再会 〜死の森〜


「ここか〜」
 目の前には森。
「外見は普通?」
 普通の森の定義はなんだろう。木は高く生い茂り風に揺れている。

 あれから昼の休憩以外は、休みらしい休みも取らず馬を飛ばしてきた。さ すがに馬は疲れ果ててしまったが。ちなみに、お昼によった町の宿屋での昼 食に、リールが何人前食べたかは想像に任せるとしよう。

(だって〜この国の王子持ちだし〜)
 そしてデザートは別バラだ。

 今、リール達はデンスネスの手前にある背の低いかしの木の下にいる。今 日はこの森の入り口(何処からでも入れる)で一晩過ごし、明日(あす)の 朝森の中に入るという計画だ。

 当に日は暮れた。暗闇の中、風に揺れる焚き火の光は唯一の明かりだ。残 りは静寂(せいじゃく)が支配している。森に入らなければ焚(た)き火を 起こしても問題ないだろう。(聖魔獣に関しては。よく自殺者が来るらしい し。)と結論(けつろん)付け、レランが火をおこした。次に彼は食事の用 意にとりかかっている。

(こいつもしつこいな〜)
 黙々と用意するレランを眺めながら思う。
 別の方向を見れば、カイルはさっきから森の方を凝視したままである。
(……なに見てるんだか)

 ただリールが暇人なのである。

 ここが立ち入り禁止とされている事は、ここに着く前までの警告の案内で よくわかった。看板、柵、落とし穴、その他トラップ。よくまあ作ったもの だ。それこそ間違っても子供が入り込まないようになっている。北に行くリ ール達を、町の住人は大声で考え直すように言っていた。カイルが言うには 自殺の名所だそうだ。

――――はた迷惑な。(ただたんにリールの癇(かん)に障(さわ)っ ただけ。)

 そんな曰(いわ)く付きの森を、渡された地図と照らし合わせながらゆっ くり眺める。森の入り口から中に向けてだんだんと木が高くなっている。手 前にある木は低めだが、背の高い草、棘(とげ)のある蔦(つた)で蔽(お お)われて生(お)い茂(しげ)っている。幹(みき)と幹の間から中をう かがうことも出来ない。中は暗く、地図上だと東から西へ深く続いている。
 今いるのは、エルファンから北に真っ直ぐ進んで着いた森の南側だ。ここ を真っ直ぐ突っ切れば反対側には海が広がる。


パチッ
 焚き火の音が、やけに大きく響くくらいの静寂。ゆっくり、夜は更(ふけ) る。





「ここからは、馬は連れて行けない」
「別に歩きだろうが問題ない」
「レラン」
「はい」
「約束だからな、お前は来るな」
「………」
「こいつらを見ててくれ」

(……王子の護衛がお馬番? なんつーか……)
 世間一般的にみれば王子の護衛だ、それこそ憧(あこがれ)の的というか、 尊敬に値する職業だろうが。
(実際はこんなん?)
 ある意味なんでもこなさなければならないが、………馬番……?
(いいざまだ)

 安眠妨害の原因の一端はレランにもある(リール談)。

「帰りに必要だからな」
 レランは何も言わなかった。ただ深く頭を下げる。


「行くぞ」
 カイルは森に向かって歩き出す。


「……心配しなくても帰りに私はいないわ」
 頭を下げたままのレランにささやく。レランは、一瞬表情を変えたがリー ルには見えない。


「おい」
 もう森の中に足を踏み出しそうなほど進んだカイルは、リールが来てない ことに気付く。
「はいはい」

 レランは顔を上げ、何かリールに聞きたそうだったが、
(―――いつの間に……)
 リールはさっさとカイルの所に行っていた。

 二人は警戒しつつも森の中に足を進める。朝日に照らされているにもかか わらず、森は深い。すぐに二人は見えなくなる。


「………」
 レランにはもう、どうすることも出来ない……



(なんだかな〜……)
 森の中を二人は進む。入り口は蔦や草で生い茂っていたので、剣で切りな がら進んだ。かなり手ごわかったのか、微妙な引っかき傷や、切り傷がある。
 森の中には、リールの足首くらいの草が生い茂る。
 道らしい道があるわけではない。地を照らす日の光が道になる。

 カイルは日の光を頼りに方向をさだめ、進む。リールもその横を歩き付い て行く。
「深くない?」
「そうだな」
 森は深い、しかし、入ったところから覗(のぞ)いたほど暗いわけではな い。むしろ、光ある。
 サクサクと草を踏む音が耳に響く、――――ただそれだけ。

………音が、ない――

 リールはカイルに聞きたい事があったが、森の異様な静けさにただ飲み込 まれないようにするしかない。風も、揺らぎも、流れも感じない。鳥の声も しない。
 木の幹はほとんど蔦に蔽われる。ある(存在する)のは、見えるのは緑。
 周りはすべて緑。そしてただ、明るい。

「死の森」―――時に人は呼ぶ


ザシュッ!!!

 耳障りな音がする。カイルが、木の間から牙を向け襲いかかって来た獣に 剣を突き刺す。

「来たか」
 一突きで額を突き刺した剣を引き抜く。自分の二倍はありそうな獣を足元 に転がす。
――もう動かない。

 草の上に赤い、赤黒い血が流れ始める

――――森を彩(いろどる)―――――

 血が流れ緑の森に別の色をつける。瞬間、現れた風、揺らぎ、音。そして、 何かが、いる(存在する)。感じる、生き物の鼓動。

 リールも剣を抜き、カイルと背を合わせるように向き直る。
「遅いんでない?」
 だいぶ森の中にいる。そろそろ昼になるだろうか。
「まあ暇だしな」
 はたして二人には動揺が感じられるだろうか。

 二人の周りは、四本の足を持つ獣。ルチルクォーツが取り囲む。


 「は!!」
 襲いかかる獣の前足と後ろ足を切りつける。そのまま右から来る獣に、振 り下ろした剣を振り上げる。右足を切り落とし、左の獣の額に剣の柄を突き 当てる。ちなみに、実はリールは左利きだ。

(……6……7!)
 もう襲い掛かる獣はいない。息を上げつつも背後のカイルを振り返る。そ して見る。
 カイルの周りは、なにも動かないことを。

…………ただ一つ。

「グルル……」
 一匹だけ絶え絶えと息をしている。カイルは生きているのが不思議なよう に静かに近づく。ただ淡々と、剣を振り下ろす。

「はい。ストップ」
 リールはカイルの腕を掴む。
「なんだ」
 カイルは緩慢(かんまん)な動作でリールを見る。

「不法侵入者」
 リールはカイルを指差す。
「だから」
 ここはルチルクォーツの領域である、歓迎されないのはあたりまえだ。そ れに、いきなり来たものが彼らの生活をかき回すわけにいかない。………も しやすでに手遅れ?

 もしも、カイルの狙いがルチルクォーツの根絶やしであるなら―――違うはずだ。しかし、リールの話しなど聞こうとせずカ イルは獣に向き直る。イラついている事を何かにあたる。そんな感じだ。

「殺したら帰るわよ」
「………」
 それは困るらしい。カイルは剣の血を払い鞘に収める。
 ふとリールは振り返る。そこにはまるで、空間の境目があるようだった。

 方や一面血の海と、一命は取り留めている獣がいる。
 方や一撃で殺され、動かない獣の死体が並ぶ。

 リールは返り血で服を汚している。獣の足を狙い、動けなくしただけだ。 急所は外している。
 カイルは一突きで確実に急所を狙った。心臓、頭、首、剣を抜くとき流れ る血を避け、ほとんど返り血を浴びることない。

ザッ……

 カイルは自分の行動の後(あと)に目もくれず歩き始める。
 リールは一度振り返ったが、進む。

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