三人 〜その時〜


 ―砂の商業アストリッド―
 熱く広大な土地が広がる。土地の半分を砂におおわれ、半分を畑に。砂の 上に人が住んでいる。長く長く昔から、商業の国として栄え、世界との物の 売買を行ってきている。今は、キリング・タイムの終結後、数えていけば9 7。どちらかといえば短命の多い先代アストリッド王等。97代国王は、首 都アスラルの城内で人の行きかう様を見る。   

 一年を通して熱い土地で作られる香辛料。それは、他国でもことのほか人 気のあるものだった。唯一ある高山の雪解け水が、人々ののどをうるおす流 れとなって、一本の大河となって大陸を横切る。

 真上で照らす太陽が、行きかう町で会う人々、焼けた肌を持つ人々の活気 のよさを表すかのようだった――


 砂漠は、昼渡るのに適してはいない。商人は、人々は皆夕方から明け方に かけて、アストリッドの外へ、町の外へと渡る。商品を運ぶ。
 商人も、町人も、旅行者も、旅人も同様。熱い昼日の日差しを避けるよう に、皆一様に影探し。
 そんな中、アスラルに近い町の一角。いや、アスラルの玄関口とも呼ばれ る町の中。通りの食堂は、にぎやかにわきたっていた。

「かんぱーい!!」
「酒だ酒だ!」
「飲め〜〜!」

 真っ昼間からお酒をあおっているのは、どうやら集団旅行のお客のようだ。 旅先での新しい発見。喜び楽しみはめはずし。いつもと違う価値観文化。そ れと同時に起こる不安。緊張と我慢と萎縮(いしゅく)……すべてが積みあ がって、はめをはずした男どもは、まわりの客などおかまいなしに大声で騒 ぎ歌い飲んでいる。

 時間帯としては、昼の休息。食堂はすでに部屋に向かった人々と、食事を 楽しもうという人々で埋まっている。宿として使われているので、旅行者や 旅人が多く入り混じる。
 注文や店員を呼ぶ声が、一階をおおう。


「とりあえずそれだけかな。」
 たぶん、今この食堂にいる旅人の中で一番若い。椅子に座り注文をたのに、 真横の集団騒ぎをまるで無視。注文を取った女の子が戻るのを見送って、出さ れた水を飲む。

コン!
 テーブルに響く、グラスのあたる音。のどをうるおすと、リールは眠そうに 口に手をあてた。





「どうするおつもりで。」
 熱い昼の日差しの中、ゆらぎの起こる砂漠の中を歩く人影。フードのある マントですっぽりと体を覆った二人のうち背の高いほう。少し前を歩く男に、 自分の主に声をかける。

 アストリッド国は、この世界で最大の土地の広さを持つ。何の手がかりも なしに女一人を探すなど、かかる時間に気が遠くなる。小さくても十分な情 報を集めて二人は、一人を追っていた。進行路から予測するに、向かってい るのは首都アスラル。しかし、首都の中は膨大な情報が飛び交う事となるだ ろう。首都に入る前に――――

 言葉をかけられた旅人は、ずっと前を見ていた。前方に、ゆらぐことなく ゆらいでいる町が見える。

 ―砂の腕サルド―
 ここが、東から最短進路をとって首都にたどり着く前にある最後の町。ア スラルの玄関口とも呼ばれる町が、二人を迎えていた。

「…………騒ぎの中心にいるだろう。」
 それは答えになっているのか。

 カイルの言葉に、レランは否定はしなかった。





(あ〜〜おなかすいた。食べたら寝よ。)
 食堂のテーブルに右のほおをつけて、突っ伏していたリールは思う。
(は・や・く! 来い!!)
 横の大騒ぎを眺める。
(二日酔いだな。)
 夜の出発は見送られるだろう。それぐらい見て取れるほど飲みすぎだ。す でに三分の一ダウン。ずいぶん酔いが回るのが早い気がするのは、まぁ旅疲 れがあるからだろう。

 それにしても………
(うるさい。)
 空腹のリールに響く声。

「お待たせしました!」

 気絶させても酔いつぶれたと思うよな。と何をする気か危険な事を考えて いたリールはがばっ!! っと起き上がった。

「ど、どうぞ…。」
 ものすごい勢いで起き上がったリールに、運んできた女の子はおどろきな がらも料理を置く。
「どうも〜あ!! 水もらえます?」
「かしこまりました!」
 明るく笑って、水を取りに戻っていく。

「いっただっきま〜す!!」
 ぱくっとリールが食事を始めれば、後ろの連中は酔いながらもさらに頑張っ たらしく………
「こんどは俺様だ〜〜」
 ろれつの回っていない男どもが、
「あそ〜れ! イッキ! イッキ!! イッキ!!!!」
(イッキ飲みかい……)
「おおおお〜〜〜!!!」
 そしてさらに盛り上がる。
(アホだ。)

 イッキ飲みで死ぬ事もある。ここ(食堂)で死なれるのは迷惑だ。リール は食べながら、一瞬不愉快そうに顔をゆがめた。
 しかし、事態は思わぬ方向に向かった。(飲んでいる一行一同)

とある男が立ち上がる。酒をあふれるほどつがれたグラスを持って。

「「「ぅおお〜〜〜イッキ!! いっき!」」」
「まかせろ〜〜!」
(どうしよう笑いが止まらない。)
 はたから見れば落ち着いているだろうリールは、内心笑いを抑えていた。

が、立ち上がった男は、どうやら酔いが回ったらしく、そのまま後ろに倒れ こんだ。

ガダーン!! ザバシャ! グガッシャーン!!!
 男が床に落ち、酒がかかり、グラスが割れる。

――――――――…………

 店の中は静まりかえった。


 静かな沈黙を破ったのは、地に響くようだが高い声。
「………〜〜〜〜あ〜ん〜〜た〜ね〜ぇえ〜〜。」
ドガシ!!
 ひっくり返って白目をむいている男を、リールは殺す……起きろといわん ばかりに蹴り飛ばした。
「なにしやがる!!」
 起き上がった男はまたもリールに沈められる。
「ああ!? よくも私の食事に酒ぶっかけてくれたわね!!」

…………そうなのである。奇跡的? にもリール自身にお酒がふりかかること はなかったが、料理とスプーンを持ってた手にはかかった。

「殺す。」
 時々思うが、時々か? リールは、食に関しては恐ろしい。まぁほら、空腹 で寝不足だったし。

―――……フォローにもならない……。

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