三人 〜オブシディアン〜


「お待ちしておりました。」
 大きな神殿の前で、紫の衣を着た人物が迎えに出ていた。
「王より来客があるとのお知らせがございまして。」

(客ね…………)
 のちのちに利用されそうなあつかいだ。

「しかし、」
 ちらっとカイルの後ろに目を向けた後。
「二名いらっしゃるというお話でしたが……」
「情報のあやまりだろ。」
「…………………。」
「それとも、このまま引き返させるか?」
 客として迎えたのならば、もてなさないと後で処罰を受けるのはお前だ。 今から確認を取っている暇はない。聞いた話は二人だが、本当は三人だった のか?

(うわ〜〜かわいそうに。)
(二人といわれてもしかたないでしょうに。)
 このまま押し切る気だ。まぁ二人でなければならないと言われれば、置い ていくのは決まってる。


「しかたありませんね。」
 男は、三人を神殿の中に導いた。


「オブシディアンは、この地の下にその身を移されました。入り口はこの神 殿。ほかの入り口を私共(人間)は知りません。ここは魔術師が監視してお ります。しかし、終結後七百年の間、誰も中に入ったものはおりません。」

(当然のあつかいだろうな。)
 ―――どの国でも聖魔獣のあつかいは同じか。かかわることを恐れ、人里 から遠ざけ、存在を否定する――――
 事実、一般市民への歴史の歪曲(わいきょく)はすさまじい。何において も、真実を知るのは一握り。
 リールとカイルなど当事者から話を聞いているのだ。これ以上貴重なこと はない。


 一定の間隔で円柱の立ち並ぶ道を歩く。―――――ところどころで燃える 炎がゆれる。それきり、誰も何も言わない。





「こちらの間です。」
 別段大きいわけでもないが、すさまじい威圧感のある扉。案内した術師は 鍵の束を渡す。

「私(わたくし)は興味などありませんので。」
 あっさり言い捨てて、案内した術師は離れて行った。頑丈な扉の、鍵を十 個ほど置いて。

「…………なんか多くない?」
 なんかとか言うレベルでない。
「さすが国家機密と言うべきか。」
「ただの臆病者(おくびょうもの)でしょ。」
 リールは鍵の束を奪って、早速一番目の扉を開け進んでく。

―――――――扉はどうやら相当重いらしく、自分一人だけ開き、中に入り 進んでいく。
 カイルは鍵の開いた扉を、レランが支えるままに入って行った。




 七番目を過ぎて、八番目―――――あと少しか。ふと、同じ扉が続く道を 歩きながら……

「きゃあぁあ!」

 前方の叫びに、自分で扉を開け放った。
 九番目の扉は、木でできていた。大きさも、今までよりずっと小さい。人 の背の何倍かはあろうといった扉は、伸ばせば自分の手が届くであろう高さ に縮まっていた。木彫りこそ、壮大なテーマで何か模(かたど)っていたよ うだが、なぜか、風化のない扉はそこだけ見えずにかすれていた。

「おい………?」
 ゆっくりと扉に近づく。

 扉の向こうは、何もなかった。一面の闇に、深く深くどこまでも、暗い穴 があった。………底は見えない。天井は高く作ってあったが、闇の中ではそ れすらもはっきりしない。

「………まて?……」
 ―――――落ちたのか?


「ちょっっ……なにこれ」
 あ、いた。………後ろで舌打ちが聞こえたのは忘れてやるとしよう。
 かろうじてすぐ下の岩を片手でつかみながら、吸い込まれそうになりなが らもリールが壁に張り付いていた。

「まだ九番目でしょうがぁ!!!!」
 鍵の数は十個。扉は九個。

「性格があらわれるな。」
――――この国の。
 とりあえず引き上げるか。身を乗り出したカイルを止めて、レランがリー ルに近寄った。

「さて……と」
 ちょうどリールも壁を蹴って上に上がろうとしたその時。

ガキン
 不吉な音とともに、リールのつかんでいた岩がわられた。

「っっっきゃあああぁぁぁぁっ!!」
 遠ざかる悲鳴を残して。リールは落ちていった。


「………落ちたか。………なにもわざわざ岩を砕かなくても。」
「斥候(せっこう)ですから。」

 【斥候】(セッコウ)…敵状・地形等の状況を偵察・捜索させるため、
            部隊から派遣する少数の兵士。「広辞苑」

 よくよく穴の深さを覗き込んで、底までの距離が測れないことを悟る。
「………………。」
「王子、あちらに―――」
「?」
 見れば、暗闇に慣れた目の中に石の階段が見える。
「ああ。」

 納得して、カイルは階段へ向かった。




「……………。」
 いまだかつてないほど、リールは不機嫌だった。あいかわらず悪運はすこ ぶるよいらしく、さほど怪我がひどいわけでもない。落ちたのは砂のあり地 獄で、抜け出すのに一苦労。近くにあった地下を流れる川で、水浴びをして いた。

――――当然。暗闇の中。
 水音が響く。




 底の見えない螺旋(らせん)の階段を、カイルとレランは下りていた。
「ある意味、落ちたほうが早かったな。」
 しかし、底(した)がどうなっているかはわからない。――――――冒険 するのは、一人で十分だ。
 レランの持つランプの灯が、乏しく足元を照らしていた。


さく
 ここが底―――――?
 前にかかげさせた光で見ると、どうやらあり地獄のようだ。
――――よかった。落ちなくて。

「死んだかーー?」
 見渡して、広い空間に呼びかけた。
「殺すんかいぃ!!!」
 飛んできた荷物を受け交わし、レランが受け止めた。

 聞こえた声は頭上から。

「どうした。」
「白々しいわぁ!!!」
 一通り叫んで、リールは高い岩から飛び降りて、明かりの照らす二人の前 に姿を現した。

 水滴が舞って、カイルは目を細めたが、リールの髪がぬれているのを見て、 なるほどと納得したように。
「川。か?」
 先ほどから聞こえる水の流音。
「ああ。あっち。」
 目の前の岩の後ろを指す。
「………。」
 ずいぶんと、度胸があるというか相変わらずというか。

 ここに来てあびる殺気を、まわりすべてを覆う気配の中で――――――水 浴び?

「うるっさいわね。砂まみれでいろっての??」
 ………何も言ってないぞ。ああお疲れ。

「役にたたない。」
 あっさりレランがつぶやいた。
 ふとカイルは思う。――――――最近口数増えたな。

「待ってたんでしょ。………残りを」
 暗闇になれた目で、まわりを一周見渡して、レランに明かりを消すよう言っ た。


 闇に灯る明かりが消えて、響く声も聞こえない。
 ―――静寂と、暗黒―――


「「「!!!!!!」」」
 朱(あか)い――――

 次の瞬間。まわりの空間に朱が映し出された。
 ――――暗闇に映る朱い目―――
 幾億個という目が、……目だけがまわりを取り囲む。暗闇を埋め尽くす朱 い輝きは、細められ、そこだけ闇を切り裂いたよう。体にまとわりつくよう に、視線は三人を放さない。正面から岩の上まで。はては高い階段のような 岩壁から見下ろす。

 朱く瞳孔の開いた目が、ギョロリと動いた。威圧の視線が上から下へ、下 から上へと這(は)いずり回る。瞬くことなく目が光る。

 背中あわせで視線を受けていた三人は、動かなかった。
 レランは目が現れた時点で、剣をかまえている。
 カイルは手をかけているだけでまだ抜いていない。
 リールは………?

 あろうことか剣もかまえず、視線の行動がひと段落した時点で歩き出した。

「おいおい!!」
「何をしでかすかわからんな。」
 王子とはまた違う意味で。……なぜかレランは冷静に分析していた。

カツカツカツ……カツ!!
 ひときわ大きく靴音が響いたのは、足元が砂から岩の上に移ったからだろ う。

「…………聖魔獣がオブシディアン・ヴォルケーノ王に預かり物よ。いらな いって言っても貰(もら)ってもらうわ。」

 朱と闇しかない空間に、リールは声を張り上げた。

「……………(押し付けに来たのか?)」
「……………(まだ途中で捨てなかった分ましだな。)」
 二人は思う。レランの剣はかまえたままだ。いつの間に抜いたのか、カイ ルもリールの背後で剣をかまえている。

 後ろの威圧と、声を張り上げた本人の度胸? ………どことなく怒りという か、八つ当たりのような雰囲気をかもし出しているのは気のせいか?


「別にいいのよ。このままなら帰るだけ。」
――――――取り次がなくて、後で損害をこうむるのはあんた達なんだから。

 はるかに数の多く自分より強いであろう龍に、リールは脅しかける。

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