えつつ背を向けるレランに、引きずられていくリールの叫び声がこだました。


 リールの声が遠のくと、遠巻きに騒ぎを眺めていた男がレランに近づく。
「いいんですか? 王子にばれたらまずいと思いますけど。」
 城の兵士がリールの言葉に固まる中、一人笑いを噛殺していたセイジュは言う。

「侵入者の排除は俺に一任された事だ。お前は自分の仕事をしろ。おい。何人かあれを牢の前で見張っておけ。」
 近くのメイドに何と言うことを言うのか。

………牢屋に入れたというのに、さらに牢屋の前に見張りを置くものだろうか。



「……………っっま、いいわ。」
 薄暗い石牢の中で、連れてきた兵士の足が遠のくとリールは言った。
(いなかった事に感謝。)
 リールが一番会いたくない人物が。
「……………はぁ。」
 石の台に、リールがやっと包まれるほどの古びた毛布がある。その上に座り片足を立て、頭を下げる。やらなければならないことが、一つだけあった。



カタ。コンコン。ペタペタ。

 石を一つずつ丁寧にリールは調べる。
(抜け道は〜?)
 地下にあんなにも巨大な迷路を隠しているグランディア城である。牢屋に仕掛けがあってもおかしくないはずだ。

 地上と地下の境目のような場所にある牢屋は、高い位置に小さな窓がある。頼りになる明かりといえば、その窓からゆれる松明の火。

ガタガタ………ぴた。
 石を調べる手が止まる。感じた気配は二人。リールがこの石牢の回廊で目隠しをはずされたとき、周りに囚人は、人の気配はなかった。この牢の階の囚人はリールのみだ。なのに、廊下の先から明かりが見える。
(ちっ。)
 リールは手を止め。台の上に座りなおす。


「この方を見ていろと?」
「あ〜あなんだってこんな事。」
「しょうがないわくじ引きなんですもの。」
(―――――ふぅん。)
 リールは顔をあげる。
「きゃ!??」
「どうし……あ!!起きていたんですの?」
 二人のメイドはおたおたとうろたえる。

「……。(寝よ。)」
 古びた毛布に包まって、リールは寝ることにした。



 リールが眠ってから、さほど時間はたっていない。めったに人の来ない石牢に、四人目が現れた。

「……………。」
「セイジュ様!?なぜこのような所に!」
 メイドの驚きなど目にくれず。セイジュは石牢の中を凝視している。

 メイドはこんなにも薄暗い石牢の中で、蝋燭の明かり一つで手に針を持っている。―――――それよりも、気になる事。見に来た者。ここに来た目的。――――閉ざされた牢の中でこちらに背を向け眠る女。

「寝ているのか。」
「は? え? あの!」
「そうなのです。私(わたくし)たちが来たらすぐお眠りに。」
(ということは、それまでは起きていた。それにしても…)
 ………こんな状況でよく眠れるものだ。

 驚きに声をあげたメイドの頬は赤く、それでも、目はしっかりとセイジュを見ていた。
(こんなに近くで見られるなんて。)
 自分から近づけるような方ではない。
(でも、……)
 メイドの思考は、自分の横をすり抜け石牢に近づいたセイジュの行動によって、止まった。

(………試してみるか。)
 マントの下から取り出した一本の鍵。それを……
「…うるさいんだけど。」
 声をあげるのが先か、起き上がるのが先か。―――――――同時だ。

 鍵を開けようとしたセイジュの手が止まる。ふっとリールに視線を向けた後、鍵をしまった。
(なるほど、さすがに気配を読めなくはないか。)
 一つ、リールを試す予定だった。

「一度会っているな。」

「……………。」
 会ったというか、すれ違ったというか、見たというか。まるで、眼中になかったというか。見覚えはあるが関わりのなかった男を前に、リールは警戒を怠らない。

「何の御用。」
 囚われた牢の住人だ。そこまで、警戒する理由があるのか。
「すでに逃走をはかっているものだと思っていたが。」
 特に悪びれた様子もなく。幾分楽しそうに言う。
「そのつもりだったけど。」
「捕まっているというのにずいぶんと余裕だな。ここにいれば殺されるかもしれないのにか。」

「!?」
 セイジュの言葉に過剰に反応したのはメイドの二人だ。
――――――クスクス
 殺されるという言葉に一瞬視線を外したリール。だが、すぐに忍び笑いに変わる。
「殺すのはムリね。消えてほしい。と考えているのは事実でしょね。」

 誰の、考えか。

クスクス
 石牢に、リールの乾いた笑い声が響く。セイジュの言葉に驚いたメイドの二人は、リールの様子に寒気を感じる。
「殺すつもりならこんな所にいれない。あの場で切ったほうがよっぽど早い。」

クスクス
 笑いを漏らしながらも、リールは話す、
「私だったらあれが帰る前に国外に追放するわね。」

 セイジュは黙って聞いている。それを不敵な態度でリールは眺める。
―――――本当に、彼女は囚人なのだろうか。むしろ質問をしたこちらが見透かされているようだ。

「まぁそんな事しなくても、私はここにいたくないの。さっきも逃亡の途中だったのに。」
はぁ。
 きわめて残念そうなリールのため息は石牢ににつかない。二人のメイドは、雰囲気に飲まれ、おびえている。
「ここから逃走するのは簡単だわ。」
「ここは、エルディス国のグランディア城だ。」
 セイジュはリールの言葉に反論する。自分達で警護する城だ。侵入者に簡単に逃げられるなど、

「簡単よ。」

 セイジュの言葉などまるで耳に入らない。およそ牢の中とは思えない不敵な笑みをリールは向ける。
(―――――剣を取り戻すのであれば話は別だけどね。)
「……………。」
 つまりいつでも抜け出せる、と言っている。

「だから、ほっとけば私は消える。それが困るから、彼女等をよこしたのでしょうよ。奴は私に用がある。 (………利用しようとしているとも言うけどね。) だったら変に逃走を図るより、向こうの出方を待つほうがいいわ。余計な事しなくていいし。それに徹夜明けなの。眠いから邪魔しないで。」

 ―――――もし、リールが自分で起きなければ、目の前の男はどのような行動に出ていたのだろうか。この女がどのような力を持っているのか計ろうとしたセイジュは、試そうとした事を後悔した。

(それで、睡眠。――――関わらないほうが身のためだったかもしれないな。)
 セイジュの表情は変わらないから、何を考えているか知るのはムリだ。リールはごそごそとまた毛布に包(くる)まる。

 メイドは、特にセイジュに思いを寄せる女はリールの行動を見て怒りに燃えてい。
(私だって話しかけられたことすらないのに!!)

 メイドにしてみれば王と王子の側近は、王族と同じく雲の上だ。側近になるには腕と、知識に加え、少なからず容姿との関係もあるはずだと云われる。特に、エルカベイル王子の側近に思いを寄せる侍女やメイドは多い。王の側近より比較的若い人材が揃っているからだ。その中でもセイジュは特にファンが多かった。爽やかで愛想もよく、穏やかに笑う。それに剣術、政治に関する知識もある。

 余談だが侍女達の恐れる存在となっているのはレランだ。王子にいつも付き従っているが、侍女達と親しく話している姿などまるで見かけない。あまりに主に忠実なため、他に関心がないとも言える。

「…。」
 セイジュは何か言いたげに口を開いたが、声を発しない。この階の入り口から、一人の兵士が近づいていたから。

「セイジュ様!? なぜこのような所に。」
 やって来た兵士はセイジュの姿を前に驚く。
「お前が口を挟むことではない。」
「申し訳ありまっ」
「謝罪はいい。要件を済ませろ。」
「は! ―――娘。」

 セイジュを前にあわてていた兵士は、リールを呼ぶ。だが、リールの返事を待っていたわけではない。

「隊長が呼んでいる。」


 リールの口元が笑った事に、セイジュは視線を送った。――――そう、すべてが彼女の思いのままだ。

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