再会 〜聖魔獣〜


 考えに耽(ふけ)るのはいいが、いいかげんリールが歩くのにあきてきた ころ、目的地だろうか、前に扉がある所で男は止まった。
 守護のために立つ兵士と言葉を交わし、リールを振り返る。兵士もリール を一瞥(いちべつ)したが、重そうな扉に手をかけ、開けた。
 四人の兵士が守る扉を通った先に、隣りあわせで(まあ実際はだいぶ離れ ているが)二つの扉がある。

 先(さき)の扉もそうだったが、侵入者を防ぐためであろう。その扉の前 にも兵士が二人立っている。


「ここだ」
 男は部屋をノックしてから扉を開き、リールに中に入るよううながす。

(あごでしゃくるってどうなのよ!)
 さらに男に怒りを覚えつつリールは部屋に入る。
 カーテンでさらにしきられ、すぐには部屋の中を見られるようにはなって いない。

 そのカーテンを引き部屋に入れば………

「やっときたか」
 カイルの声がしたが、そんなことよりもリールがきになったのは、部屋の 中である。
「なにこれ?」
部屋の中にも扉があるので寝室などは別にあるのだろう。しかし、

「掃除しろ」

 あきれてリールは言った。
 部屋の床は本で埋まり、ソファとその前のテーブルには、地図とペンとメ モ書きの紙で埋まっている。ほかにも床を埋め尽くす勢いでいろいろ散らばっ ている。

「ああ悪い適当に座れ」

 一人分座れるように空けたソファに座って言う。食事の時に着ていたゴー セーな服ではなく、今は、白のワイシャツに、カーキ色のズボン。茶色の ブーツを履いた足を組み、読んでいた本から目を離さずカイルは言う。

「…………」
 適当に、カイルのいる反対のソファの上をかたづけ、(実際は載っている ものを捨てて。)カイルの座る場所の対角線上に座る。沈み具合は最高だ。
 リールが部屋に入った後少し送れて、キャビネットを押しながら入ってき たリールを案内した男が、リールの行為に目を細めたが、カイルが何も言わ ないからか黙っていた。

「ああレランその辺に置いてくれ」
 テーブルに置かれているものを、腕で横にスライドしながら全部落として カイルは言う。さらに男(カイルにレランと呼ばれたので名前だろう。)は、 目を細めた。主の行動が気になるのだろう。
 とがめるような視線になるが、あきらめる。

 それとキャビネットには、カップにお茶とポット、ケーキが載っている。 ケーキが二種類あるので、どっちのケーキをカイルの前に置くか悩んでいた のであろう。
 適当にと言われたので、カイルの前に一つ置く。
 リールの前に置かれたのはチーズケーキだろう。

「いただきま〜す!」
 間髪いれずに食べ始める。
 レランはお茶とポットを置いたら、カイルの後ろの本棚の前に立つ。

(監視?)
 ほぼリールの目の前である。さらにあきれてリールを見ている。

「あれだけ食べただろ!」と言いたげに。

「おいし〜い」
 リールはシカトきめこむつもりだ。
 夕食の後だからだろうか、レモンがきいたさっぱりしたケーキだ。

(う〜ん。おいしけどもっとゴーカでもいいかも)
 甘いものは別バラである。ワンホール出てきても食べきったであろう。

「で、待ち時間暇だから本を読んだら止まらなくなったと」
 疑問ではなく確認風に聞く。

「まあな」
「あっそ」

 リールは部屋を入った左手のソファに座っている。さらにリールの左手に はバルコニーに続く窓の前に、机とイスがある。後ろには低めの棚とレリー フ、本棚、ドアが二つ。
 反対側もほとんど変わらないが、こちらは、ドアが一つしかない。

(まあさらにどれだけ部屋があるかはわかんないけど。ああそうだ)
「エルカベイル」
ビシっと音がしそうな勢いでカイルを指差す。
「ああ。エルカベイル・ビオレドラル・エルディス。正式には、な」
「長。(あんまり人の事言えないけど)」

 レランはさっきから表情を変えなかったが、二人の会話は理解できないも のがあるようだった。
(なぜわかる)
 カイルの行動についてのリールの見方と、名を言っただけでリールの知り たいことを話したカイルとのことだ。


「どう思った」
 そんな護衛の心中を察しているのかいないのか、もうすぐ読み終わりそう な本ごしに、カイルが聞く。
「いいんじゃない。民は明朗(めいろう)、王は健在、跡継ぎも問題なし。 他国との交流活発で、内乱なし。クーデター起こりそうもなし。資源も物資 も有り余り、今年の収穫も上々になるんじゃない」

この国の評価、感想である。

「ただ警備が異状」

 瞬間、レランは顔を上げた。カイルはあいかわらず本を見ているが、何か を感じたように言う。
「やはりな……」
(ビンゴ!)
 リールは城下の警備が以上であることを強調したいのである。
(どう考えても通りで騒いだだけにあの警吏の人数は異状)

 昼間城下で捕まりかかっただけに確信がある。説明を求めているとカイル は口を開いた。

「最近、老若男女問わず、切り裂き魔が出没している。もう十人目だ、それ も一太刀でな、即死だ」
「………」
「昼だろうが夜だろうが、大通りだろうが裏道だろうが、ところかまわずな。 だからいつもの倍以上警吏が配置されている。特にあそこは主要通りだから な」

(だから捕まりかかったと)
 リールは昼間の男が何か関係があると思う。
(つか犯人あいつでしょ。いきなり切りかかったんだから。しかも母親に。 それに私は無実だ!)

―――結局のところ一番の主張はそこである。


 リールが考えに燃えているとき、やっとカイルは本を読み終わったらしい。 閉じた本をいきなり本を後ろに投げ捨てた。それをあっさりと後ろにいたレ ランが受け取り、本棚に……いや本来の使い方をされていないが、本棚だ。 並ぶ本は横向きに積み重なれ、書類が束に置かれ、その他もろもろ置かれて いるが、その本が、本来置かれるであろう場所に置く。

 リールはそのタイミングで話を始める。

「昼間の……」
「それでお前を呼んだ理由だが」
 さっき落とした物の中から必要なものを拾い上げる。
「…………(だから聞けよ。この自己中心的!)」
「今、この部屋にはレラン以外は入らないように言ってある」
「は?(いきなり何?)……あぁつまり掃除する人がいないと。で、こ のありさま」
 リールは両手を部屋の中に向けた。
「まあな。たまに整理はするんだが……」
「へたくそ」
「レランが」
「……………」
 リールは哀れみをこめながらレランを見る。彼は本棚の横の壁に背をあず けて目を閉じている。

「これを見てくれ」

 リールの非難とあきれる視線を知ってか知らずか、カイルは地図を広げ話 し始めた。



 テーブルの上に広げられたのは、この国の地図だった。

 リールはパクっとケーキの最後の一口を食べ、お茶を飲み干した。そのま まポットのお茶をカップに注ぎ、左手に持ったままのフォークを、カイルの 前に置かれたケーキに突き刺す。ちなみに、カイルはお茶を飲んだだけだっ た。
 余談だがこっちはレモンムースのタルトだった。一口食べ、皿ごと引き寄 せ食べ始める。
 レランがだいぶ不快そうな表情をしたが、カイルはたいして気にせず続け る。

「ここに行く」


 エルディス国は、バーミリオン大陸の北に位置する国である。国の北と南、 西は海だ。東にはシャンファン共和国がある。王都は国の中心より南にあり、 海までは馬車で二時間。国の北には、国土の四分の一ほどの広さの森が広が り、北の海岸線を埋めている。あとは比較的平坦な土地である。あまり高い 山がないので、街道は、よく整備され、町と町の移動も簡単だ。その分、城 や町を守る城壁は欠かせない。この国の外では内乱、紛争が起こっている国 もある。エルディスにも火の粉が降りかかる可能性はゼロではない。
 まぁ四大大国に戦争吹っかける方が自殺行為だが……。

 カイルが指す場所は、その中でも北の森、俗にデンスネスと呼ばれる所で ある。

「何しに?」
「この湖に用がある」
 森の西の方に比較的大きな湖がある。名は……
「クレイス湖? 何が、あるの?」
 強調して聞く。この部屋の散らかり具合といい、カイルの様子といい、ど うやらまともな場所ではなさそうだ。

「ここは聖魔獣域だ」
 淡々と、だがはっきりした口調でカイルは言う。

『
  聖魔獣……
  
   古来よりこの世界には、生態系で頂点に立つ知能を持つ者、
  ヒトと聖魔獣が共存している。

    そして、聖魔獣は大きく四つの種族に分かれる。すなわち、


	空を翔ける者   レピドライト
	地を駆ける者   ルチルクォーツ
	海を裂く者    アクアオーラ
	地を割く者    オブシディアン


   彼らの外見は獣、鳥、龍、そのほかいろいろな姿であるが、
  ヒトの形をとることもでき、人語を理解する者もいると伝わっ
  ている。それから、聖魔獣の中にはそれぞれの種に獣王
  (あわせて四獣王とよばれる。)が存在し、同種の聖魔獣は
  獣王にしたがう。すべてのこれらの種(ヒト・聖魔獣)は、
  昔は共に協力しあい、種族の区別なく暮らしていた。
  
   しかし、ある時から聖魔獣同士が争い始めた。彼らは、この
  四種族に分かれ争い、森を焼き、地を焼き、海をからし、大陸
  を一つ沈めた。その時、人間のある国の四人の王たちが、争い
  を止めるため四獣王との交渉を持ちかけることに成功した。
 
   話し合い(実際はそんなに簡単な事ではないが)の結果、聖
  魔獣は四種族で分けられ、その四人の国の決められた領土で過
  ごし、国の象徴であり守護をする者となった。
   そして他の種族の聖魔獣と会うことは禁じられた。

   その時の四人の人間王の国、それが現在の四大大国にあたっ
  ている。

   すなわち、エルディス、アストリッド、シャフィアラ、ニク
  ロケイルである。
  
   だが、事実問題として、現在も聖魔獣と友好間系にあるヒト
  や国は少ない。あの聖魔獣同士の争い(今では歴史的には<キ
  リング・タイム>とよばれる。)の後、人々は聖魔獣に対する
  恐怖心を拭い去ることはできなかった。大陸を一つ沈めるほど
  の破壊力、すべてではないが異形(いぎょう)な姿を持つ者。
  家を焼かれ、家族を失ったものの中には憎しみを抱くものもい
  る。

   ヒトは急速に聖魔獣との関係を立ち切った。そして、今では
  聖魔獣域は立ち入り禁止  となっている事が多い。ヒトとの
  関係もなく、他の種と会うことも禁じられ、聖魔獣は歴史の中
  で孤立して行った、と言っても過言ではない。』


 カイルから渡されたメモを読みながらリールは考える。
(にしてもよく調べたものね)

 この部屋に散らばる書籍はすべて聖魔獣、キリング・タイム関連であろう。 古代史から始まり、現代に至るまでの歴史、聖魔獣の生態、特徴。あらため て部屋の本を見る。中には古代語の物や他国の言語の物もある。
 この内容にふれる本すべてを集めたはずだ。

(あぁ、なるほどね。資料を集めたのはいいけど、量がありすぎて積みあがっ て、レランがかたづけようと思っても本人{カイル}は、自分がわかるように 置いてあるからかってに移動するわけにもいかなくて、でも、あまりにも増え すぎたから整理したら、一日とおかず元の木阿弥〜って感じね)

 この部屋の散らかり具合をそう結論づける。

「で、この森何がいるの?」
「地を駆ける者、ルチルクォーツだ」
「仲いいん?(ま、十中八九……)」
「3代目ロウラルセイ王の時、不可侵条約が結ばれている」
(やっぱり。てか早!)

 キリング・タイムを止めた国王の一人が、エルディス国、
初代国王キギロン・ビオレラルド・エルディス

である。ルチルクォーツを守護獣に迎えるにあたり、国名を改名したのであ る。

「どうやらキギロン王が亡くなるとすぐに条約を持ちかけたようだな。ただ ……裁判権は、その領土の者が持つ事になっている」

 まあぶっちゃけた話、誤って聖魔獣が人間の領土に出て来て、殺されても 文句は言えないと言う事である。
 つまり、森に入ったら最後、殺されてもしかたない場所に、跡継ぎの王子 が行こうとしているのである。

「止められるだろ……」
 なぜ行きたがるか理解できないリールはあきれて言う。
「まあな。だから条件を出した」
「条件〜?」
 リールはものすごく不審そうな声をだした。

「一ヵ月以内に一緒に行くものが見つからなければ、あきらめる。だが、見 つかれば行く」

「……あぁ神様、どうして私は、あの時道を右に曲がらなかったのでしょう か?」
 ちなみに、右に曲がればシャンファン共和国に行けた。
「後悔先に立たず」
「そうね〜あんたのせいだけど!」
 にこやかに嫌味を吐いてみる。
「出発は明後日だ」
 まったくきいていない。

「ちょっと待て、私に拒否権は!?」
「あると思ったか?」
「……………。何で私なのよ、護衛なら掃いて捨てるほどいるでしょ」
 リールは、反論こそ無意味だと悟ったのか根本的なことを聞いてみる。

「だからこそ、護衛ではない別の人間を連れて行く」

 カイルは静かに、だが何者の反論も許さないほどはっきりと口にした。レ ランが口を開きかけて閉じるのを、リールは目にした。

(というかこいつ(レラン)が一番反対しそう)
 ちなみにリールのレランに対する評価はあまりよくない。

「はぁ………。ま、しゃーないか。でも、なんで明日じゃないの? 早いほう がいいんじゃない?」
「明日(あす)の朝は無理だろう」
 だいぶ、確信を含んだ言い方だ。
「?」
「とにかく明後日の朝、日の出とともに出発だ」

「はいはい」
 リールはカイルに渡されたメモと地図を持ち、立ち上がる。


「帰りの案内は外の兵士に頼んである」
 部屋を出ようとするリールに、レランは声をかける。

「ん〜」
 軽い返事をしながら、リールは部屋を出た。

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