リール一人旅〜襲撃〜


ガラララララ……

(なんだかな〜)
 領主の用意した小型の馬車が山道を進む。小さな馬車は四人ほどしか乗れ ない。しかし、中には三人しか乗っていない。手綱を握るものが必要なので、 六人全員が中に乗る事はないが。

チラッ
 ひじを突き見ていた青空から視線をはずし、正面を見る。
(「嫌ですわ、こんな狭い中にぎゅうぎゅうづめなんて!!」)
 領主の娘セラセニアは、二人は座れる椅子を一人で悠々と座っている。
 隣のガドルは目を瞑り、微動だにしない。
(はぁ……)
 心の中でため息をついたリールは、ほとんど景色の変わらない森の木々を 見る。時間は、もうすぐ昼になるだろうか。




ギイィィィッ――――

「よかったと思いません?」
 邸にいた奥方は領主の執務室に入るなり、窓辺に立ち外を眺める夫に近づ きながら話しかける。
「何の話だ」
「何をおっしゃいますか。いくら雇われているとはいえ、殿方ばかりの中に セラセニアを置くわけにはまいりません。御一方、女の子がいたでしょう。 それに、これで[ネイ]とのゴタゴタも一段落するでしょうし」

「……重要なのは馬車が向こうに着くことだけだ。あれ(セラセニア) がどうなろうとも」

「は? 何かおっしゃいました?」
 やっと声が普通に届くほど近くに、隣に立った奥方が聞き返す。
「いや。――――何事もなければよいが」
「昼夜を問わず、獣の群れに襲われると言いましたよね」
「生き残りの報告ではな」
「なぜ突然このような事に、無事であるといいのですが」
「そのための護衛だ」
「それはそうですけど……」

(そのための、護衛だ)

 館の後ろに広がる山。どこかで馬車を走らす者達の安否を祈るのは何のた めだろうか。





 馬を休ませる事意外は休憩を挟まず、ずっと道を進んでいる。相変わらず セラセニアはこちらを見下しているし、ガドルはまるで眠っているようだし。 リールは手綱を握る事を替わるつもりだったが、(「嫌です、殿方のみとこ んな狭い中にいるなんて」)セラセニアの一言で目的地に着くまで座って いるだけとなった。
 それにレステッドはガドルと一緒にいることを拒んだし、センは狼が現れ た時、自分の力がいると言う。結局、手綱を握るのはラバリエとセン。後ろ の、人が座れなくもない台に座り込んだのはレステッドだ。


 そして結局のところ、何事もなければ元から護衛など不要だ。

 リールは剣を抜く。ガドルは馬車の中の狭さに悪態をつく。
「な! なんなのよいきなり!!!」
 セラセニアは突然沈黙を破った二人の行動に驚く。
「黙ってろ、死にてえのか」
「な!」

バァンッガンッ
 セラセニアの非難の声より先に、馬車は激しく揺れた。


 外でも、何かの気配を察した三人は動く。
「私がやる」
 握っていた手綱をラバリエに渡し、センは進む先に矢を向ける。近づいて くるものは狼。群れを成し一斉に近づいてくるが、センは先頭に立つものに 弓を引いた。あっという間に多くを殺す。しかし、積み重なる獣の死体を避 けるため、おびえる馬を抑えるために、馬車は街道を離れるしかなかった。 

(しまった)
 街道を離れ、今や道なき森を馬車で無理やり走り進む。センが弓矢で、レ ステッドがチャクラムで獣を殺していくが、いかんせん数が減ったように思 えない。
(このままでは……)
 ラバリエは自分の剣を見る。それに、中にはもう一人剣士と槍使いがいる。 この三人は馬車が走るこの状況では本気で戦えないだろう、どこかで停まっ たほうが自分たちも応戦できる。しかし、隣で矢を射続ける男を見る。
 プライドの高そうなこの男は、はたしてこの提案をうけいれるだろうか。

バァンンッッ!!
 馬車が左に傾いた。
「!」
 驚いて振り返ると、数匹が馬車の横を走り入り口に体当たりをしている。
「ガウァアッ」
 一匹がもう一度体当たりをしようとした瞬間。

バン! ザシュゥザンッッ
 開いた入り口から出てきた剣に切り裂かれた。

「ちょっと! いつまで走ってるのよ! いい加減で停まりなさいよ!!!」
 顔をだしたリールは前に向かって叫んだ。
「そのとおりだな」
 馬車の中ではガドルが槍を取り出した。短く折りたたまれた槍は、引き伸 ばして使う。セラセニアは何が起こっているのか理解できないのかしたくな いのか、悲鳴を上げた。
「停まってしまったら食われてしまうわ!!!!」
「アホか。このままじゃどの道お陀仏だよ。死にたくなかったらおとなしく ここにいろ」

 外では馬も逃げ出しそうだがそれをラバリエが押さえる。森の切れ目、少 し開けた場所。切り立った崖の下で馬車が停まる。

「出番だ」
 ガドルはさっさと出ていった。リールは震えているがこちらを睨むセラセ ニアに言う。
「雇われているんだから仕事はこなすわ。ただし、勝手に外に出ないでね。 あなたが逃げ出して殺された事にまで、責任持てないもの」
「見捨てるき!!?」
「ちがうわ。護衛してやるからここにいろってこと。勝手に動かれるとこっ ちが迷惑なの」
 返事を聞かず馬車を出る。そして外から入り口を閉める。鍵をかける事が 出来ないので、紐で持ち手とその下の車輪を結ぶ。
「これでよし」
 きつく紐を結んだリールが振り返ると、ドコかで見たような光景が。しか し、あの時のほうが迫力あったなと、のんびり思う。

 馬車を取り囲むように並ぶ五人の人物に、狼は一斉に襲い掛かった。



「チッ」
 センはここに来て初めて不機嫌そうだ。
(なんだってこんな事に)
 そう、自分の弓の腕前を持ってすれば、こんな獣などに苦戦する事などな いはずだった。しかし、今ではなれない接近戦を行うほかどうしようもない。 鏃(やじり)を直接額に突きつける。ちなみに、矢は領主にこれでもかとい うほど用意させた。
「しつこいんだよ!(……………は!)」
 気付いたら、左から狼が襲ってきていた。

(しまっ―――!)

ザンッ
 横から、ラバリエが応戦する。
「これを使え」
 センが受け取ったのは、剣というには短い、しかし、短剣よりは長めの剣 だ。
「………………」
「もうおしまいか」
がばっ!
 勢いよく顔を上げたセンの見たものは、狼の群れに突っ込んでいく二人の 人物と、援護すべく構える レステッドだ。

「おりゃぁ!」
「は!!」
 槍使いと女剣士。ガドルとリールは、狼が近づく範囲を徐々に遠ざける。 二人の攻撃範囲に入らない場所を、レステッドがチャクラムで補う。広い範 囲というよりは、大きな群れから外れた狼を主に攻撃の対象にしている。

「気を抜いている暇もないと」
 ラバリエは馬に噛み付こうとする狼を切り裂く。そして、五人に聞こえる よう声をあげる。
「どこかに群れを引き連れてきた頭がいるはずだ」

「知っている」
「探してはいるんだけどね」
「ごめんなさい。わからないです!」
「……………」
「簡単にわかるところにはいないようだな」

「どっちにしたって、ザコより前に出てくるはずないじゃない!」
 リールは向かって来るものの相手をしながら、自分から正面に突っ込んで 行った。
「じゃまだ〜〜!!!!」
 どうやら、群れを成す狼も底を突きはじめていたようで、突然、リールの 前にこれまでの狼の三倍はありそうなのが現れる。だがしかし、そのサイズ に見慣れていたリールは……

ザアァンッ!!!!!
「ギャゥウッ!」
 首元に斬りつけ、すぐに距離をとる。
ピクッ
「!!!」
「なっ!」
「ほぅ」
 リールが最後に切りつけたのが頭だったのだろう。群れを成していた狼の 勢いが消えた。
 自分を切りつけた人間を睨みつけていたような狼の頭は――――仲間をつれ走り去った。
 
―――――後に残された人間は、セラセイアの怒鳴り声を耳にした。

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