三人 〜行動〜


ぐ―――――
「「…………………」」
 さて、どうするか。

 広く本棚の並ばれた空間。よくもまぁ見つけたといいたいような、人気の ない場所の机に突っ伏して、リールは眠っていた。頭の下にひかれた本と、 机の上に散らばった本。……こんなに読むつもりだったのか?

「眠いんだよな。」
 おなかいっぱい? 食べて。しかしここまで近づいても起き上がらないのは なぜか? ほとんど人が来る可能性もない所だが無防備すぎるのではないか。

「もうすぐ日が昇りますから。どこかで宿をとって休むべきかと。」
 レランは主を気づかって提案する。これ(リール)はおいといても、王子 はずっと国王の相手をしていたのだから。腹の探りあい。誤魔化しあい。や はり食えない化け狸。暑い昼間の旅路は避けて、出発は日暮れにするか。カ イルは手ごろな本を手に取った。

「おきろ」
バシッ
 重い本で頭をたたく。
「ったーー………あ?」
 頭を抑えつつ、リールは顔を上げた。
「行くぞ」
「ん〜〜……」

ガッ!!
 立ち上がろうとした瞬間、椅子の足に自分の足を引っ掛けた。
(!!!!)
 危うく倒れるところだったリールはレランに受け止められた。
「何をやって…」
 驚いて声をかけたカイルが声を失った。―――――――本人が一番驚いて、 驚いたまま固まっていたから。

(…………―――――!!!っっっっ)

「おい!!」
 まるで動かないリールを、カイルが激しくゆさぶった。
「!」
 はっと目を向けたリールは、目をそらした。

「………気をつけろ。」
 それだけ言って、カイルはリールの腕をつかんで引いていく。

――――本はそのままに。

 チラッと振り返ったリールだが、
(ま、いっか)
 司書の敵だなお前ら。

「……………(歴史書。……)」
 一方レランはリールの下敷きになっていた本を見る。それは、一般向けに 造られたキリング・タイムについてのこの国の見解が載っている。いわゆる、 世間一般に知られることだ。それに―――他の本は植物事典、医学書、言語 学書、法学書、文学書、娯楽本、はては童話まで。
(いったい何をするつもりだ。)
 まったく読んでいる本に傾向がない。すべて読んだかも怪しい。なんて考 えていたのだが、―――――主が行ってしまう。当然のごとくおいていたれ たレランは、開かれた書もそのままに廊下へと足を速めた。


 人気のない机で、…………静かに、開かれた書のページがめくられるよう に動いた。






「寝ろ」
 部屋を二つとった宿の奥側の部屋にリールを押し込んだ。

 隣の部屋に入って、カイルはベッドに腰を下ろした。
「王子。少しお休みになって下さい。」
 レランが水を差し出しながら言う。
「ああ」
 そう言いつつも、何かを考え始めた。
「何をお考えで。」
 聞かなくても答えは一つだ。はっきり言って聞きたくもない。しかし解決 しない限り主は休もうとしないだろう。……………あの娘の存在理由を消し 去りたい。

「………調子が悪いように見えたか?」

 全然全くありえない。

「そのようには見受けられませんでしたが。」
「逃げ出してないぶんおとなしいと思ったが、どうやら何かしていたようだ。」
「あれが何かご存知で。」
 いったい何処から来た者なのか。血縁は。出身は。職業は。歳は。名は――――――?
「ずいぶんと知りたがるんだな。」
「この世で一番信用に値しません。」
 ははは。面白そうに笑ってカイルはベッドに身を沈めた。

………はぐらかされた。主に休んでほしいと同時に質問の答えを求める思い。
――――結局。主を起こしてまで、答えを求めるわけにいかなかった。






「やっっほー」
「…………」
 間の抜ける声に脱力しながら、まわりに人気のないテーブルへと近づく。 そんなカイルを遠巻きに眺める人人人々。
 やっぱり。そんな思いが生まれていた。


――――目を覚ますと、レランが消えていた。…………いや、ありえないだ ろと思い直し、隣の部屋へと向かう。案の定もぬけの殻と階下の声。―――――気のせいか。不安を消し去って、階段に向かった。


 階下の光景はさすがとしか言いようがない。
 遠慮など思いもしないように、メニューを読み上げる女。その向かいで、 一向に不機嫌な顔を崩さず酒を飲む男。
 二人の間のテーブルの上に、グラスが二つに酒瓶が三本。――――あと床 に空二本。

 いわく、
「このお酒おいしいのよね〜〜〜飲みなさいよ一人で飲んでもつまんないじゃ ない。」
まぁ飲みでもしないとやっていけない。

 もうすぐ夕刻に近い時間。宿で食事をとっている人々は、そんな二人(飲 んで食べ続ける女と不機嫌オーラで飲む男。)を避けるように食事をしてい る。こんでいる店内で、二人のまわりだけ空いている。


 階段の手すりを握りながら、下を見下ろすカイルの肩が震えている。自分 から見える光景を楽しむように、ゆっくり階段を下りる。自分の姿に注文を 増やした女(リール)と、安堵した護衛(レラン)を見ながら歩く。

 人々の注目を受け流し、カイルはレランの隣に座った。

―――――――結局、支払うのは自分だ。




「おい行くぞ。」
 支払いを済ませたカイルが戻ってくる。
「はぃ?」
 いったい何処に行く気なんだ? リールが首をかしげた瞬間。またも引きず られるように店の外へと歩かされる。

 店の外では、いつの間にかレランが砂漠を渡るために駱駝を連れていた。 貸し動物なのだろう持ち主から操り方を教わって、早々に、首都をあとにし た。


「ってだからドコに行くのよ!!!」
 夕日を背に。砂よけのマントとフードをかぶり、リールは叫んだ。首都が もう背後で小さくなっていた。

 カイルが無言で、リールの前に片手に余る金属片を見せた。
「なにこれ?」
「通行証」
「は?」
「オブシディアンに会うのに、正当法が通じるわけがないだろ。」
「…………。」
 どんな不当行動に出たことやら。
 レランは深くため息をついた。そのために国王に挨拶に言ったのだから。 通行証をほしがったカイルに、ノルラド王は一番腑(ふ)に落ちなそうだっ たが、最終的には、通行証を手に入れるまでにいたった。

 リールは目の前で通行証を差し出したカイルを見ていた。そういえば、権 力地位があったわね、と。
「なんで知ってるの。」
 話してないし、第一、なぜここにいるのか。小さくつぶやいた言葉に、あっ さりと返事が返る。
「タキストが言いに来た。」
「へ〜〜〜(あのやろう)」

 ――――やられた恨みは百万倍返し――――
 どうやら高く売られたけんかを買うようで。

「セイファート王に言われてやって来たと言っていた。どうやら王は約束を 守っているようだな。」
 二度と勝手な行動をとらないように監視――――といったところか。
「へ〜〜」
 怪しくにこやかにリールは笑っている。

(子供だな)
 どっちもどっち。

「なんか言った?」
 じろりとにらまれる。

「俺じゃないぞ。」
「お前か!!!」
 リールはレランを振り返る。
(…………疲れる。)
 しかしどこか空元気(からげんき)であるような気がするのは気のせいだ ろうか―――――


 夕暮れの砂漠を渡っていると、月が浮かび上がった。目的地に着いたのは 空の先が白く輝きだした時間だった。

Back   Menu   Next