三人 〜獣王〜


「なるほど、面白い者を用意した。」
 これまでの、まわりと同化するようではなく一つの気配が現れた。静かに 地に響く声とともに。
 まわりで炎が燃え上がった。――――火の玉。……そう表現するのが一番 いい。しかし、それよりももっと大きい。一抱えはある炎が、空中で燃え上 がっている。

 突然の火の光についていけなくて、手で目を覆ったリールが、ゆっくり前 をにらんだ。
「なにするのよ」
「………おや? 人間は光あるほうがいいのではなかったか?」
「もう少し状況考えろ!」
「……………」
 今まさに自分が面白いと表現した娘が、そちらに都合のいいようにしたは ずなのに食って掛かる。――――よく見れば、瞳孔の開き具合が変わってい る。ああそうか、人間の目の調節機関は儂(わし)等と違う。思い出したよ うに言った。

「不便な物だな」
「あんた誰?」
「……………」
 つくづく、面白い。

 くっくっとのどを鳴らして笑っていると、不機嫌そうにこちらをにらむ。
 後ろの人間は今にも切りかかってきそうであった。

 人間にあったのは幾百年ぶりか―――――
「来るがいい。」
 背を向けて、歩き出した。


(あれは―――――!!)
 突然の光になれた目で眺めると、まわりを埋め尽くす漆黒の龍。硬く光る 表皮に、長い尾。尖る皮膚に、鋭い爪。羽こそないものの、発達した足。そ して、こちらをにらむ、朱い目――― 正面に現れたひときわ大きな龍の右 目に走る傷が、とても印象に残った。その目には何も映すことはないが。

「あれが、オブシディアン……」
 つぶやいた言葉に、さすがのレランも驚きを隠さない。

「本当にいたのか――……」
「これで二種族目――――」
 呆然とつぶやきながら、それでも何かあれば切りかかりにいける態勢だっ た。――――さぁ誰にだ?


 前方には、さほど驚いた様子もなく不機嫌そうなリール。その目の前に立 つ……いや、前例からして(ルチル略)、そしてまわりの態度を見ればたぶ ん……。

 短い会話(になってないだろ!!)を続ける二人? ……一人と一匹?
 先を行く王(もう決定かよ!!)そして後をついて行くリール。
 カイルは剣を収め、自分を避けるように作られた道を進んだ。レランはつ いて行くしかない。




「して、儂に預かり物とな。」
「ああ〜え〜〜……。」

 大きな洞窟の中、奥には池のように水が引かれている。天井に火を浮かば せた。三段ほど高くなった台座に座り見下ろし、いきなり用件をきりだして きたオブシディアン。リールは視線を別の場所へと移す。……広い空間だっ た。照らされた天井は何処までも続き、岩壁の間の鉱物が浮かぶ火の灯に反 射している。球状の天井の一部が、ぽっかりとあいている。そこもまた先は 見えず、暗い。

 一通り見渡してから、ちらっと後ろに視線を向ける。当たり前のようにそ こにいる男と、当然のごとく立つ男。…………どっちが厄介か。…なんて事 を気にしているわけではない。
 小さく小さくため息をついて、ゆっくり、首にかかる鎖を引き出す。ふわ!  金具をはずし手のひらにおさまった物は、突然浮き上がり王の下(もと)へ と。
 カイルとレランは黙って見ていた。

 王の目の前にネックレスが浮かびあがっている。漂(ただよ)うにふわふ わと。
 そして―――――鎖にかかる水晶から、この場に似つかわしくない翠の光 が生まれた。


 小さい光が大きく強く―――――

ぱぁん!!
 そして輝いたと思った翠の光は四散し、後には、何も残っていない。


「………………」
 もともと静かで、話したいことがあるわけもない。リールは黙って前を見 ていた。光をあびて瞳を閉じるオブシディアンを眺める。

 長いようで短い時間。どれほどだったのだろう。閉じた瞳が開いた。

「―――――名は?」
 今まさに思いついたように問われる。
「エアリー・リール」
 隠すことでもないし。問われるまでの過程は忘れる。
「ほう…」
 朱い目がなにか見定めるように動く。それから、その視線が後ろに向かっ たことに気づいた。

「エルカベイル・エルディス」
「レラン・グライン」
 本名名のると思わなかった―――――

「考えたな…………。」

 ……何の話だ?
 エルディスという言葉に反応を示したらしいオブシディアン。しかし、ど こか納得している――――?
 思いっきり首をかしげるリール。とは言っても、さほど重要そうにしてい るわけでもない。

 ――――どうやら、儂も何かせねばなるまい。
 意を決したように動く目。ふいっとネックレスが奇跡を描き、リールの眼 前へとやってくる。

 ………手を伸ばして、下りてくるのを受け取ろうとすると――――

ぼ!!
「わっっ!!!」
 朱い炎に燃やされる。
「って! ………?」
 一瞬にして燃え上がった炎は、静かに水晶に引き込まれ、リールの手のひ らに落ちてきた。薄い翠に色づいていた水晶が、今度は朱色に染まっている。

「シーネリーに渡せ。」
「誰よ」
「ああ………アクアオーラと言うべきか。」
「なんで私があんた等(聖魔獣)の仲介人しなきゃならないのよ。」
「ほおぉ」
「冗談でしょいかないわ。」

 拒否するリールを眺めた王は、静かに腕を動かした。

「?!!」
 リールの手の中のネックレスが浮かび上がって、勝手に首にかかった。カ チッと不吉な音がして、王の瞳が金色を帯びていたことに気づいたら、リー ルはあわてた。

「っ―――!! ちょっっ!!」
 ――――――外れない。止め具が動かない。
「無駄だ」
「外せ」
「そうしたらお前は行かないだろう?」
 どこか馬鹿にするように言う。
「行ってもらう。何があろうと。」
「………………。」

カッ!!!

 怒りにゆれていたリールは、王をにらんでその場を去った。振り向きもせ ず、着た道を進んでいった。


(………………。)
 自分の横を去っていったリールを見送って、カイルはいろいろと思案して いた。持っていたんだ、とか、セイファートは何をよこしたのかとか、目の 前の王はどのような者かとか、驚いたり安心したり疑問。………上げた視線 で、オブシディアンの王を眺めた。かち合った視線を受け止め、はずし、ひ とつ礼をして歩き去った。




「………セイファートめ……。」
 歩き去った背中をまだ見ながら、ヴォルケーノはうめいた。
「王」
 ずっと後ろにいた一匹の龍が現れる。
「大丈夫でしょうか?」
「心配はいらん。あれは何があろうと役目を果たす。…………ラビリンスに そう仕込まれているのだろうから。」

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