リール一人旅〜休息〜


「何処に行ったんだ」
 薪(たきぎ)を集めに行っていたセンは、帰ってきた所に二人しかいない 事を不審に思い、食事の用意をしているラバリエに聞く。


 あの後、とりあえず馬車の中から救出されたセラセニアの一言目はこれだっ た。
「なんなのよこれ〜〜!!!!!!」


「お風呂に入りたいんだそうなんです」
 水を汲んできたレステッドが言う。

 とりあえず狼の死体で埋まった崖下を離れ、また馬車を走らせてきた。ひ とまずは落ち着いたのか、その後襲われる事はなかった。
 日も暮れ、もう馬車を走らせる事が出来ない。少し開けた場所にとどまり、 今日の夜はその場で野宿 (セラセニアは馬車の中だろうが)になった。
 まぁそこでもまた騒ぎ出したわけだ。


「なんですって?」

 最年長のラバリエは、今日の野宿の場所を決め、センに薪集めを、ガドル に獲物を捕らえるように言った。ちなみに、夕食に狼を食べよう! という リールの案は却下された。二人が行動に移った後、どうやらやっと話が理解 できたらしく、セラセニアが聞き咎(とが)めた。

「ですから、今日はここで寝る事に……」
「ありえませんわ!! どこでどう寝ろと言うのですか! それに、お風呂はありませんの!?」
「………。レステッド、水を探してこい」
「聞いていますの!!?」
「リール」
「ん〜?」
「人の話を聞きなさい〜!!!」
「セラセニア様」
 ラバリエはセラセニアを正面に見て、小さな子でも諭(さと)す様に言う。
「私たちは貴方の護衛をするということで、{オル}の領主様に雇われまし た。しかし、ここは貴方のいた邸ではない。貴方の望む事すべてが、ここで は叶うわけではない」
「………う〜〜……」
 セラセニアは不服そうだ。

(いったいどれだけわがままに育ったんだか)

「あの〜……」
「なに?」
 料理用に持ってきた鍋を水でいっぱいにしたレステッドが帰ってきた。
「あっちに温泉が……」

………どうやらつきはセラセニアにあったようだ。



「……………」
ガラァッ
 センは集めた薪を、火をおこす用意をしているラバリエの横に置く。

「何処へ行くのだ」
 もう薪は必要ない。明日の朝の分まではあるだろう。背を向け歩き出した センにラバリエは声を掛ける。
「護衛がいるだろ」
「リールさんが一緒に行きましたから。それに、覗いたら怒られますよ」
 センは呆(あき)れ顔で振り返る。さもお前は馬鹿かと言いたげに。
「な! なんですか!?」
 レステッドは抗議の声を上げる。
「行ってくる」
「リールさんが一緒なんですよ! 見ましたか!? 群れの頭を切り裂いた彼女 の勇姿を!!」
「お前(セン)より役にたったりしてな」
 木々の間から、仕留めた鳥を五匹持ったガドルが現れる。
「いや、彼女(リール)接近戦に向いているだけで、センにはセンの戦い方 がある」
 ガドルのほうに腕を差し出しながら、ラバリエは言う。
「そうかい」
 ぽいっとガドルはラバリエの前に鳥を投げ捨てる。
「え〜〜鳥ですか〜」
 いやそうに声を出したレステッドは、ガドルの睨みに短い悲鳴を上げる。

「地を駆ける獣は食われたのだろう」
 荒れ狂う狼の群れに。

 そして、また襲われないとも限らない。忘れてはいなかったが、思い出し たくもない。

ざっ
 センはまた歩き出す。

「……………そっちじゃないですよ」
――ピタ。
「僕も行きます。」
 弓使いとチャクラム使い。センとレステッドは森に消えた。

―――――忘れてはいないだろうか?狼を食(しょく)そうとしたの は、彼女(リール)である事を………





 話は戻るが、レストッドが余計な一言を(リール談)言ったときだ。

「温泉!! 今すぐ案内なさい!!!」
「ぅええ! えっと、こっちです」
「行きますわよ!!」
グイッ!
「え! 私!?」
「護衛は必要だろう。リール、お前に任せた」
「まじ?」
「お風呂に入れない生活なんてありえませんもの。リール、早く動きなさい!」
「〜〜〜〜ちょい待って」
 ごそごそと荷台の下から、替えの服とタオルを取り出す。
一人分。
 セラセニアはそんな用意は当たり前だと言いたげに、レステッドを追い立 てる。
「…………はぁ」
 リールは頭を抱えつつ威勢よく歩いていく人物についていく。
「リール」
「ん?」

ひゅっっ
 突然飛来した、自分の荷物を受け取る。
「持っていけ」
 料理の手を止めたラバリエは、また鍋をかき回しはじめた。
(…………なんでまた?)

「リーーーール!!!!」
「ああはいはい……」
 何で荷物を投げつけたのか、セラセニアの性格を考えれば、理由は考えら れる事だった。しかしリールがきづくのは、目的地についてからになる。



「入りなさい」
 セラセニアのわがままっぷりは、とどまる所を知らないようだ。
「は?」
「聞こえなかったの? 入りなさいと言っているの」
「………」
 目の前にはこぢんまりとした温泉が、もくもくと湯気をあげている。とり あえず先客もいない。レステッドは目的地に着くなり、水汲みがあるからと 早々に引き揚げた。というか、セラセニアに追い返えされたと言ったほうが 正しい。セラセニアは体にタオルを巻き、すでに湯の中だ。

「………護衛がありますから」
 なんか変な言葉だな。それに、また襲われた時温泉の中じゃあなんとも……。
「いいから入りなさい! 誰が護衛させてやっていると思ってるの!!!」
「………………(えーー! ぇえ〜〜……)」
 これ以上話がこじれる、もとい噛み合わなくならないうちに従っておこう。
(すでに手遅れに近い)

 ごそごそ服を脱ぎ始めるリール。
――――ピタッ
 首にかけている物を見たとき、なんとなくあれ(セラセニア)には見せな いほうがいい。―――――見せたくない。リールはそっと首からはずし、服 の中に忍ばせておこうと決めたその時。

「何かけているの?!!!」
 目ざとい! リールは口の端を歪めた。
 背を向けて着替える人を観察でもしていたのだろうか。いや、視線は感じ なかった。たまたま振り返ったときに、目ざとく見つけたのだろう。
「見せて〜見せろ〜〜!!」
 また始まった。
(………はぁ)
 正直、リールは疲れてきた。

「はい」
「すっご〜い! 何これ!! きれ〜〜初めて見るこんなきれいな水晶!!」
 リールから奪うようにネックレスを取ったセラセニアは騒ぐ。
「ねねねこれ! エルディスにいたんでしょぅ? エルディスのでしょぅ? ドコ で買ったの??」
「もらい物よ」
 行っても売っていることはない。リールの知る限り、カイルが採ってきた 二つしか存在しないはずだ。キギロン王が採った可能性はあるが。

(でも量的にはもっとあるはずよね)
 残りが何処に行ったかは、考える事ではなかった。
(ってあたりまえか。ここにあることがおかしいぐらいだし)
 思い出して、セラセニアからネックレスを取りあげる。
「何するのよ!!!!」
(ほしがられる前に回収しとかないとね)

リールの予想はすぐに的中する。

「ちょうだい」
「無理」
「ちょうだい! ちょうだい! ちょうだい!!」
「………………」
 無視だ。
「う〜〜〜〜……」
バッシャァァア!!
 リールに飛びかかる。

スッ ざばっ
 あっさり避けたリールは温泉を出る。
「そんなにほしければ、領主様にお願いすればそんな貧相なのじゃなくて、 もっと立派なのが手に入るんじゃない? あなたを[ネイ]に連れて行くだけ なのに、こんなに護衛を用意して。もちろん狼の所為所為せいだけど、あな たのために雇ったのだから」
 つまり、わがままを聞いてもらえると。というか、こんな性格に育った原 因だ。

「………お父様は、私のためにしたわけじゃないわ」
「はぃい〜?」
 何を言い出すのだろうか。リールはあきれて振り返る。セラセニアは本気 だった。
「私が行くのは、………私が行くのは建前だわ。あっちの息子と婚 姻関係を結ばせて、両家の間を取り持とうって。よくある話だわ。―――で も、本当は違う。聞いてしまったもの、私じゃなくてこの馬車が向こうに着 くことが重要なんだって」
「馬車?」
「そうよ! そのために、今じゃなきゃダメだって! 狼はしょうがないから護 衛を用意しようって。でも、怪しまれると困るから傭兵とか旅人にしようっ て!!」

「………………。(馬車〜? それはないでしょう。………積み荷、ね。 ……ふぅん)」
 確かに、領主からは娘の婚約を祝っているような感じは受けなかった。
(裏ありか)
 啜り泣きを始めたセラセニアを眺めながらリールは考える。
(なんだって訳あり業が多いの? 最近)
 何かあるのは確実だろうが、自分は旅人で、ここはエルディス国の領地内 だ。―――――正直、拘(かか)わりたくない。
(首をつっこむのはやめよう)
 自分は雇われた護衛の一人だ。領主の真意は聞かなかった事にする。さて、 目の前で泣く少女はどうしよう。

ぐぅうぅぅ〜
「……………」
「な! 何か言いなさいよ!!」
 顔を真っ赤にして怒鳴るセラセニアを前に、あっははははは……と笑いな がら、リールは自分の心を覆(おお)った。

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