再会 〜手紙〜


「行くか」
「はいはい」

 馬上で交わしたのはそれくらいだ。リールは旅服で、腰に剣を二本差して いる。一本は元から持っていたほとんど装飾のない細身の剣。もう一本は何 かあってもいいように予備に渡されたものだ。軽く、細く、柄が持ちやすい ように、ねじれる形で削ってある。柄の先と鍔(つば)には丸い水晶が埋め 込まれる。

 水晶はエルディスの特産物だ。布袋の中には食料や薬草など。必要な物は 一通りそろっている。

 なぜか、王妃が服を新調していたので、新品だ。「この服はどうかしら? 着ていた服は少し古くなっていましたし」………確かに長く着て はいた。
 カイルは城での正装を脱ぎ、旅に適した軽装だ。そして、マントを羽織る。 同じようにいつもの長剣と剣を持つ。
 ちなみに警備の兵士を黙らせて。気絶させるとも言う。(むしろ闇撃ち?) 人気のない道を、早馬を走らせながら進む。この国でも有数の駿馬(しゅん め)だ。(勝手に拝借した。)カイル曰(いわ)く「俺の馬」。

 まぁ将来的には……。


 ふと思い立ちリールは言う。

「大丈夫なの?」
「置手紙してあるからな」
「………(それが心配なんだけど!)」
 リールの心中などまるできにせず、北の森――デンスネスへと馬を進めた。



 北にある町の入り口(この場合出口になるが)の、ヴィオレット門を通る わけにはいかないので、裏道を通る。それも、城の地下から繋(つな)がっ ている道だ。カイルが言うには非常用の逃げ道らしい、ものすごく入り組み、 迷路になっている。暗いは、曲がり道だは、トラップだは。
 王族用の隠し通 路。と言えば聞こえはいいが、実際は……「殺す気か!!!」リールはずっと 叫んでいた。いやもちろんカイルがいるのだからトラップにひっかかること も迷う事もない。しかし、通り過ぎた後リールに向かって、わざわざトラッ プを発動させるものがいなければ。

 そんな中、通りの向こうに見えるは閉ざされた門。門の外は、北の城壁の 外に出ることが出来る。例のごとく警備の兵を通り魔宜(よろしく)闇討ち にあわす予定だったが……。


―――先客がいたようだ。警備の兵は昏倒している。


「レラン……」
 レランはいつもの黒い格好だ。カイルはあきれと驚き、そして、複雑そう な顔をした。後ろのリールの声は聞こえただろうか。「あらやっぱり。」

「私も行きます」
「だめだ」
「王子!!!」
「連れてったら〜?着いて来るよ。(絶対に)」
 二人のやり取りにいいかげん飽(あ)きたのか、投げやりにリールは言う。

 カイルはリールを半目で睨(にら)む。しかし、リールはあさっての方向を 見ている。顔が悪どく笑っているのは気のせいではない。

「…………(さっきの仕返しか!)」
 トラップにはめたという自覚はあるようだ。しかし、リールも根に持って いる。
「…………はぁ。……森の前まで」
(あ、あきらめた)
 カイルの搾しぼしぼり出すような、苦々しい声とは裏腹に、リールは楽し そうだ。


 日が昇り始めた朝もやの中、エルディス国首都エルファンの城壁の外で、 馬を走らし遠ざかる三人の人影を見た者は、

――――いなかった。


………はず?






 朝、人々が行動を起こし、一日が始まる。国王とて例外ではない。これか ら皆と食事をしようと王妃と一緒に食堂にいた。

「陛下!」
 バアンッと周りの護衛の兵士に抑えられながらも、食堂に兵士が飛び込ん できた。

 ここを何処と心得る。貴様(きさま)が軽々しく入れる所ではない。」
 王の後ろに控えていた男が、苛立(いらだ)って言う。
「罰ならお受けします。しかし、至急陛下のお耳に入れたいことがっ」
「くどい。連れて行け」
 周りは兵士を取り押さえた。

「まて。リヴァロ」

 国王は直属の護衛を制した。男はあまり好ましい顔をしなかったが、黙っ て従った。そして言う。
「なんだ」
「申し上げます。馬小屋より、王子の馬ソワールほかソラレルがいなくなり ました。

――どちらとも、この国きっての駿馬(しゅんめ)だ。

「国王陛下〜!!! 大変です!!!!!」
 王が反応を示す前に、開いていた扉から大臣が血相変えて飛び込んで来た。
「何事だ。」
「王子のお部屋に不吉な物が!!!」

「不吉? まあなにかしら?」
 国王の隣の席に座り、それまで成り行きを見守っていたフレアイラは小首 を傾げた。大臣は侍女に渡された不吉な物を王に見せる。横から王妃が覗き こむ姿は、とてもなかむつまじい。

………しかし、

「あの馬鹿息子!!!!!」
 国王は切れた。

  【 拝啓  父上・母上 様

    私(わたくし)エルカベイルは少しの間城を留守にします。
   この前のように二年も城を空けたりしませんので悪悪あし
   からず。
    レランには付いて来るなと命令してあるので、彼を責めて
   責任を問うのは意味がありません。彼は知りませんので。
    捜索隊は出さないように、軍事費と税金の無駄です。
    エアリー・リールを同行させます。それと、適当にいろい
   ろ持って行きます。


     追伸―――――正直、城の警備手薄だな。   】   


「あらまあ、まあ、まあ」
「捜索隊を出せ!!」
「でも貴方(あなた)、行き先を知っていますの?」
「……ええぃ!! レランは何処だ!」
「それがレラン隊長の馬ゲードルもいないのです」
 最初に飛び込んできた兵士が言う。

「何を考えているんだ、あの時二年だけだから旅に出ることも許可したとい うに、あれは王子としての自覚があるのか!レランの主(あるじ)にしたの も、人の上に立つ者としての自覚を持たすためだというに!! こんなところ であだとなるとは……」

 レランは、今や国王でなくエルカベイルに従う。それは国王が決めたこと だ。したがって、この国でレランだけは王子の命令において国王に逆らえる。 目の前にいても事のいきさつを話すかどうか。

「しかも、物を持って行くだと!!」
 国の物はすべて国王の物だと言えなくは無い。飛躍しすぎである話だが。
「まさか、あの女にたぶらかされて!」
「それはないのでは? エルカベイルはここのところ何か始めていたようです から。彼女はどちらかというと巻き込まれたのでは?」
「何を言う!あれは昔の仲間なのだろう」
「彼女はエルカベイルに特別な執着心は無いようでしたわ」
「なぜわかる?」
「見ていれば」

 とりあえず国王にそんな事わかるわけがない。

「待ってみればよろしいのでは?どちらに行かれたかも知れませんし」
「そういう問題ではない」
 国王の怒りは治まらない。周りがおたおたする中、王妃はにこにこ笑って いた。扉の外で話を聞き中に入るのをやめ、来た道を戻る少女に気付くこと なく。




カツカツカツッ……バタン
 ティアイエルは部屋に帰ってきた。あの状態で食事をする気になれなかっ た。

ズルッ……ドサッ
 扉を背にしてしゃがみこむ。

「やっぱり………」
 目頭が熱くなるが首を振り、最悪の事態を考えないようにする。
(大丈夫よ王妃様も言っていたもの。でも……)
 しかし、昨日の事もある。リールにごまかされたのか?

 顔を下げると泣きそうになってしまうティアイエルは、膝(ひざ)に突く額 (ひたい)を離し、 顔を上げた。

「…………?」

 顔を上げた先、ベッドの下に控えめだが、見付けられないこともない所に 紙が落ちていた。のろのろと起き上がり、ベッドに近づく。しゃがみこみ紙 を拾い、広げる。

「………ッツ!!」
「ティアエル様!」
バン!!!

 反射的にティアイエルは紙を握りつぶした。

「やっぱりこちらにいらしたのですね。お姿が見えないと皆が心配しており ました。ただ、王妃様からそっとしておくようにとの仰せなので、私が探し に参りました。―――いかが、いたします?」

 突然のエルカベイルの失踪

 レレルは自分の主を気づかった。傷つかないわけがない。そして、不安も。

「レレル」
「はい」
「今日は部屋で食事を取ることにします」
「わかりました。用意をしてきます」
「陛下と王妃様に申し訳ありませんとお伝えください」
「かしこまりました」
 レレルは一礼して部屋を出る。国王と王妃に一緒に食事をしない旨(むね) を伝え、部屋に運ぶ用意をするために。


 レレルが部屋から遠ざかるのを確認して、そっとティアイエルは紙を開く。 握りつぶされてしわがよっているが読めないことはない。大きめの紙のはじ を破いたのだろう、長方形の紙に横書きで一言。

  【  一ヶ月待っていてくれない  】

 バーミリオン大陸の共通語で書かれている。誰からか、ティアイエルには わかった。

「なぜ?」
(特別な執着心は無いようですわ。)王妃はそう言っていた。
「でも、もし………」
 ティアイエルの恐れる事、不安は、一つだ。

それは――――………


 もし、エルカベイルが彼女を望んだら………?


………―――――不安ハ、ツノル…………

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