一人旅 〜遭遇3〜


(あ〜の〜や〜ろう!!)
 すでに、夜は深い。地面すれすれにある小さな窓は、月の明かりを送る。光がぼんやりと石牢の中を照らす。

(もういいわ!こうなったら何が何でも逃走してやる!)
 不吉な音を立てて閉まった牢の向こうには、メイドが二人。暗闇(くらやみ)とかしていく石牢の中の見張りとして。

――――そんな見張りをすでにリールは気絶させていた。手招きして近づいたところにガッっと一撃。

 リールは壁のように積み上げられた石を一つ一つ丁寧に調べる。

「…………………!」
「……ん……。」

くる
 驚いた。目を覚ましたのかと思い振り返ると、どうやら熟睡し始めた。
(驚かすな!疲れでもしてたのか?)
 あっさり眠ってしまったから。…………しばらく、メイドを見ていたリールだが、また石を調べようと……

ぐるぅ!
 もう一度振り返り、違和感の正体を探す。
 牢の中の床は、石畳を敷き詰めたようになっていた。その石と石の隙間に、針があった。廊下と平行に並んだそれは、奥にいる囚人に目が行っていれば、普通気付かないだろう。中の者でも、気付くか気付かないかは本人しだいだ。しかし、

(………………へぇ。)

 いつの間にか、石牢の中は暗闇に襲われていた。


ズズズッッ
 入り口に蓋をしていた石を一人分ずらす。
「よっと……。」
 リールは身一つだった。あのままここにいるくらいなら、たとえ身一つでも早々に立ち去る必要があった。

「……あんたの差し金?」

 暗闇の一部が動いたと思えば、建物の影から現れたのは、レランだった。

「……………………。」

「牢の中に針を落として、メイドに睡眠薬をもったでしょ。兵士の数も減っていた。」
 ただ単に減っているなら城を守るものとして行ってはならない行動だ。しかし、この場に導くかのように厳重な警備に隙を作ってあった。


 レランは何も言わなかった。ただ、リールに向かって剣と荷物を投げた。
「!」
 リールは驚きながらも、弧を描いて落ちる自分の荷物を掴んだ。

 剣を持ち、荷物をかけて、レランに背を向けようとしたその時、レランは投げ捨てるようにリールに向かって布袋を投げつけた。

パシッ!
「それを持って消えろ。」
「…………………。」

ジャラァ
 ゆっくり、手の中のものを傾ける。
「報酬がほしかったのだろう。」
(まぁ……そりゃぁ……)
「お前がいると、ろくな事にならない。特に王子は。」
「…………………。」

ヒュッ
 リールがレランに向かって投げ返した袋は、受け取られず、地に耳障りな音を響かせた。

「……どういうつもりだ。」
「いらないわ。あなたを護衛したわけでもないのに。それに、あんたから貰うと夢見が悪いから。それに……別にそこまでして報酬がほしいわけじゃない。」
「持って行け、帰ってこられると困る。それこそ、死んでもらう。」
「言ったでしょう。別に来たかったわけじゃない。」
「お前がいると王子は……お前が王子を狂わすんだ。」
(そうかも知れないし、違うかも知れないし。)

―――――――絶対あれが本性だ。

 レランもそれは知っているだろう。ただ、レランはリールに執着心を見せたエルカベイルに危機感を覚えた。何があろうと、この国にはエルカベイルが必要だ。それに邪魔となりそうな娘が消えたと思えば現れたのだから。

 レランは恐れていた。主がいなくなることを。

「持って行け。」
「いらない。」
「持て。」
「いらない。」
「………強情な。」
「そんなのがなくても逃げるし。」
「来たかったのでは、」
「来たくなかった。」
「では、なぜ来た。」
「……………。」

 リールは黙った。本当に、逃げる機会はなかったのか。
「………成行きよ……。」

 小さな松明の光と、満月には遠い月明かりは、足を囚われもがく二人にとって、救いの光とはならなかった。


 暗闇に消える小さな背。


 見送ったレランは、動くことなくその場に立ち尽くしていた。



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