再会 〜示された条件〜


 リールが部屋から遠ざかるのを確認して、レランはまた本を読み始めたカ イルに問う、
「だから、ケーキを二種類用意するように言われたのですか」
 二人分のお茶の用意と、二種類のケーキを頼まれた。二人でお茶をするの なら、普通同じものを二つだろう。

 レランはテーブルをかたし始める。カイルは本を閉じ一言。

「同じものでも食べただろうな」

 100%食べただろう。


「さて、俺ももう休むか」 
 今度はテーブルの上に本を置き、部屋の照明を落としながらカイルは言う。
「もういい、レラン」
「はい」
 レランも部屋の出口へと向かう。だが、彼は立ち止まり言う。

「王子、」

 言葉に反応し、カイルはレランに視線を向ける。

「約束は守っていただけますか」
 低い声で問う。

 カイルは立ち上がり、窓際まで歩く。床につく靴音がよく響く。外を眺め 振り返り、答える。

「約束は守る」

 レランは何も言わず、一礼して部屋を出た。


「………条件を満たしたら……な……」

 満月の光が部屋を照らす中、窓に背をあずけ、王子は不敵に微笑んだ。






 リールが部屋を出て行くのを、隣の部屋の住人は見ていた。ティアイエル とお付のレレルだ。

「やっぱり、言ったとおりでしょうエル様。なんであの女がエルカベイル様 のお部屋に〜!!! この数ヶ月、レラン様意外誰もお部屋に入ることをお許 しにならなかったのに! なんでいきなり現れた素性の知れない女が出入りし ているの!!!」
 早口でまくし立てる。ティアイエルは慣(な)れているものでまったく動 じない。

「あのかたは旅のお仲間だったとか。素性は知れていますし、仲がいいのも 道理では? 積もるお話もありそうですし、久しぶりの再会で、お話が弾んだ のでしょう。」
「甘いですわ、ティアエル様!! 素性なんてでっち上げたってばれませんわ! それに話なら談話室があります! あの部屋でなくたって、いったいあの部屋 の中で二人きり。何をしていらしたか!」
「レラン様もいらしたでしょう?」
「うぐ!!」

「心配しなくても大丈夫ですわ」
「でもっ」

 レレルはティアイエルを振り返り、その微笑(ほほえみ)を見て自分の行 動、言ったことを後悔した。リールが部屋に入っていくのを目撃し、ティア イエルに報告した後、出てくるまで見張っていたのである。

(一番つらいのはエル様でしたわ)
 ティアイエルの気持ちをさっし、急におとなしくなったレレル。
 ティアイエルはもう一度、リールの消えた扉を見つめる。

(あのかたはお仲間。そうでしょう?)
 だがレレルの言葉が突き刺さる。(「でっち上げたってばれませんわ!」)

(そんなことない。でも私は……入らせてもらえませんわ。……これからも……)

 実際問題、リールの素性はでっち上げだ。




 ところ変わって当の本人。
「さぁっすがお城! お風呂広い〜〜〜」

バシャバシャ

……泳ぎ始める。(オイ!)

「きもちいい〜」


……お風呂に入っていた……。



 静かな夜だった。部屋の住人はすーすーと、規則正しい寝息をたてている。
 窓にはカーテンがかかる。しかし、天窓から射す満月の明かりは、青白く 部屋の中を照らしている。
 部屋の中はかたづいているが、もともと物がない。棚の中は暇つぶし用の 本が数冊入るのみである。
 テーブルの上の水差しの水と、飲みかけの水がコップに入っている。

 もう一人ヒトがいる。部屋の中に。音をたてずにいつ入ったのか。ゆっく り、ベッドに近づく。
 足音すらしない。

 月明かりに照らされているとは言え、暗いことに変わりない。顔が見えな いが、右手に光るものは判別出来る。

……………剣だ。

 ベッドの横で立ち止まる。右向きで眠る人物の背中側…その人物を見下ろ している。
 ゆっくりとした動作で右手を上げ、………振り下ろした。

ザシュッッ

 瞬間、寝ていた人物は剣を避け、叫んだ。

「王子の客に刺客送る習慣はないんでしょう!?」

 ベッドの前方、枕の置かれたほうに片膝を衝く様にリールは体制を建て直 しながら、剣をベッドに突き刺し、シーツや中を破いたレランに向かって。 もうこのベッドで寝ることは出来ないだろう。

「そんな習慣はない。」
「じゃあなんなのよ!!」
「王子には断っている。はたしてお前が王子と行くことが出来るだけの実力 者かどうか、それにお前がいなければ王子も……」
「カイルが……」
 リールはレランの話をさえぎり、頭を下げた。握られたコブシが小刻みに 震(ふる)えている。どことなく、怒(おこ)っているようだ。

 レランは叫んだときの剣幕の変わり具合を不審に思ったが、リールの怒 (いか)り具合にはきづく事が出来ない。


ブンッ!!

「な!」
 唐突にリールは枕を投げつけた。しかし、そこは軍人というかレランは驚 きながらも剣で切り裂いた。

 羽毛が宙に舞う。

バァン!!
 だが、同時に走り出したリールは、部屋の扉を出たところだった。



カッカッカッ………

(油断した!)

 ランプの明かりに照らされた広い廊下を走りながら、リールは後悔してい た。まさか襲われるとは思わなかったのである。それも城内で、一応王子の 客人で特別待遇を受けていたのだから。それも確認した男に襲われるとは考 えもしなかった。もしここが宿屋だったら、もっと警戒心があっただろう。
 剣を持ち、履物を履くことは出来たが。

 それにしても……

「あのやろう……」
 左手に持つ剣を握りしめながら、リールは目標まで走るスピードを速めた。



 走り続けるリールは、その剣幕と勢いに驚き、止めるタイミングを失った 兵士を歯牙にもかけず、目標地点の扉を……

バアン!!!!
…………蹴破った。

 カイル(目標人物)は、寝室があるだろう…。あろうことかソファでその まま寝ていた。

 リールは、騒音にきづいたが(覚醒)かくせいしきっていないカイルの胸 倉を掴んで引き寄せながら、だいぶドスの聞いた声で言う。

「お〜の〜れ〜は〜……私の安眠を妨害しようなんていい度胸ね!!!!」
    リールの嫌いなこと その壱
      安眠妨害(人・物・騒音・その他)


   ―――――補足:お城のふかふかベッド

 なんとなく眠そうなカイルは、迷惑そうにリールを見て一言。
「……それで来たのか」

 リールの旅服は洗濯中(城の人が)である。今は寝衣だ。ひじが隠れる袖、 ゆったりとした首周り、丈はひざ下、スカートはタイトだが、腰の所で紺の リボンを巻いている。装飾のないあっさりとした水色のワンピースである。

「着替えろと!!」
 カイルの一言はさらにリールを刺激した。

「ああ。寝首はかかれなかったようだな」
納得したように。むしろ当たり前のように言う。

「お〜ま〜え〜!!!」
 リールの怒りボルテージ上昇中。



 追いついたレランはカイルに食って掛かるリールを部屋の入り口で呆然と 見ていた。

(なぜ此処が解る!)

 レランはリールを案内した時、わざと遠回りをした。一介の旅人に城中の 構造を知られるわけにはいかない。帰りも違う道に連れて行くように、一番 近い道を教えないように言い渡しておいたのだ。
 走り去ったリールを追い、たぶん行き先は一つのはずだから、真っ直ぐ 短距離を走ってきた。にもかかわらず、リールはすでに部屋の中にいる。

(なぜ!! ………だが、そんなことはどうでもいい)

 気配を殺し、部屋の中へと進む。


「にしても、衰えていないようだな」
「はぁ〜?」
 リールは怒(いか)ってます。

「構造を推測すること」

 リールは断片的な情報で建物の構造を推測するのが得意である。……まぁ、 方向がわかれば知らない道でも往(い)ってみよう! って感じでもあるが。
 今も、わかる範囲の城の構造をつなぎ合わせ、カイルの部屋(目標場所) に繋がるであろう道を予想してきたのである。

………行き当たりばったり……?


「言い忘れたが、」
「あ゛〜!!!?」

「制限時間は日が昇るまでだ」

キンッ

 リールが数秒前にいた所にレランの剣が振り下ろされる。………リールが そのままいれば、真っ二つである。


ズザーッ
 バルコニーの方向に逃げたリールは、

ガシャンッ
 そのまま、窓を蹴破りバルコニーの手すりを乗り越えた。


 剣を鞘に戻したレランはリールのあとを追う、カイルの前を過ぎた所で、 言った。

「殺します」
「………」

 レランは返事をまたず、バルコニーから飛び降りた。


 カイルは扉の外に行き、護衛の兵士になんでもないから、持ち場を離れな いように(つまり、邪魔をするな。と言いたいのだが……)扉を閉じ部屋に戻 り、ソファの下においてあった剣を持ちバルコニーに向かう。


「殺せるならな………」


 月は雲に隠れ、光は届かない。眼下に広がるは深い暗闇。カイルは四階の 部屋から、


 堕ちていった……

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