故郷編 〜真実〜


 淡々と話す言葉は、まるで何かの童話のようで、暗示のようで、理解すると言うよりも、頭に沁みこませるようだった。


「おいっっっ!! ちょっと待てっっ!!!」

 何かに気づいて叫ぶ男は、引きつって青ざめてこの世の終わりのような顔だった。

「じゃぁ……まさかっ……!!」

「そうね。今の王女が二人死んだのは、盛った毒の中和と与え方を、間違えたからに他ならないわね。」

 ――――――今の当主は権力に目のくらんだただのアホだから―――――

「救えないわね。」

「なっなっっ…………」

「先天的な病が発生するのは、王妃が身ごもったときから毒を盛っているから。世継ぎの王子なら後のことを考え生まれてから毒の中和をするけれど、王女なら一族の保険のためにそのまま。毒を中和しつつさらに盛って常に病気である状態にする。」

 病人がいる限り、薬師は必要だから。―――――計画を実行するだけの地位を確立するための行為の一つだ。

「その過程で失敗したんでしょう。本当に使えないもの。あの当主は。」

 ああ。と、思い出したように視線をさまよわせてリールは男に向けた顔で聞いた。

「第一王子は?」

「…………………………死んだ。」

 男は小さく静に言った。

「そぅ。………………おしい人材を亡くしたものね。」


「もしも知識と知恵と策略に優れた聡明さの初代エアリアスに誤算があるとすれば、計画の実行に近づいたこの時期の子孫が絶大な権力におぼれたただのアホに成り下がっていたことじゃないかしら。」

ろくに書を読み込みもせず、理解したつもりの知識で処方して。

「ここ数年中は腐ってきていたみたいだけど。」


「なんだよ、それ………?」
 愕然(がくぜん)として、男は言った。

「………本当だったら二年後に、一族以外の島人は息絶えるはずだったんだけど――――……その時ではない今に実行しているから逆に大変ね。」

「死人が出たところでどう対処すべきかもわからないでしょうね。―――――今がその時でないことに気づいているのかどうか―――――」

まぁ、知らないでしょうね。

「だから!!! お前は知っているんだろう! どうすればいいのか!! どうやったら助かるのか!!!」
「なによそれ?」
「だから、あの時試していたんじゃないのか!?」

「――――――――黙れ」

「っつ!! ……………。」
 男はその声に黙った。



 ピリピリとした沈黙が、降り立った。






 カイルは、降り立った沈黙の中で、これまで聞きとがめた単語を頭の中で反芻(はんすう)していた。

“エアリアス”

 この世界の人の中で、聞いたことのない人を探すほうが無謀(むぼう)と考えられる言葉の一つだろう。表立って出る言葉ではない。しかし、人々を捕らえて放さない魅惑的(みわくてき)な言葉。

 “シャフィアラ国一の薬師。不老不死を扱う一族で、その腕に直せない病はない。”

 事実「死の島」を「不死の国」へとした者。
 病を治す薬師として、世界が欲する一族。


 しかし、その一族が病を治すのはシャフィアラ国の民、ひいては王族のみ。―――――――表向きは。


 シャフィアラ国
 四大大国の一つシャフィアラ
 もともといくつもの島の集まりが、ひとつの国となっていた所だ。中心に置かれた島が首都となっている。海術と造船に優れる。

交流の皆無なシャフィアラ国の聞けるうわさはこれくらい。
なぜ――――? 交流がないのか。
それは、キリングタイム時に沈んだエルン大陸の影響である。
突然消えた巨大大陸のせいで海流は荒れ、渦を生み暴れだした。シャフィアラへと続く海路に立ち塞(ふさ)がるように。まるで、何物も寄せ付けないように海の流れは変わった。一年のうち何度も変わる読めない流れ。いつ狂うかわからない波。すべてを飲み込む渦。
高く低く。シャフィアラに近づく船は波のまれ渦に飲まれ海に消える。辿り着いた者も。帰ってきたものもいない。
誰も、行くことができない。
だから、ずっと、何の交流もない。


 しかし、幾年かの時をかけ、人々は船の通じる道を見つけた。だがそれも不安定なもので、季節が変わると消失したり、いきなり渦が生まれたりする。
 海図を描くのも、船を渡すのも必死だ。
 初代エアリアスが流れ着いたのもその影響だろう。運がよいとしかいえない。
 それでも、伝わるうわさ。“エアリアス”と、興味深い事実。

それは――――――




「黙れって言ってるのが聞こえないの?」
「来ない限り何度でも言う。」
「………………」
「リーディ! お願いだ!! せめて国に帰ってくれ。」
「で、私の同情を誘おうとでも?」
「見殺しにするような人じゃないだろ!!!」
「さぁ。どうかしら。」
「リーディ!!!!」
「うるさい。お前だけには言われたくない。もちろん、今は感謝してもいいけど。」

――――あそこから、出られたのだから――――




「何を逃げる?」
 一通りの思案の末、ある仮説にたどり着いていたカイルは再び問う。感じている違和感を解消するために。
「あんたに関係ないでしょ。」
 うっとうしそうにリールは言う。
「それでも、わかるだろう。」

 もし、目の前の人物が滅び行く国の崩壊を止められるなら―――――

「俺は必ず捕まえる。」
「…………………」

 自分の立場と、すべき事。“王子”という権力的地位と、肩書き。

「……………………………」

 無言になって、爪を立てた手を握る。親指が、人差し指に食い込む。

 怒り?

――――――――震えているリールの深い深い心情は、カイルにすらわからなかった。




「…………状況は…?」

 手を開いたリールは、言った。









「リーディ!!!! いったいどこに行くんだ!」
「いちいちうるさいわね。」
 次の朝、日が昇ると同時に部屋を出たリールについていく二人、と、騒がしい男。結局、四人とも睡眠らしい眠りはとっていない。眠れなかったというほうが正しいかもしれない。

 リールはアストッリドでは、とてもめずらしい森へと歩んでいた。数えるほどしかない森の一つは、海からの突風を防ぎ砂が舞うのを防ぐためのものだった。
 表面は砂で覆われた大地。歩くたびに足を取られ沈み後を残す。

 ゆっくりと、探し物をするように下と上を見上げながら進むリール。男は心配そうに声を荒げる。

「用意がいる。必要なもの。」

 いい加減切れたらしい。元から口数も減っていたがさらに口調が厳しい。それこそ、もう話しかけるなと言わんばかりだ。

「……………」
 男は、黙った。


 草花の少ない森。砂が侵略しつつある土を踏む。険しそうに細い木々を眺め、足元に視線を戻す。――――――あまり、豊かな森とはいえない。砂漠を渡る途中のオアシスのほうがずっとましだ。

「目についた薬草をすべて―――――あと、若い葉があればそれも取って来い。」
 いきなり男を振り返ってリールは言った。―――――もちろん。反論などできようか。

 男はすぐに行動した。足音が遠ざかる。


「何かいるのか?」
「あっちの草木花はすべて毒素が入っているから。―――――そうでないものを……………暇?」
「暇だな。」
「じゃぁ、メルトネンシス探してきて。」
「あるのか?」
「ないんじゃない?」

「なぜ探す必要がある。」

「「―――っ!!」」
 リールとカイルは、突然起こった声にはじかれて顔を向けた。

「…………ああ!」
「…………お前行け。」
 リールは存在を思い出したようで、カイルは当然のごとく命令した。

「………………………。」

 少し長い沈黙の後、レランは言った。

「それが何か私にはわかりませんが。」









 ばらばらと、荷物の中身を取り出しては確認する小娘。―――――なぜか、王子が植物であろうものを探しに行き、自分はここで手伝いをしなければならなくなった。
――――――………ここにいる必要性を感じない。




「お前は誰だ。」
「何が言いたいの?」
 質問に間髪いれず答えられた。

―――名前? 歳? 経歴? 家柄? 趣味? 両親?―――

…………何が、知りたいの?


「お前は、」


「リーディ。」
「何?」
「これしかない。」
いきなり現れた男に、話と中断させざるをえなかった。

「…………」
 二種類の葉を見て、少し思案した後、葉を水で洗い布にくるませた。

「仕方ないか。」

 収穫はないと言うように戻ってきた王子を待って、森を出た。向かったのは、男と遭遇した港町。









「船は?」
「さっきの森の下の入り江に行くように言った。」
 切り立った崖の裏側。森の下。隠された場所と、流れる海流の流れ。

「ふ〜〜ん。」

 まぁ、無難なところね。


 陰険な店で数種の乾燥させた薬草を買った後、王子に買わせた昼食を噴水の前で座って食べる小娘は、男とそれだけ会話を交わしたら、黙々と数人前を食い尽くした。



 何も言わない。何も。でも、必要な限りの用意はあるし、そして、そんな説明も要らないようだから。

 ――――――王子には。説明がないのも気にならないし。ついて行くのが当然のようであるから。

 いったいこの面子はなんなのか?

気にしているのは自分だけだ。もちろん、現れた男がこちらを警戒していることは当然だが。








 人気の多い通りから、人気のない入り江まで。旅人はめずらしくないようで、特に気にかける人もいない。世話しなく動く人々。あふれる声。流れる潮風。――――――そんな中を、無言で四人は通り過ぎた。


Back   Menu   Next