再会 〜ルチルクォーツ〜


「……………」
「気づいたか」
 不機嫌そうなカイルの声が聞こえる。いつの間にかリールは、川べりの木 の下に横たわっていた。
 声の主は川の向こう岸を向き座っている。リールのほうに振り返ったとき には、額に誰かとよく似たしわを寄せていた。

「気持ち悪い」
 その事には突っ込まない。頭の上の水で濡らした布をずらしながら起き上 がる。
「あたりまえだろうが」
 怒鳴りつけるわけではないが、怒りを含(ふく)んだ口調だ。言葉にとて つもないトゲを感じる。
「あれ(メルトネンシス)は毒草だろ」
「確かに有毒植物ではあるけど、葉は乾燥させれば薬になるわ。ただし、素 人は使用禁止」
「そういう事を言っている訳じゃない! なぜあんな事をした!」

ガサァッ

 茂(しげみ)の中から小さな子獣が現れた。母獣も続く。
 突然の来訪者に気を取られたカイルだが、息をつくと落ち着いた口調で聞 いてきた。
「いったい何をしたんだ。お前が気を失った後、母獣が噛(かみ)殺そうと するところをどうにか押さえたら、子獣が生き返ったのだから」

(勝手に殺すなよ。)
 子獣は死にかけていたが、死んではいなかった。
「…………」
 リールは目の前に果物を並べる獣の家族を眺める。白に近い灰色で、翠( みどり)の目を持つ。リールの視線受けた母獣は、その視線から逃げなかっ た。

「こいつらがここに案内してくれた。とりあえず水が必要だと思ったんで」
 どうやって意思の疎通(そつう)を図(はか)ったかは定かではない。
「ほら」
 水の入った皮袋を差し出す。
 リールが飲もうとした瞬間。

ザッ――――
「お前たちか我らの仲間を助けたというのは」
 どことなく暗い、静かな響きがした。


 リールたちからさほど離れない川の上流のほうに、腰まで長く白っぽい銀 髪に、翠(みどり)の目を持つ男が立っていた。

―――周りにルチルクォーツを従えて。


 反射的に剣に手をかけたカイルは心の中で悪態をつく。数が多すぎるのと、 リールが使えない状態にある事に。一方のリールは飲みかかった水を飲み始 める。冷(つめ)たく冷(ひ)えた水はリールの吐き気と頭痛を洗い流した。
(………? これ……)
「お主……?」
 男がリールに近づく。カイルは切りかかる態勢をとっていたが、そこに母 獣が跳びかかり、上から覆(おお)いかぶさった。――カイルは潰 (つぶ)された。

「あんた誰よ」
 リールは落ち着いているかに見えたが、いきなり現れ近づいてくる男に、 明らかに不信そうだ。
「ああ。このほうが親しみ好(よ)いと思ったのだが、我はセイファート。 お主らは獣王と呼ぶようだな」
(………なんだって?)
 唖然(あぜん)とするリールのほうに真っ直ぐ近づいてきたセイファート は、怪訝(けげん)そうな顔から一変して周りの獣を睨(にら)みつける。

「タキスト」
 一匹の獣が前に出る。
「ガウ」
「この娘からお主のにおいがする。なぜだ」
「ってなによいきなり?」
 セイファートはリールの疑問を気にとめもしない。周りからは、その名を 呼ばれただろう獣が姿を現す。
「お主が人型を取れる事は知っている。そして森の外に出た事も。だが、人 に危害を加えてはならない。この国の外に出る事も許されない」
 タキストと呼ばれた獣は声を出すことなく、動くことなくいる。

「――人型になれ」
 有無を言わさず命令する口調だった。

 一瞬、風が流れたと思えば、そこには、フードで顔を隠した男が現れる。

「あの時の切り裂き魔!!」

 成り行きを眺めていたリールは叫ぶ。一方、母獣の下から這い出したカイ ルは、驚きを隠せない。

「ばれていないとでも思っていたのか」
 厳しく、問い詰めるように。怒りを抑えてはいるが、迫力が違う。周りの 獣が竦(すく)み上(あ)がり、一歩、また一歩と離れていく。

 そんな中、問い詰められたタキストは、フードをずらして、セイファート に向かい怒鳴る。

「なぜあんな奴らのためにわれらがこの様な所に押し込められるのですか! われらが苦しんでいるというに奴らは自然を穢(けが)し、われらを異端(いたん)とし、あまつさえこの森で首を吊る! われらが絶望の淵に立たさ れている時、奴らは安穏に子孫を増やし、私利私欲のためにわれらを利用し ようとする。 許されるとでも思っているのか!!! そこの女! 何をしに来た!! お前さ えあの時邪魔をしなければ! 赤子と母親を二つに割れたというに」

 また水を飲み始めたリールに言い放つ。
「お前が邪魔しなければ!!!!」
 そう叫びながら剣を抜くタキスト。リールは飲み干した袋を投げて、タキ ストが剣を構える前に、首筋に剣を突きつける。
「そう、あんただったの。あの後(逃走後)私が、濡れ衣を着せられたのよ!」

 見た目冷静そうだったがそんな事ない。だいぶキレ気味で剣を突きつける。
 そして、キレるポイントはそこか?

 まさに切りあいが始まらないのが不思議なくらい、二人は睨み合う。
「タキストの処分は任せてくれないか」
 ほっとくと、二人が手に負えなくなると判断したのか、セイファートが仲 裁に入る。ちなみにカイルは、自ら火の中に突っ込んでいく事はしない。

「はぁ!?」
 不満そうに声を荒げるのはリールだ。タキストも言う事を聞くつもりはな さそうだったが、セイファートの睨みで仕方なく剣を納める。
「王として、彼に二度と人に危害を加えないようにさせる。当初の目的を果 たそう」
 セイファートはタキストが剣をしまうのを確認すると、何か自分に言い聞 かせるように言う。

「我の仲間を助けてくれたのだろう。これへ」
 逃げるように去ったルチルクォーツ達は、王の言葉に反応し、また集まり だした。その中で、さっきリールが助けた親子が前にでる。

「お主に助けられたと言ってきた」
 母獣はまだリールに遠慮しているようだが、子獣はリールの足に擦(す) り寄(よ)る。

「くー」
 まだイライラしていたリールは、子獣を抱き上げ軽く和む。

「で、そのためだけに獣王様がお出ましになったと」
 剣を突きつけるほどの警戒心はない。しかし、おじさんにしか見えないと はいえ、相手は聖魔獣。ルチルクォーツの王だ。カイルは固い口調でリール の横から話し出す。

「最近、この森で異変が起きている」
 カイルが信用してない事などお見通しのように、まるで動じずに話を進め る。
「生まれたばかりや歳のいかない子獣が、次々と息絶えている。このまま行 けば確実に我らは滅びる。先(せん)の戦いで、ルチルクォーツ(われら) の数は半減した」
 リールは時々腕の中の子獣を撫(な)でながら聞く。カイルは腕を組み聞 いてはいるが、警戒の目でセイファートを見る。

「今、お主のおかげで一匹の子獣の命が救われたと聞き、ぜひ礼をしたいと 思ったのでな。この姿で来たのも、そのほうが警戒されずにすむと思ったの だが……」

 周りにあれだけのルチルクォーツを従えていれば、警戒されて当然だ。

「どうしても一人では行かせてくれないのだ。お主らは相当腕が立つそうな のでな」

「…………」
 カイルは思い当たる節があるようだ。一瞬顔が引きつった。

「あっはははははははは………!!!!!」
 気付いたリールは大爆笑。腕からずり落ちた子獣は、地に着く前にカイル が手に掴(つか)み、母獣に渡す。


 明らかに不機嫌そうになった男と、笑い続けるので男に睨まれる女を見て、 ルチルクォーツに動揺が走る。セイファートも呆気(あっけ)にとられる。

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