故郷 〜黙れ〜


じゃり……
 地と砂を踏んで歩く音がする。
「ここまで来て、勝手に行こうとするな。」
「邪魔」
 どこかに歩き去るリールに、リンザインが邪魔をした。
「何時までここにいる気?このままだとローゼもウィアもここに来てしまうけど?」
 あの肉片を見せたいなら話は別だけど。
「………」
 今すぐにこの場から立ち去る気のリールの言葉に、リンザインは黙った。
テクテク……
 何も言わない男をおいて、リールは歩いた。
 歩き去るリールについていったのはカイルとレランで、それからリンザインとフォトスが追った。国王は、一度エアゾールを見下ろして、木に近づいたが、そのまま城に向かった。



「…………もうすぐ」
 その時が。動き出す。

『その時が来たら、我の手足となって働け―――――』

「お主は、我を怨むか―――――?」
 ―――――あと、一匹。

 もう、時間が無い。それだけに、切実だった。どうする?もう、すぐだ。今か今かと願った時が来ることに、問題はない。だが…………

「――――少し、介入しすぎたか……」
 あとは受け入れるだけだ。ただ、ただ一つ――――――
「…………今更か」
 願わくは…………いや、――――大丈夫か。
 一人じゃない少女を見て。
「願わくは、いつか」

 心に平穏が訪れることを。


 ただ一人ラビリンスが、空を仰いで飛び立った。





「おいっ!!!ちょっと待て!!」
 早足で海に向かうリールに、走って追い抜いたリンザインが前に立った。

「………」

「―――何処に行く気だ」
「さっき国王が言ったでしょう?私は、ここにいるはずの無い者。」
「よくまあ引っ掻き回しといてそんな事が言えるな。」
「それは、あっちに言って。」
 睨んだ視線は第二王子だった。
 こっちに来て険悪なリールの態度、行動が、一番きついのはこの第二王子な気がしていたのは、案外外れてはいないらしい。

「―――とにかく、出航は明日にしろ」
「どうにか同情を誘って、私にこの島にいるようにさせようとでも?」
「っ!…………そうじゃない!」
「…………ふぅん………」
 まったく相手にする気のないリールは、投げやりだった。

「…………」
 レランは安心していた。もしこれでこの島に居座られてみろ、いったい何時エルディスに帰れることか。
「…………ん?」
 カイルは、いまだに言い争っているリールともう一人エアリアス家の人間の後ろの空から、何かが近づいてきているのを見た。

 それは、他の島に行っていたエアリアス家の人間と、レピドライトだった。


「リディィィーーーー!!!!」
「は?」
どしゃぁ!!
 叫び声に反応すると同時に、リールの上に落ちてきたアンダーニーファ。
「ねぇリディ!あのねあのねぇ!思い出したの!!『塔の中のリディ』だ!」
「………どけ」
 いくら受身とかいろいろ知ってはいても無理でしょうが。
 リールはアンダーニーファを抱きとめるように地面に仰向けに倒れた。

 まったく相手にしていない低い声に、驚いたのはアンダーニーファだ。
「………ふぇ…」
 目に涙が浮かんできている。
「ほら」
 後ろから、リンザインが抱き上げる。
「〜〜〜ひっ………」
「いきなり飛び降りれば、誰だって怒るぞ。」
「だって………だってぇ……」
 本格的に泣き出しそうなアンダーニーファ。リールは大きくため息をついた。

 アンダーニーファを乗せていたレピドライトがおろおろする中、ローゼリアリマが地に下りたのを確認して声をかけた。
「ありがとう。ラーリ様によろしく」
 声に礼を返した幾匹ものレピドライトは空に消えた。

「…………」
 ゆっくりと息を吐いた。ほとんどため息に近かったけど。
「いらっしゃいウィア」
 ザインから受け取って、抱き上げた。
「ひっ………ひっく……ぇ……」
 小さく泣き出したアンダーニーファ。
「よしよし、悪かったから……」
 ――――私が、ここにいることですら。
「だって、だって、リディだよ、塔の中のリディだよ。」
 涙声で必死に言う。
「……ひっく……小父様が、………ひっ……」
「?」
 いったい、何を吹き込んだのか――――
「死に掛けてる奴は全部まわすって……ぇっく…」
「ああ」
 島の住民の診察の話?
「皆ひどいの………ぐすっ……死を運ぶ女だって言うのよ……」
「そう」
 まぁ、事実であるかもしれないし、そうでないかもしれないし。
「一度………入ったのに……」
「……どこに?」
「リディが、夜に……」
「うん?」
「助けることが出来なかった日に、夢にうなされて“行かないで”って……」
「お黙り」
「!!!………ひっ……ぁあ〜〜ん!!!!」
 ピシャリと言い放たれた声――――恐ろしいのか、それとも邪魔者扱いなのが悲しいのか。ひどく驚いた顔をしたアンダーニーファは、それでもリールにしがみ付いて本格的に泣き出した。

「…………」
 ――――何?足止め?
 泣き出したアンダーニーファがしがみ付いているのが、泣き出させた張本人で、今も冷めた目で見下ろしている。

「おーーいい!どうなった――――?」
 空からまったく状況がよめていないシャジャスティの声が、明るく響いた。

 いくらついても尽きないため息をついて、リールは歩き出した。かつての家へと向かって。

 ――――どうしろってのよ。しがみ付いたまま泣き疲れて眠っちゃうし。部屋につれてって引き剥がすのがどれだけ大変だったと思ってるわけ。



バン!!!
 荒々しくアンダーニーファの部屋のドアを閉じた。正面に立っていた人物から目を逸らして。しかし、何も見ない振りはさせてくれないらしい。


「リーディ」
「なんだって、余計な事をしてくれたの」
「――――人が言うほど、悪巧みをしているとは思えなかった。」
「何よそれ」
「あの塔の中で、毒を撒くのではなく取り除くために薬を作っていると。それは毒薬ではないと、どうにかして証明したかった。」
「で?」
「だから、あの時…」
「そして私はこの島を追われた。―――他に何かある?」
「それは………」
 フォトスは言葉に詰まった。



「………えっっと……お茶でもいりませんか?」
「そうだな」
 必死にカイルに話しかけるローゼリアリマ。この家の中で全員が集まるといえばこの部屋!で、ソファに勝手に腰掛けたカイルに。―――何故か?それはリールが一言、ちょっとここで待っててと言ったからに他ならないだろう。
 リンザインは一度執務室に行くと言い、フォトスはいない。シャジャスティはソファに座ってあぐらをかいている。レランはまたカイルの後ろに立っていた。沈黙に耐えかねたのはローゼリアリマで、一応客らしき?カイルに声をかけて、お茶を入れるべく部屋を出た。

「――――物好きだね」
 何処か嘲笑するように、シャジャスティが声をかけた。
「それはお前たちだろう」
 あっさりと言い返したカイル。少年は黙った。


 ――――“待ってて”――――
 言葉が何度も反芻する。
 ――――まったく。


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