「だから、追ってくるんじゃぇっーーー!!!」

 城の中に、叫び声がこだまする。

 その始まりの合図のような切羽詰った声に、誰一人、同情もしない。
 ただ、哀れむことも通り越して、迷惑がられる。



追いかけっこ 〜どっちが弱者か一目瞭然〜



・エルディス王子の場合

 叫び声がする。

「またか。」
 そう言いながらも、目があった兵士に釘を刺すことを忘れない。

 ひらりと塀を乗り越えて。


・オークルの場合

 叫び声がする。

「………」

「オークル殿!!」

「………はい?」
「王子はどちらに?」
「今は休憩時間ですので部屋に…」
「いらっしゃらないのだ!!」
「ああ………(でしょうねぇ、たぶん頃合を見計らって城下に……)」
「お伝えしなければならないことが!!」
「……どこか書庫にでも行かれているのでしょう。休憩が終わる頃にはお戻りになるとは思いますが。」
「では、手分けして探されよ!」
「…………あなたが王子に睨まれて下さるならばそういたしますが?」
「………ぁ、いや……やはり明日(あす)にしよう。」
「そうなさるのがよろしいかと。」

 叫び声がする。

「さて、と。」
 慌てふためいて消えた男。
「私もどこかに避難しておくか。」


・セイジュの隊の一兵士の場合

 叫び声がする。

「隊長……またですか……?」
 さっきまで部隊の指導(とは名ばかり)をしていて、終了。勉強を終えられた王子の下にいくかと思えば……きっとまた昼寝をしていたのだろう。

 まっすぐ王子の下に向かったためしがあるのかわからない。

「…………こりませんよね。」
 廊下を全力で走る影を見届けて、兵士は見張りの交代に行った。


・ナクテス&カクウの場合

 偶然、居合わせた。
「あ!」
「あ」
「久しぶりだ!」 
「だな」
「元気かねぇ〜みんな!」
「そこら辺の心配は…」

 見知った兵士が開けた城門を潜れば、“叫び声”がする。

「…………」
「…さぁ始まりました名物大会!!?堅物レランと二枚目セイジュの追いかけっこ!勝つのはどっちだ!?今なら間に合う賭け金は、最低5ガルからだよ〜〜って!?何で殴るんだよ!?」
「いや、一応……」
「サブタイトルは、“〜馬鹿だね、弱者は決まってる〜”なのに!?」
「………」


・レランの隊の兵士の場合

 叫び声がする。

「………」
 いや、“その事”自体は特に珍しくもなんともない。初めのほうこそ賭けの対象であったが、気がつけば皆賭ける所が同じなのでまったく賭けにならなかった。
 問題はそうではない。いまだかつてないほど冷や汗をかきながら、俺は目が離せなかった。“蛇に睨まれた蛙”とは、まさにこのことだろう。

 単純な事だ、普段通らないような塀際の道を歩いていたら、見てしまった。そして目が合った。木から塀の上に飛び移る王子様。

(………どうする?)
 落ち着け、俺はエルディス国グランディア城の兵士だ。とてつもないほど下っぱだが。
 これでもレラン隊長の部隊に所属している。

「………休憩時間か?」
「………は!!」
 小さく舌打ちをしたあと、王子様はいきなり声をかけてきた。頭が混乱していたので、気がつくのと反応するのは時間がかかってしまった。
 質問に答えていなかった事にすら気がついていない。
「…休憩か?」
 幾分苛立った王子様の声が響いて、さらに姿勢を正した。
「はい!!?」
「―――少し黙れ。」
「はっ!!」
 返事にならない返事に、王子様は見るからに不機嫌になっていた。

 正直、減法ですめばいいほうだと思った。田舎には母と、嫁に行き送れた姉が住んでいるが、俺の給料が送れなくなればどれくらい苦しいのだろうか?―――まさか!?実はそれとも俺の給料なんて滓(かす)程度にしかならないくらい向こうでは成功しているかぁ!!?

 激しく意味のわからない事で混乱していた事を、王子様は見て取ったらしい。

「お前は今休憩時間ということは、見張りの兵ではない。そうだろう?」
「―――はっ?………はい……」
 まぁ、確かに。
「だとしたら、今これから俺がすることをお前が見張って止める必要もないだろう?」
「…………はい?」
 えっと?
「よかったな今が休憩時間で、見張りの時間だったらお前俺を追って撒(ま)かれてレランに怒鳴られるところだからな。」
「………」
 ええまぁ、確実に撒かれるでしょうとも。この国の王子様を止められる(例え無駄でも言い出せる)のはレラン隊長と相場は決まっている………。
「しっかり休んでおけ、夜にまた仕事だろう?」
「はい………」
 減法も、解雇もないらしい。そこにほっとした上に混乱する頭を整理することもなく。休むという言葉に魅力を感じ、ベッドに横たわる自分を想像した。
「人間休息は必要だからな。貴重な時間、“無駄”にするなよ?」
「はっ!」

 人当たりのいい笑顔を向けられて、俺は礼を取った。

 瞬間、塀を飛び降りるエルカベイルの口端の歪み具合は、見えるはずもなかった。


・廊下を掃除していた侍女の場合

 叫び声がする。

「あら。」
 水ぶきモップをいったん壁に立てかけて、真ん中に置いといたバケツを端に移動する。
 二人はさすが軍人というか、揺れた床でもこけないし、すべる事はない。
 人通りの多めな廊下であるから、拭くたび拭くたび人が通るが仕方ない。

 広い城の中掃除している場所は、再び通らないようにセイジュが気をつけていると気づいているだけに、早く通ってほしかった。


・植木を刈っていた庭師の場合

 叫び声がする。

「…………」
 “来る”。
 たらりと、汗が流れる。

 総出で集める緑の木の葉。


・エルディス国王の場合

 叫び声がする。

「………あれも、真面目なんだが、大概(たいがい)裏をかかれているな。」
 その間に城下に下りる息子。
 リヴァロは、従弟の批評になんとも言えず黙した。

「あれは、うまく遊ばれているというか。」
「………」
 どうやら、切りつけられたらしい。“人に切りかかるな!”と聞こえる焦り声。

「…………そこら辺は、ほめてやるべき事なのか?」
「………私には答えかねます。」

 真面目な護衛をだまくらかす息子、やる気のない護衛でうまく遊ぶ息子。
 息子の成長を手放しに喜んでよいのかどうか、真剣に悩みだした国王であった。


・野菜を運んだ農夫とその息子の場合

 叫び声がする。

「父さん?何の声?」
 少し怯えたように息子が問う。
「あれは、自分の仕事をサボった人が罰を受けなければならないのに、見苦しくも逃げ回っている声だよ。」
 ―――なぜか、内部事情に詳しかったりする農夫。
「罰?」
「そうだよ、きちんと仕事をこなさない人は、皆見ているからね。」

 さらに、叫び声がする。

「――――ひっ!お父さんお父さん!僕の下にも罰がくるの?」
「はっはっはっ!セズはまだ子どもだからね。大丈夫、罰は大人になってもまったく仕事をしようとしない怠け者の所に来るんだよ。」
「だから、お父さんもお母さんも隣のおばさんもいつもいっぱい働いているの?」
「そうだね。大人になって仕事を持ったら、その仕事に誇りを持って一生懸命やるんだぞ。でなければあの叫び声を上げる見苦しい人になってしまうからな。」
「うん!!」

 ―――どこかで教訓になっていたりする……


・エルディス王妃の場合

 叫び声がする。

「まぁ楽しそう。」

 そんな王妃の目の前を、一陣の風が通り抜けた。



Menu
おまけ
・偶然見ていたリールの場合

 叫び声がする。

「ぅわ馬鹿じゃない?」
「おい!」
「ん?」
 首を上げて後ろを見る。逆さまの世界に、軽装のカイルが映る。
「あれ勉強は?」
「終わりだ。」
「あそ。」
「行くぞ。」
「どこによ。」
「城下だ。」
「…あれはほっといて?」
「あれ等はほっといてだ。」
「―――その服、目立つんじゃない?」
「お前がおとなしければ問題ない。」
「どーゆぅ意味よ?」

 レランが王子を探しに来れば、二人は部屋にいたりする。