再会 〜困惑〜


 太陽が昇る。日差しはグランディア城を照らす。朝だ。

 日差しに照らされて明るい部屋ではベッドの住人がまだ寝ている。ゆっく りとした時間だった。

「おはようございます」
「ん〜〜?」
 新しく用意させたベッドの上で伸びながら、リールは声に起こされる。
「…………だれ?」
「私はこの城の侍女です。本日のお召し物の用意と、王子に言われまして参 りました」
「あ〜〜?」
「なんでも、起きないだろうと」

(なぐろう!!)

 リールを寝不足にしたのは、きっと涼しげな顔で侍女に起こしに行くよう に言った奴だ。

コンコン
「いらっしゃいました」
「はぃ?」

「ごきげんよう。昨夜はよく眠れて?」

(あんたの息子に刺客送られたよ)
 旅人(リール)を気遣うように、ある意味一番まともだが……。王妃フレ イアは部屋に入ってきた。

「え〜と……おはようございます」
「当分、こちらにいらっしゃるのでしょう。町は見て回りました?」
「ええまあ……(明日いないし!)町はまだゆっくりとは見てません。(つ ーか捕まったし)」

「今日は何か予定でも?」
「いえべつに、何も……」

「でしたら今日は私(わたくし)に付き合っていただけません?」
「あ〜(明日からいないし、いいか。)―――――わかりました」


―――――甘かった。まさかこんなおっとり王妃に(おいおい……)まる一日 つぶされることになるなんて。




「ん〜〜やっと開放された〜……」

 最初にあてがわれた部屋に入り、ドサッっとベッドに倒れる。(ベッド復 活。)お風呂に入り(広いお風呂に貸しきりだ)。後はもう寝るだけだ。夕 食は昨日のメンバーでまた晩餐だった。(今日のメインは魚にした。)
 朝のあの後は……思い出したくもない。ずっと王妃の遊び相手(←失礼)だっ た。散々服を変えた後、お茶を用意してお話。まあ質問されるされる。(一 日中)いやネタが尽きる事こそないものの……

「疲れた」
 一国の王妃の話し相手だ、婦人にしてみればとても光栄なことだろう(世間一般的に見て)。
 はたしてリールが当てはまるかどうかは見てのとおりだ。

 リールにしてみれば、王妃の話の中でつく嘘が増えたところでどうと言う ことはない。これからの旅に支障が出ることがあるわけでもない。だが疲れ る。五人で旅をしていたという話なのだ、つじつまを合わせるのがめんどい。

 そして一つだけリールが気になった事と言えば。

(静かだったな〜。あの子、ティアイエル)
 一緒にいたが、王妃が話しかけた時に頷くか軽い返事をするだけだった。
(なんだかな〜)
 沈んでいたように見えた。
(ま、考えてもしゃーない。今日で最後のふかふかベッドを堪能しよう)
 リールはベッドでゴロつく。





 静かだった。部屋の明かりは、まだ消していない。ベッドに入り、ふかふ か感を堪能しつつ、あれから切り裂き魔はどうなったのか。なんであの子は 沈んでいたのか、ぼんやりリールは考えにふける。

(眠れないのだ)


………すっ

 何かを感じ、リールはすばやく扉の向こうに視線を向けると、剣の位置を 確認した。

(一人)

 なるべく足音を立てないように、静かにリールの部屋の前に来て止まり、 離れ、また戻る。

―――あやしい。

 熟練した達人や軍人というわけではなさそうだが、昨日の事もある。レラ ンがあきらめたとは思えない。剣を手に持ち、警戒しておくべきだとリール は判断する。

コッコンッ

バタッ!!!
――ベッドに倒れこむ。リールの集中力は切れた。
(なんだよ! 普通にノックかよ!)

 いやかなり控えめだが。

「はい〜」
 剣から手を離し、扉に近づきゆっくりと開く。
「今晩は」
(噂(うわさ)をすれば影?)

 扉の向こうには、気になることの一つティアイエルがいた。


「……――今晩は」
 挨拶を返すぐらいしか言葉が出ない。
「起きていらっしゃいました? 夜分にしつれいします」
 ぺこりとお辞儀をする。
 一つ一つのしぐさが流れるように行われる。
「…へ!!? え! ああ!! どうぞ。中に。起きてたし」
 なんだか言葉がうまく出ない。
「失礼します」
 扉を閉める瞬間、リールは廊下の角からこちらをうかがう視線にきづいた。
(まあ護衛がいるわな)
 次期国王のお相手だ。部屋に入れたのは失敗だったか? と考えながらも、 視線には気付かない振りをして、リールは扉を閉めた。



 廊下の角、リールのいる所から見えるか見えないか微妙な位置で。レレル はハラハラしながらティアイエルの進んだ扉を見つめる。

――――(「大丈夫よ」)

 ティアエルが会いたいと言ったのだ、レレルにはどうしょうも出来ない。

(「あの女は何をするかわかりません」)
(「でも、エルカベイル様は彼女と旅をしていたのよ」)

 かといって乗り込まなくても、呼びつけることも出来るはずだ。まあそん な事をする人ではないことは、レレルが一番よく知っている。

(でも私としては呼びつけてほしいですわ)

 主の安否を祈りながら、どう乗り込んだら怪しまれないか、レレルは考え を巡らした。



 レレルの気合の入り具合とは反対に、部屋の中は静かなものだ。

(ええっと〜〜……。どうしよう)
 何を話したらいいのやら、リールは途方に暮れている。

じ―――……………。
 音にすればそんな感じだろう。部屋に入ったティアイエルは振り返り、後 から入ったリールをずっと見ている。

―――だいぶ居心地が悪い。

 リールにしてみれば話すことは何も無いので、相手の出方を待つしかない。
(なんなんだーーーー!?)
 苦笑いしか出来ない。


 ふと視線をはずしたティアイエルは、意を決っしたようにリールを見て言 う。

「―――どこかに行かれるのでしょう」
「……なんのこと」
 特別あわてる訳でもない。淡々とリールは言う。
「なんでそんなことを?」
 あまり相手を刺激しないように、言い方が強くならないように言う。特別、 意識しないように。
 ティアイエルは驚いたようだった。まったく動揺もしないリールを驚愕 (きょうがく)の顔で見てる。まるで、自分がまったく的外れな事を言った ような、そんな事を言い出すことがありえないような空気が流れる。
 自分の言ったことに自身が持てないのか、ティアイエルは恥ずかしそうに 顔を下に向ける。

「―――そう、ですわよね………ごめんなさいっ!」
 やっとだした声はかすれて、ほとんど音としてなかった。

バタン。パタパタ……。
 ティアイエルは走り去る。

(なんだった………。)
 呆然とリールは扉を見るしかない。
(てかバレた?)
 明日の朝カイルと出かけることは、この城の中ではレランしかしらない。 はずだ。突然いなくなることを説明するわけにもいかない。
(でも言ったらやばいだろ。)
 あたりまえだ。

「まさか、あの子――(あの時?)」
 窓からの視線の主(ぬし)が彼女なら。

「……でも、なんで? ………まさか―――」



(何であんなことを……)
 彼女(リール)を目の前にして口に出た言葉を、突然口をついて出た言葉 に本人が驚き、廊下を走りながらティアイエルは考える。
(でもあの時…………)
 夜の庭でレランとリールが切りあいをしていたと思えば、カイルがリール を庇っていた。そして、レランに何かを言い聞かせていた。
(何だったの……?)
 ティアイエルにわかるはずがない、関係無い。―――後ろからレレ ルの声が聞こえる。涙をこらえながら走るティアイエルには、不安が大きく なるばかりだ。




 人の思い。交差し、ぶつかり、まじあわらず残る。秘(ひ)めたもの、表 (あらわ)したもの、隠したもの――――安心、怒り、不安。そし て疑問。

 すべてを知る者(もの)はいない。


 それでも時は進む―――夜(よ)がふける……



 部屋は暗かった。天窓も新月の中、星明りを送ることは困難なようだ。ベッ ドの白いシーツと淡い緑のカーテンが良く映える。一箇所だけ、ドアの右手 のランプが小さく灯灯ひをともす。ベッドの上の住人は広いベッドに満足な のか、すやすやと心地よさそうに寝ている。規則正しく体を上下させる。
 静かに、部屋に入った人物に気付かずに。その人物はベッドに近づき、目 の前のベッドの住人を見おろす。灯灯あかりはあまりに小さくて、人物の背 を薄く照らすのみだ。顔を余計に暗く映す。マントの下から、そっと剣を抜 き、剣を逆さに持ち直す。

 切っ先を寝る人物の上から突き刺すように向ける。

 首筋の1cm上。

 ただ剣から手を離すだけでも、ほっとけば出血多量で死ぬぐらいの傷をつ けられるだろう。いや、即死か。
 磨かれた剣は暗闇で顔を映す。剣はく灯灯ひの光を反射する。たとえ後ろ から照らされていたとしても、彼が無表情なのはよくわかる。


……剣を持つ人物は動かない。今、彼は剣を刺すだけでベッドの住人を 殺せるだろう。だが、動かない。

 在るのは静寂。


―――静かに夜はふける。日は、昇る



「ん……」
 広いベッドで、眠る人物はゴロッと寝返りをうつ。仰向けから、左を向く 格好格好かっこうだ。

 すべてが止まってしまったような錯覚。いつまでもあの状態が続きそうな 雰囲気の中、ふっと力がぬける。
 かまえていた人物もそれを感じたようだ。剣を引き鞘におさめる。カチッ と音が響いた。しかし、それだけだ。


 レランは入った時と同じように出て行った。眠るリールを振り返ることな く。

――――まだ日は昇らない


 出発は日の出だ。

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