故郷編 〜お茶会〜


「こんにちはーーー!!!」
「…………誰だい? ……」
 声に反応して、用心深く扉が開けられた。隙間からのぞく目が、リールを捉えた瞬間!!
「リアっっ!!! リアス様!!!」
 ばん!! っと扉を開けたかったらしいが生憎(あいにく)、取り付けてあった鎖によって阻まれた。
「この…!!」
 高齢の老人は恨めしそうに鎖を睨んで一度戸を閉める。閉められた先からあわただしく鎖がはずされた。
「リアス様!!!!」
 鎖が取れたらしい扉から、ご婦人(高齢)が飛び出してきた。さっきのじじいは?
「元気そうで!!」
 抱きしめられたリールは、うれしそうにされるがままだった。
「わしを忘れるな!!!」
 中で押し倒されたらしい老人ががなり立てる。
「忘れてませんよ!! クーナー。あれから体の具合は?」
「それはな………」
「何しているのですかあなた!! まずは中に入ってもらわなきゃ! お疲れよ!!!」
 婦人の声に、話をさえぎられた男は従った。



「しかし、大きくなって!!」
 ぐしゃぐしゃと髪と頭をなでる。
「それにきれいになったな?」
「ははは……」
 リールは苦笑いだ。
「何言ってるんですか! 当たり前でしょう!!」
「それもどうかと……。」
 さらに苦笑いだ。

「それで、王都の様子は?」
 はっきりとリールは切り出した。
「「……」」
 夫婦は沈黙した。――――まるでふれてほしくないと言わんばかりに。
「なぜかと、問うても?」
 老人が言う。
「私がここにいるべきでないことは、よく知っているでしょう?」
「何をしに?」
 婦人が聞いた。――――震えている?

「――――そうね。真実を確かめるのと……すべき事を。」

「ここにも、何も届かない。」
 風のうわさも、人の声も、誰も来ない。
「もう、半年は経つ。」
「そう。…………船は?」
「用意してある。」
「さすが!!」
「今夜は! ここで休むんだ。――――いいね。」
「――――いいわ。」
「必要なものは用意しよう。」
「ありがとうじゃぁ、食料と水。寝具と、……それから、お酒と甘いものを―――」

 甘いもの??
 リール以外の全員が、首をかしげた。
(唐突だな。)
(まだ食べるか。)
(好きだったね〜〜)
(日持ちの良い物を…)

 三者三様、十人十色。それぞれの考えは、すべてはずれだ。







「なつかし〜〜〜」
 小さな、海につながる洞窟(どうくつ)。岩が波に削られて、形が一定ではない。家の床下の扉をくぐって、階段を下りた。その先。上は高く、黒岩が天井と壁を覆っているが、海に出る出口が近いからか、明かりは必要なかった。ただ、波が絶えず打ち付けるので、足元に注意しつつ進んだ。
 老夫婦は、足が追いつかないと家で見送った。リールの声が反響する。真っ黒い岩を超えて、もう、海は目の前だ。

「――――こっち!!!」
 リールの呼ぶ先に来ると、―――――なるほど、二人乗るくらいがちょうどよさそうな帆走船が、しっかり黒い岩と縄でつながれている。

「………本当に。」
 お人よしが多すぎじゃない?
 船の帆は真新しく、救命用の浮き具と、縄。水をはじくシートに、毛布。水を入れる皮の袋に――――必要なものは一通りある。
―――――あれから、ずっと用意し続けてきたのだろうか?

 小さい船は、ひどく波にゆらされる。特に、上下に。

「荷物はこっちに。」
 小さいながらも収納はしっかりしている船。足元に作られた戸を開いて、リールは荷物を押し込んだ。
「……とっ……」
 ――――さすがに、ゆれる。
 なれないゆれに苦戦するも一時。
「行くよ!」
 真新しい帆を眺めて、リールは縄を切り落とした。

 洞窟から出るなり風に襲われる。それでも、目的地に着くようにリールは帆を動かす。

「風が強い――――」

 それきり、しずかになった。――――あまりのゆれと迫(せま)りくる波に、しゃべる暇がなかったとも言う。






 長い夜が明けて、この島に来て三日。もう、眠れない―――――ここで休むように言われた、家………窓を、眺める。外を、海を見る。

きぃぃぃーーー
「寝ないのかい?」
「なぜ?」
「いつも、寝ていないのでは? 眠る姿を拝見したことがありません。」
「そうだったかしら。」
「連れの二人とは、仲がいいのかい?」
「いいも、悪いも―――――……」
―――――でなければ、一緒にいるはずがない。

 老人は、リールが窓を見るベッドの横に座った。
「どうして、こちらに?」
「バカが探しに来たのよ。」
「第二王子様が? そんな話が?」
「そんなあほな話だからどうしようもないわ。」
「………何をするために、何をする気なのかは存じません。ですが、またあえて光栄です。エアリアス様。」
「……」
 リールは黙った。
「……おやすみなさいませ。旅の無事を。」

「おやすみ。」
 閉じられた扉は見ないで、また視線を海に戻した―――――

……………――――これは、夜の話。








ザーーン! ざざーーん!!!
 激しい波ながらも、身にかかることは不思議と少なかった。


ざっ!!
「よっと!!」
 今度は、足取り軽く、一番に砂浜に降り立ったリール。

「さぁ、行くか。」
「ここはどこだ。」
 レランが呟いた。
「…………?」
 リールは振り返った。
「………………ああ!! ここはシャフィアラの第八の島。」
 今の間は何だ今の間は!!
「また森か。」
 うんざりとカイルは言う。
「森しかないわよーー」
「王都のほうにいかない限り。」
 それでも、木ばっかだけど。

「何なんだこの島は。」
「シャフィアラ」
 レランのもっともな問いにもっともな答えをリールは返した。
 絶句して立ち止まってしまったレランに、リールは言った。

「早くして頂戴。日が暮れたら………」

「あんたのせいよ。」
「お前のせいだな。」

 息の合った嫌がらせに、レランは黙した。――――まぁ、本調子に戻ったとも言う。リールが。カイルのいじめはいつものことさーー









がさがさ。がざがざ………
「いったいどこまで行くんだ?」
 ともすればリールが埋まりそうなくらい茂った草の中を、迷うことなくしっかりとした足取りで進むリール。逆に、カイルはなれないようで苦戦気味だ。レランは、自分より低い草など相手にならない。
「………刈りますか?」
「だめよ! ここは人間がいじっていい所じゃない。」

―――――じゃぁ。何だというんだ。






「――――――いた!!!!」
「「!!!?」」
 突然声を上げたリールに、後ろの二人は驚いた。
「おい……」
 しかし、カイルの言葉が届くことはなかった。
 見上げた空には、羽の生えた――――――動物!!? 例えるなら、そう、“羽を持つ獅子”と言えるだろうか。ブロンドの毛をなびかせて、風を切って空を渡る。獅子……

と、突然。

「ラーーーリ様!!!!!!」
 地に手を向かわせ、握りこぶしひとつ分はある石を拾い、――――リールは飛んでいる獅子に投げつけた。

カコーーン!!
 よくわからない音ともに、獅子は墜落した。

「……………おい……」
「何をした小娘」
 二人は、呆然であったり、驚いていたり、あせっていたり、………忙しそうだ。

「あっちか。」
 そして案の定聞いていない。

 ……走り出したリールに、ついていくしかない二人。



「っって〜〜〜何? 敵襲?」
 何の敵だよ。
「僕が知りたい。」
 後頭部を抑えながら、立ち上がった少年。ブロンドの短い髪に、銀色の目。まだ幼さとあどけなさが残る顔立ちは、年より若く見られる事だろう。―――――もっとも、人ならば。

「ラーリ様!!」
ガザァァ!!
草を押しよけて、リールは少年の前に現れた。息が切れ気味なのを見ると、どうやら相当急いで来たらしい。―――――後ろに二人おいてきてね。

「…………リール?」
 声に驚いて少年が振り返る。
 かち合った視線に、リールは笑った。
「リール!!」
「ラーリ様!」
リールの腕の中に納まる少年。大きさは同じぐらい?

ピシィ
 後ろで猛吹雪が起こっていることは見てはいけない。気づいてもいけない。今なら、まだレランが寒いだけだから。

「お久しぶりです!!」
「――――どうして? でも、また会えてうれしいよ!」
 えへへと笑うリールの目には涙が浮かんでいる。

「王」
 反対の茂みから声がかかった。
「シーン。リールだ。」
 少年は声をかけた。
「リール様?」
「久しぶりねシーン。」
「お会いできて光栄です。再会を喜ぶのは、お茶にしてからでもよいかと。」
「あ! お菓子もって来たんだよね。」
 笑って、リールはこちらを振り返った。

――レピドライト――

 口だけ、動かして。





「リールが作ったのか?」
「いいえ。そんな暇ありませんから。」
 なぜか、草の上でお茶会をしている二人。一杯目はカップにお茶だ。が、しかし………

「また食べたい!!」
「いいですけど………時間があれば。」
「あなたが行ってしまってからは、町に買いに行くのが一苦労でしたよ。」
「へ〜〜行ったの?」
「王のご命令ですから。」
「好きだから!!」
「おいしいもの」

「「ねぇ〜〜〜」」
 リールと、少年の声が重なった。

「リール今から作って!! あのケーキ!!」
「え?」
「シーン!! 準備を………」
「小麦粉ですか………」
「ラーリ様!! ここでは材料があっても道具がないから無理です。」
「…………そう? なの?」
「ええ。今度作りますから。今日は、これで。」

 目の前には、用意してあった“甘いもの”と、“お酒”。よくまぁ、菓子と酒が同時に飲めるものだ。
 リールと少年は、どうやら知り合いのようだ。―――――いや、レピドライトの王と。

 聖魔獣のひとつ、空を翔ける者、レピドライト―――シャフィアラの。


 その事に気づくのと、リールが振り返るのは同時だった。


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