再会 〜晩餐〜


「首が痛い。(体固まっているし。)」
 あてがわれた部屋で、ベッドに体を沈めてリールは考えていた。あの後二 人はまた延々と話を続けた。

(まあ内容はあれだけど)
 なぜリールと旅をしていたか、その娘の身柄は確かかと、すべてカイルに 聞いていた。

(私のいる意味はないだろ。ていうかカイルも適当に話しているし)
 リールの身柄についてはよくもまあという勢いで、でっちあげである。

(話してないし、聞いてないし)

「さらっとウソ吐くなよな〜」
 たいして非難するようでもなく言う。


コンコン

「どーぞ」
 鍵を掛けていないので扉は開いている。出て行くのがめんどくさくて、 リールは外の人に聞こえるように言った。

 ベッドから起き上がるのと同時に部屋に入ってきたのは、さっき廊下で二 人の後……いやつまりカイルの護衛のために付いてきた男だった。

「無用心すぎるのでは」
 男はさほど興味もなさそうに淡々と言った。

(心配してくれているわけ?)
 思いつつ扉の所まで移動する。男の前に立ち、見上げながら言う。

「この国じゃ王子の客人に刺客でも送る習慣?」
「そんなことはしない」
「じゃあいいじゃん」

 男は話しても無駄だと思ったのか、大げさにため息をつきながら言った。

「呼んでいる」


(で、何なの)
 行き先を告げずについて来いと言われ、廊下の先を歩く男について行く。

「どこいくのよ」
「お前を連れてくるように言われた」
(……話し聞いてる?)

 話をするのは苛立つだけだからやめようと思う。なぜこんな所にいるかは 別として、せっかく城の中にいるのである。普段なら見ることのできない城 の中を堪能しよう。
 まわりを見渡しながら、絵や飾りをみた。左右には扉や曲がり角があり、 複雑な構造をしているが、また謁見の間のほうに向かっているようだった。


「ここだ」
(ちがうじゃん)
 謁見の間ではない。扉の端に立つ兵士がリールのために扉を開く。

 中には長方形のテーブルが縦に置かれ、長さは10mぐらいだろうか一番 遠くに王が、リールから見て左手に婦人が、右手にカイルとさっきの少女が 座っている。

(帰りたい)
 切実に思った。
(むしろ帰らせろ)
 扉が開いた瞬間、すべての人がリールに視線を向けたのである。


 リールが国王の反対側に腰を下ろし晩餐が始まった。

 メインディッシュは何にするかと聞かれ、迷わず肉と答えた後前菜が運ば れてきた。
 食事の前に祈る習慣などないようで、国王から食べ始めると周りも食べ始 めるので、リールも食べ始める。

 料理が何かはわからなかったが……

「おいしい」
 黙々と無言で皆が食べる中、リールの声はよくとおった。その声に周りが リールの方を向くが、当の本人は、いそがしくナイフとフォークを動かして いる。


「お名前を聞いてもよろしいかしら」
 ふわっと、風の様にやさしい声が響いた。

(私?)
 リールが顔を上げると、声の主はやんわりと微笑んだ。王の右手に座る婦 人だった。
 ぼーっとリールは見とれてしまって、危うく反応を示さないところだった。

(だから私を射殺したいのか!)
「エアリー・リールです」

 ものすごい非難の視線と、そういえばここに来てまだ一度も名のっていな かった事を感じる。

「リールさん? でよろしいかしら」
「どうとでも……お好きなようにお呼びませ王妃様」
(ああうざい)

 何って視線が。

 ここには給仕と、大臣らしきじじいと、側近だろうさっき王のそばにいた 二人と、女中と、兵士がいる。それとリールを案内した男だ。

(特にあれ)
 側近のうち一人と大臣が、まさに胡散臭いものでも見るようにリールを見 ている。

「エルカベイルと一緒に五人で旅をしていたと聞きましたけど」
(エルカベイル? 誰だっけ? さっき聞いたような)
 リールが首をかしげていると、何かを悟ったようで王妃は話し始めた。

「そういえばお話していませんでしたね、私(わたくし)はさっき言われた ように、エルディス国王妃フレアイラと言いますわ」
(いやまあ王妃だって事はわかるけど)

 身なりもよく王のそばにいるのである。カイルの母と言われれば、納得で きる面影がある。
(逆か。カイルが、王妃に似ているんだ)

「王妃よ、なぜそんなに……」
「あら、初めてエルカベイルが連れてきた友達ですよ。歓迎いたさないと」
(一介の旅人にやさしすぎるとでも言いたいのかこのおやじ)

ガシャン!!
 音に驚き視線をまわすと、カイルの隣に座っている、さっき泣いていたの かも知れない少女がナイフを取り落としたところだった。

 「どうかなさいまして、ティアさん?」
 やや驚いたように王妃が声をかける。
「いえ……なんでも……」
「そうですわ、彼女はティアイエル・レティシャ・エレンド。 エルカベイルの許嫁にして未来の王妃ですわ」

 ティアと呼ばれた少女は、微笑みながら顔を上げたが、リールには何かひっ かかる笑みだった。




「……終わった」
 沈むというよりは、倒れこむ勢いでベッドにうつ伏せになる。しかし、さ すが王城のベッド、ぽふっとリールの体を受け止める。

「気持ちいい〜」
 あの後も王妃の質問攻めは終わらなかった。今リールはアストリッド国の 商人の娘となっている、ようだ。確かにアストリッドは四大大国の一つであ り、一番の商業国である。つまるところよくある話である。

(なにが、お父上はそちらでは商人を束ねているとか……。だよ!)
 嘘八百である。まあそれにくわえてすらすらと嘘をつくリールもリールだ が。

(本当に信じているからな〜)
 商人の娘として世界を見てまわり、旅をして経験ふやすために護衛つきで 旅をしていた途中、カイルたち(その時カイルは三人で旅をしていた。)と 知り合い、一緒に旅をしてきたと。ちなみに、男三人、女二人で。

ということを国王と話しているときにカイルはでっち上げ、国王は王妃に話 し、王妃は「あなたのお父上で商人の方は厳しいのね〜。大変だったでしょう」 などとリールに言い始め、旅の事について聞きまくるのであった。

 ちなみに今は、旅をするのにも慣れたので、今度は一人でいろいろな国を 見て回りたいと父に申し出て、一人旅をしているということにしておいた。
 さらに「すばらしいわね」と王妃は見事に勘違いをしてくれたが。


「おいしかった〜」
 料理である。さすが王宮の一品。あの後も出てくる料理はすばらしかった。 デザートまで残さず食べつくしたリールを、大臣はにらんでいた。

(知るか食事のマナーなんて)
 それでもナイフとフォークの使い方は問題ない。だが問題はそこではない。 リールの食べっぷりにある。

(貴婦人は少食でいろ、って言いたいんでしょうね)
 まして国王の前である。ちなみに王妃とティアはほとんど食べていなかっ た。
 せいぜい一皿に三口である。

 しかし、リールのモットーは、「出されたものは残さず食べる」である。
 なおかつ旅費がなくて節約のうえに、ここに来るまでの森では、ほとんど おなかにたまるもの はなかったのである。果物が主だった。

(狩がへたくそで悪かったわね〜)
というか小動物ばかりで、リールのおなかを満たすにはいかなかったのであ る。

コンコン

 またノックの音がする。
「入れば〜」
 前より投げやりに答える。そしてまた入ってきたのも、同じ男だ。
 もう何も言うつもりはないらしい、ため息をつくと中に入ってきた。
 リールがベッドから起き上がるきも移動するきもないからである。
 男がリールのいるベッドの横に立つのと、リールが体を起こすのはほとん ど同時だった。

「呼んでいる」
「誰が?」

 やや怒りを含めた口調で言うと、男は疲れたように言った。

「王子だ」



 今度は階段を上がり、さらに歩く。城の中はこれでもかというほど広い。 なおかつ、目的地は城の中でもだいぶ奥まった所に在ったらしい。

(とおい!)

 仕方ないので前を歩く人物を観察しようと思う。この城の兵士の軍服は リールの見たところ、城の中の警護に当たるものは、皆同じ紺色で統一さ れた服だが、肩と袖口などにはいる刺繍の色が違う。
 とりあえず、朱色と黒色を見た。
 しかし、彼は黒で統一された服だ、門番ともすれ違う兵士とも違う服。 襟首まで詰まった服は、ボタンなどの装飾もない。カイルと馬車を降りた とき、現れた男たちは城の兵士と違う服を着ていた。

一人は黒。
――――――前の人物。

(闇色)
とりあえずその名で行こう。勝手にリールは命名する。

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