再会 〜満月の夜更け〜


 月は、また雲の間から顔を覗(のぞ)かせている。最初は静かに、次ははっ きりと、周りが見渡せるほど明るく照らす。


(なんなのよ!! ああもう!)
 城の庭を走るリールは、だいぶ身の危険を感じていた。実際は危険どころ ではないが。
(とにかく、日が昇るまではどこかに隠れないと)

 そう考えた時、

キン!! バキィッ!
 横の植木が切り刻まれた。

「ッ!!!」
 すんでのところでよけたリールは、次の攻撃の剣を受け止めるので精一杯 だった。

ガキンッ

「ッツ!」
 重い。

キンッ
 剣を押し返し、距離をとる。リールだってけして弱くはない。ただ、相手 は軍人。
(せこいわよ! こっちはこんな薄着なのに、あっちは動きやすい軍服なんて!)
 そして容赦ない。ひらいたと思った差は、簡単に消されてしまった。

「……っちょっと! 曲りなりとも王子の護衛が、人の寝込み襲うなんて卑怯 (ひきょう)じゃない!!! ………キャア!」

 はなからリールの話など聴く気がないらしい。いっきに間合いをつめ、 リールの剣を弾き飛ばした。

ザシュッ
 剣が土に刺さる音が、まるで自分の事ではないほど遠くから聞こえた。

「何とでも言え」
 地にしりもちをつくリールにレランは言い放つ。地に手を着くリールは動 くことが出来ない。剣を握りなおしながら近づいてくる人物(レラン)を見 上げている。
「お前さへいなければ、王子はデンスネスに行くこともない。この国のため に、死んでくれ」

――――本気だ。

(冗談じゃない!)
 だが、リールは動かない。動けない。逃げられない。それは、相手の力量 を見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。

 レランは、一振りでリールの首を落とせる所まで近づいた。
「お前さへいなければ……」
 許せない。なぜ、こんな女と。

…………なぜ、自分じゃないのか。

 何か、レランを普通じゃ無くさせているものが在る様だった。
 何かと葛藤(かっとう)しているようだ。原因は一つだろう。自分を拒否 したカイルへの疑問と憤(いきどお)りだ。


「死んでくれ」
 容赦なくリールに剣を振り下ろした。

……ガキンッ

 どこからきたのか、絶妙のタイミングでカイルがその剣を受け止める。

「っなぜ、邪魔をするのですか!!」
 本心だろう。主(あるじ)から剣を引いたレランは叫ぶ。
「誰も邪魔しないとは言ってない」
 しれっと、言う。
「な!!!」
 レランはカイルの言葉に驚きながらも、リールの姿がないことに気づいた (すごいな。)しかし、その時にはもう遅かった。


「相変わらずの性格悪さ! ま、知ってるけど!」
 自分の剣を回収したリールは、レランの背後から、首筋に剣をあてた。

「だから、あんなに落ち着いていたのか」
 剣を向けても、振り下ろしても、微動だにしなかった。真っ直ぐ、レラン を見ていた。
(あきらめた訳ではなかったということか。助けに来ることが、わかってい たという事か……)
 リールを横目で見ていたが、カイルに視線を向ける。

「王子、邪魔をしないで下さい」
「いやだ」
「なぜ!」
「殺されたら困る」
「王子!!!」
「邪魔をするなら、いや……」
「この女がいなければ、貴方はあきらめる」
 カイルの言葉をさえぎって言う。

「お前が寝首をかくことが出来たらな。だが、リールは生きている。お前の 負けだ。レラン、あきらめろ」

 まあ起きているところを攻撃するのは、寝首をかくとは言えない。

「まだ日は昇っていません。」
「日が昇る前までにそれを試せって事でしょ。この策略か〜」
 ちゃかす様にリールは言う。
 微妙な解釈の食い違い、まぁカイルは明らかに狙って言ったはずだ。誤解 させておくつもりで。
 リールカイルを軽蔑中。そして容赦なく一言。

「この腹黒」

「おいおい、助けられといてなんだその態度」
「刺客送りつけた奴(やつ)に言われたくない」

―――――事実だ。

「とにかく、お前はリールを殺せない」
 カイルはレランを見据えて言う。
(ごまかしたな)
 リールにはそうとれる。

「………………………………――――――」



 長い。長い沈黙があたりを支配する。月は、また雲の中へ向かう。
 空は、深く暗い。
 地は、松明(たいまつ)の灯(ひ)により影と光にはっきりと分かれる。


「―――貴方を死なすわけにいかない」
  レランの、願いだ。

「俺は死に行くのではない」
「ではなぜ!?」
「お前に関係ない」

(あ〜らま、かわいそうに。わがまま王子のお守り〜みたいね)
 実際そうだろう。リールはすでにレランに向けていた剣を引き、すこし離 れた所で成り行きを見ている。関わるきはまったくない。

「命令だ。レランお前は城城ここに居ろ」
「王子!!!」
「もう一度言って欲しいか」
「………」

「…………」


(無言ね〜)
 すでにリールには人事だ。……いや、最初から人事だったのだが。
(ていうか、この城警備の兵士とかいないわけ?)
 辺りは松明(たいまつ)が燃えるのみで、この三人以外、人のいる気配が ない。

ドッッ
 レランは地に膝(ひざ)を突き、もう、何も言わない……


 月は雲を追い払い、輝きを増したようだ。月明かりは三人を照らす。だが 夜の深さは、増したように思えた。



―――そしてもう一つ。窓から中庭を覗(のぞ)く視線には、誰もき づかない……か………





「なんでか説明して」
「何を」
 苛立(いらだ)っているのか、後ろめたいのか(←リール曰(いわ)くそ れはない。)
 早足で先を行くカイルに問う。

「言って欲しい?」

 あの後、カイルは行動が止まってしまったレランを置いてきた。(いいの か?)そして、部屋に戻るようだ。

「レランが来れば、俺を守るだろう。何があっても、命に変えても」
 リールはカイルの言いたいことがわからない。
 前を歩くカイルは立ち止まった。
「それこそ、森の中で俺に怪我をさせないように、剣を抜かなくてすむよう に。……何が、あっても」
 そして振り返る。
「だが、誰かを庇いながら進めるほど甘い場所じゃない」

 現在の聖魔獣の生態・行動はまったくわかっていない。不可侵条約が結ば れている中に、武器を持って入っていけば攻撃されるだろう。持ってなくて も同じかもしれないが。エルディス国とルチルクォーツは、関係を絶っては や何十年か……。ヒトを喜んで迎えるとは考えられない。だからこそ、聖魔獣 を迎え撃つのに、何かを庇いながら進むのではなく、互いの力を出し合って 進むのが、確実だ。と考えたのだ。

「でも、それがアンタの運命でしょ」
 もって生まれた権力的地位。それこそ、護衛は掃いて捨てるほど用意でき る。 

「さあな」

 分かっているのかいないのか、あきらめているのか、リールにはいまいち わからなかった。

「んで、私が来なかったらどうするつもりだったの?」
「傭兵でも雇ったさ」
「殺されただろうね」

 レランに。

 リールはさっきから気になっていることを聞く。
「でこの城の、兵士とか護衛とか警備・警護その他は?」
「持ち場を離れないように言ってある」
「いや、いなかったじゃん。(つかそんな問題? 普通に考えて)」
「お前が常識を語語かたるな。そして俺は王子だが。」
「………。(ああ知ってるよこんな性格だって……。何をしたのか知らん けど、こんな時だけ権力振り回すなよ)」

 あきれをすっ飛ばして、納得してしまおうと決めたリールの質問に答える 気がなくなったのか、話は終わりだと言いたいのか、目も合わさずカイルは 先に進む。

(レランに一言言ったらいいのに。言えばいいのに。言っても意味無い。の かね〜でも何か言ってもいいのかなとも思うけど……)
 まあ考えてもしょうがない。もう解決したことだ。

(気にしなきゃいいのよ)
 リールは歩くスピードを上げ、前の人物カイルカイルを追い抜く。

「寝る」
「寝られるのか」
「寝られるわけないだろが!!!!」

ベッド、ズタズタ

「別に用意しろ!」
 安眠を妨害された恨みは忘れてない。そしてまたふかふかベッドで寝る。 というリールの願望(← 一回叶った?)。というか、しつこい?

 普段の生活が想像つく様な……。

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