故郷編 〜手伝って〜


「この本を開いて、文字を消して読まないで並び替えて、古語を訳して。開いた最初が、【動き出した歯車は止まらない。止まることを許されない。――――――なら、………壊せばいい。】よ。…………いったい、何処まで自信家かって話よね。」
 本をラーリの背に乗せながら、リールはあきれたように言った。
「この地に沈めた毒を取り除くのを“救い”として書いてある文は、その存在に気づくのが早いほうが計画を壊すにはうってつけだった。」
「――――どうでもいい。」
「「「「……………」」」」
「そうよね。」
 ―――あんたはね。
 予想以上に大きく響いた小さな呟き。レランは、振り返ったカイルの表情に顔をしかめた。
 ――――まずい――――?

「どうすればいい」
「……」
 言葉を区切った言葉に、リンザインは聞いた。
「いや、俺がする事はもうないか?」
 ―――――お前は、その準備をもう終えているんだろう?
「用意は終わったけど、無理。」
「何を?」
「種。……………本には、ただ一つの目的のためにある植物を作り変える方法が書いてあったわ。」
「それが、どうなる」
「この地の毒を栄養に育つ木。今、人々を苦しませる毒を取り込んで成長する花。」
 ラーリを見下ろして、リールは言葉に答えた。
「多量の栄養を含んだ地から、伸びゆく植物。多量に増えた植物は、地から栄養を取れなくなった時点で枯れる。」
 その花にとっての栄養であって、島人に毒だ。
「植物自身の身体を作るために毒を取り込んで、栄養に変える。花が咲き、実がつく。」
 植物の営みの中で地を元に。
「花の種はそのまま地に埋もれ、芽吹く。―――――これは、一回だけだからなるべく多くの毒を取り込ませるように。木は……」
「そんなことで、うまくいくのか。」
「――――地道すぎるわよ。」
 信憑性(しんぴょうせい)の薄い話に、ラーリが声をかけた。
「それは、この計画にかけた時間を越える時間を使って、この地の毒を取り除くから。」
 なんて、言ってもすでに200年もかけているけど。言っとくけど、死んだ後まで責任とる気なんてないわ。どうにかしなさいね。
「いきなりすべての毒を取り払えば、この国の人間は皆体内に必要なものを摂ることができずに死に絶える。」
 例え毒でも、この国の人々には無くてはならない物。
「だから、地に生える植物の量を制御して、徐々に人間を毒の中毒から抜け出させる。」
 ―――――その毒が、無くても身体が生きていけるように。
「何故、それが今出来ない。」
「――――何時咲くか知らないし。」
 地の中で眠る時間が。
「花の種は全て地に。咲けばそれは毒を宿してなお白き花。」
 過去ではないけど、地を毒とはしないように。
「一度犯された地を、空気を無毒に。」
 植物の発する酸素が、蒸発した水が。汚染した空気を。
「本には、実行まで十年を切った時にこの記述を読んだものは、花を咲かせるのは実行日に合わせよと。」
 だから、どうしろと?
 取り込んだ毒を使って花を咲かす。咲かすことに毒を使い切る。―――だから、
「まだ、咲かないんじゃないの?」
 時間をかける。かかる。壊すのは簡単。戻すのは大変。今は、長い計画を立てた後だからさらに面倒。
「まだ………」

「問題無い」
「?―――!!!!?」
 真夜中、光る目の色が金に輝いた時。暗闇の中、足元の地面が盛り上がった。地を押しのけるように伸びた芽。双葉が生まれ天に伸びる。しっかりとした茎に伸びる細長いの葉。地を埋め尽くす緑銀の葉は、丸みを帯びているが先は尖り、ぎざぎざといえる。
 一輪の花の蕾が生まれ、地を向く。膨らみきって茎が天に向かう。開きながら空を向いた茎の先に膨らみ開き咲く白き花。

 暗闇に、白き花が浮かんだ。

 地面が白く埋め尽くされる様子は、雪の日を思い出す。芽吹いて咲くまでは本当に一瞬の出来事だが、花が咲く時だけは、蕾が開く時だけは、とてもゆっくり。
 地面と言う地面に。人間と、人間の構築物が置かれた場所以外に花開く。壁の隙間さえも。舗装(ほそう)された道の端でも。
 埋め尽くされた地は白しかなく、金の光と銀の鋭さを反射する。

 ―――――眩しいくらいだ。

「地を救いし白き花よ。その役目を果たせ。」
 言葉に答えるかのように、花びらが風に舞い上がった。
 花びらが、雨が上るように天へと向かい、…………消えた。
 ――――――――後に残ったのは、緑芽吹いた大地。瞬間に枯れて行った花々―――

「これでいいか」
「―――――――よくないでしょうがぁぁ!!!!!」
「何言い出すんだよ〜〜リール?いいじゃないかーーー」
「今更そんな明るく言うなぁ!!!!この爺!!!」
「じじっ!!!!?…………リール。お主五年前より性格がきつくなってないか」
「何が言いたいので?」
「僕わかんない!―――――ででで!!!引っ張るな!毛を引っ張るな!!」
「ふふふ〜〜〜円形〜〜〜」

「「「………………」」」
(楽しそうだな。)
 男三人が呆然と光景を見ている中、カイルは一人面白そうに笑っていた。



「――――――おい。」
「あ゛?」
「なんだ」
 いつまでも楽しく遊びそうな(?)二人に、呆然とするだけの男共と違って、しかし何処か面白そうにカイルは突っ込んだ。
「遊ぶのは楽しいだろが。続きは?」
「…………」
 ――――先が気になるのか?

「―――――」
 ま、いっか。
 スタンと、地に足をついて立ち上がった。
「…………え〜〜と?どこまで行ったけ?」
「花が散った。」
「――――――ラーリ様!何勝手な事してくれるんですか!!!」
「――――待て」
 何故、そんなにも怒っているのだ。
「勝手に毒を取り除いたら、他の植物が育たなくなる。」
「は?」
「だから、地に、水に空気に取り込まれた毒をこの島の人々の身体は、地に這う植物は必要としているんです。」
「何故」
「そうなるように今までこの地に毒を含ませて来たから。」
「そんなふざけた事ができたのは」

「「エアリアス・リインガルド」」

「――――っ!!!?」
 重なった言葉に驚いたのは、リールのほうだった。
「………ラーリ様?」
「お主より幾千年。生きていると思っているのだ?」
「………………」

 いくら私が足掻(あが)いたところで、そんな事はとても些細な事でしかないのかもしれない。
 だけど、それでは私が壊れてしまうから。


「……………はぁ。もういいです。」
「あきらめるなーー頑張れーー」
「殴りますよ?」
「…………殴ってから言うことか?」
 鈍い音が、した。
「ラーリ様なら許されるから。」
「――――勝手に決めるなーー」
「…………」
 なんなんだ、この仲がいいようでふざけあっている小娘とラビリンス王は。

「…………木の話はどうなった。」
 その質問は予想外だったのか、驚いたようにリールはカイルを見た。
「…………」
 ―――――まったく。ある意味で、ラーリ様より厄介な気がしない?コイツ。
「いったい何処に、植えたというのだ。」
 思い立ったように花を芽吹かせたラビリンスが言う。
「―――ここに、あります。」
 取り出した瓶は、地下の部屋から持ち出したものだ。
「ただ、一つはここに。」
 ゆっくりと地を靴の先で叩いた。
「はぁ?」
 意外だったのか、ラビリンスは声をあげた。
「植えてみたんです。――――まさか、芽吹かないなんてことが無いように。」
「残りは。」
「……………」
 その言葉を聞くと、リールは第二王子を見た。――――悲しいのか、哀れんでいるのか。責めているのか、呆れているのか。――――苛立っている?
「足りないんです。」
「―――何が。」
「数。」
 一つの島に、一つの種を。核を担う木は、急激に毒を浄化する花の力に、全てが対応できるように調節する。――――むしろ、花よりもこの地には必要なもの。
が、
「――――種は島と同じだけの数は無い。花の種は各島に蒔くことはできたけど、木は間に合わなかった。」
 追い出された故郷。剥奪された名前。――――もう、帰れない、帰らない。
 でも、ね。それでは願いは叶わない。―――――なんで邪魔するの、すでに死んだリインガルド。
 帰る、つもりだった。少なくても、その日(実行日)が来る前までには。――――誰にも見つからず、悟られず。
 だから、困った。
 予想外の出来事と、その後の行動。常に感じる一番多い視線は、変わること無い。

 一年前と。

「足りないはずがないだろう。」
 呆れたようにラビリンスは言い出した。
「はぁ?」
 どこか、答えはわかっているように、その言葉は聞こえた。
「―――用意できるのは、十八だろう。」
 否定はしなかった。
「聞いていないのか、一つ沈んだと。」
 “沈め”たんですか?
 ――――それが、本当。本の筋書き通りに進んだって、全ての島で浄化が成功するわけではなかった。沈まなければならない島。沈める島。消える植物。動物。
 ――――納得いった。島が沈むのは、計画に失敗すれば起こりうる事だったから。
「……………知っていたんですか?」
 そうじゃないと、足りないと、うまくいかないと。それは、これ(フォトス)が、邪魔したから――――
「お主が思っているより―――……」
 幾年、生きていると思っている?―――――それに、皆は、傍にいる。



 ねぇ、大丈夫?
 ――――大丈夫でしょう。だって、一人じゃないって思えるだけでも、島を出たかいがあると思わない。
 だから、ね、終わりにしよう。…………邪魔をする過去は嫌いよ。
「…………手伝って、ウィア。」
「は〜〜い!」
「ローゼ。」
がさっ
「シャス。」
「――――いつもそうだ、俺隠れるのは得意なのに。」
 何でそんなに簡単に見つかるんだーーーー!
「…………」
 一瞬視線を合わせただけで、何も言わなかった。なんだよ、俺には選択権はないのか。
「強制でしょ。」
 あっさりと、ザインの心の声に答えるようにリールは言う。

「ラーリ様。レピドライト貸して。」
 ―――――借り物か?
 きっと、リール以外は思ったはずだ。
「いくらでも。」
 種を持った者達が各島について、定められた場所に植え付けるまで。時間は、かからなかった。

 ――――ねぇ、見て。空を見てリディ!

 声が空を越えた時、日の出が近づいていた。




 もう、日は昇った。明るくて明るくて。
 例え心が悲しくたって、暗くたって、日は昇って沈むだけ。
 大切なこと。日がすぎてゆく。時間が経ってゆく。止まってほしい?戻りたい――――?


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