三人 〜異状〜


 地下は炎に照らされ、その姿を映し出す。巨大な地下空間は、ところどこ ろに火が浮かび灯り、明るい夜のように景色が見えた。
 岩が山のようにそびえ立ち、個々に洞窟が見える。

ドガ!!
 怒りつつ立ち止まり、岩のひとつを蹴り飛ばす。
 振動が伝わって、小さな石が転がり落ちてきた。
「?」
 泣き声が聞こえたような――――? リールは急な岩の斜面を、目を細めて 見上げた。


「……いったい何がしたいんだ?」
 後ろから歩いてきて、地に置いてある荷を見た。何事かと見上げ、岩壁を よじ登っている荷の持ち主に、あきれ半分に問いかけた。
 答えは返らない。………聞いてない。


ザザァッッーーー
 岩壁を滑り降りてきたリール。その腕の中に抱えられていた子龍。

「小さいな」
「なんかね」
 小さいといっても一抱えはある。しかし、ヴォルケーノの大きさから比べ ればあまりに小さい。
「こんなにちっさいのもはじめて見るわね。」
 いいながら、リールはずっと子龍の背中をなでていた。………なぜか子龍 は、ずっと震えているから。
「寒いわけじゃないだろ」
 地下に収まる空間は、火の光に暖められて、暖かいと感じるくらいだった。
「…………脅えてる」
 ―――――何に?

 答えは、すぐそこにやって来た。

 歩き出した三人を追う二つの影、――――――そう。その背後から、自分 の仲間に向かって襲いかかった。


 岩と岩の隙間で、一匹で震えていた子龍は脅えていた。小さな小さな気配 を見つけ、見慣れぬ自分の姿に戸惑う子龍に、リールは静かに穏やかに話し かけた。そして―――いまだ震えていても、子龍は腕の中に、背をなでる手 を拒否しない。

「大丈夫」
 ぎゅっと子龍を抱いて、微笑んだ。その歩みは止まらない。
 同時に、その後ろでリールに向かって飛び掛ってきた二匹の龍が、剣を抜 きながら振り返ったカイルとレランに、容赦なく足止めされた。

「「ぎゃ!!!!」」

 大きさで言えば、レランとそんなに変わらない龍は、地面にたたきつけら れた。それでもなお、リールに、いや目的は子龍になるのだろう。それに向 かって襲い来る。
 リールの腕の中で震える体をさらに硬くして、うなり声に脅える子龍。
 一方のカイルとレランは二匹の龍をうまく誘導し、正面からたたき合わせ ることに成功した。

ぐしゃぁっ!
 激突し、地に倒れこんだ龍は、ぶつかった相手をにらみながら、―――― ――突然、相手の体に食いかかった。叫ばれる声と、血と共に飛び散る肉片。
…………どちらかが死ぬまで、共食いは終わらない。そんな光景。

 目の前で互いを食い始めた龍を見て、リールは子龍を腕に強く抱く。青ざ めた顔をして。引きつった表情のカイルと驚くレランは剣を持ち、強引に二 匹を引き離した。一匹ずつ相手にして、行動を止めることに専念して。


(―――――――!!!!)
 リールの背後、二匹が飛び降りた岩の上から一人の男が飛び降りてきた。
 男はカイルとレランの剣下に抑えられた龍よりも、見上げた視線に抱えら れている子龍を見て、息をのんだ。
「……――何処に?」
「? あっちの隙間に挟まってたけど?」
 言いながらあごで方向を示す。…………少し違うだろ。
「で、誰?」
 ゆっくりと、まわりに現れる龍の数が増えていく、しかし、その大きさは 一様に大人であろう。腕の中に抱えるのと、襲い来たに以外、子龍と呼べる 龍はいない。

「――――これではわからぬか?」
 どこかからかうように、男はリールに向かい言った。

「ふざけたことやっている暇があったら、説明してもらおうか。」
 にこやかににらみあう二人に向かって、問いつめる声がした。

 カイルは足で龍の首元を踏みつけ押さえつけていた。抜け出そうと暴れる のでさらに強く押さえつける。
 レランは飛びかかった龍を一撃で気絶させ、剣を収めてカイルの後ろに向 かった。
 黒髪に朱い目の男、頭に二本の角と口元に見える歯。右目に走る傷と、頬 (ほお)に残る傷跡――――王は複雑そうに視線を向けた。

「簡単な話だ。――――少しいたずらがすぎる。」
 そんな言葉ですませていい問題か?
「…………」
 カイルはその答えに対して、信用はしてないがとりあえず黙った。


 たぶんここが部屋となるのだろう。三人と王と一匹は、台にのったり、淵 に座ったり。―――――結局帰ってきてしまった。はじめに案内された場所 に。
 共食いをはじめた二匹は連れて行かれ、死ぬことはないと告げられる。

きーー!!
 声にならない高い音が響いた。反応した王とカイルが視線を向けると、 リールが子龍を服から引き剥がそうとしていた。
 リールは困ったように子龍を見ている。地に下ろそうとしたら、爪を立て 自分の服にしがみつく子龍。すでに手を放しているので、ぶら下がっている 子龍は必死だ。―――――とれない。

「―――おーーい……。」
「よければ、抱いていてくれ」
 リールのほうに向かって歩きながら、王が声をかけた。
「……………」
 まぁ断る理由もない。もう一度腕に抱え、それでもまだ震える体を、ゆっ くりとなでる。
 近づいてきた王は、その途中で止まり、戻った――――
 静かに落ち着きを取り戻して―――ゆっくりゆっくり、微笑むリールを見 ながら子龍は眠りについた。

「………。」
 無言でカイルは王をにらんでいた。
(さて、どうでるか。)
「この種族は飢えたら仲間に食いつくのかしら?」
 ひざの上で眠る子龍に自分の羽織をかけて、リールは問う。高く低く現実 を。
「オブシディアン、ヴォルケーノ王。」
「何が言いたい。」
「異常(いじょう)」
 冷ややかに言い放つリールの声に、驚いた子龍が目を開けた。
「ってああ〜と……ごめん邪魔して。大丈夫だからおやすみ。」
 そう言って笑いかけると、あ!っと思い出して言う。
「お前母親は?」
 その言葉を聞いていたのかわからない。子龍はひざの上に目を閉じた。一 瞬目を伏せた王が視界に入る。

 黙って、子龍が眠りにつくのを待った。静かな寝息が確かなものに変わり、 リールは王に向かって問いかけた。

「母親がいないのね。なんで?だから脅えていた。」
 そのままでいてほしいという頼みも、あながち納得できた。
「…………また、ずいぶんと…」
 王は少なからず驚いたようで、感心しているような。
「そして、襲い掛かってきたのは子龍。」
「………」
 どうやらいきなり確信をついたらしい。王の表情に一瞬ヒビが入った。

(変だ。子供になにかが影響してる――――?)
 王の表情を見て、リールは自分の考えが確信に変わっていく。
 ルチルクォーツのことを考えても、リールは自分の考えがまったく外れて いるとは思えない。あの後、森では結局、なぜルチルクォーツの子獣が死ん でいくかわからなかった。
(なんのための知識よ―――……)
 たとえ相手が聖魔獣であっても。

「それの母親は殺された。」
 ………話されたのはそれだけだ。

「誰に」
 はたして誰という表現があっているのか。

「………食い殺された。」

「だから何に!!」
 恐ろしく残酷なことを言うヴォルケーノに、リールは叫ぶように強く問う。

「それはまだ幼龍の段階だ。」
 リールのひざの上を指す。
「食いかかったのはひとつ上、児龍の段階にあった五匹だ。母親は、強い力 の持ち主ではなかった。」

 同族の……―――――子供に?

「抵抗するには、殺すしかなかったのだろう。」
 しかし、今の状態で抵抗すれば………。知っていたのだから、母として、 子に対する思いを―――

「――――少し前、に。儂等が見つけたときには、もう遅いというのだろう な。」

 少し? 具体的に何年ですか?

「肉が少しずつ欠けていく光景。残ったのは小柄な体格をさらに小さくした 肉塊。―――隠されるように岩の間に入れられていたそれはすべてを見てい た。」

 ひざの上。小さな体を丸めて眠る。―――――……一番最近に生まれた命。


「それを黙って見てるわけ?」
「三匹は死んだ。自分より強いものを食い。新しく得た力を手に余らせて。」
「共食いして死んでると?」
 リールの声は低くなっていく。
「そういう事になるな」
「異状(いじょう)」
「そうかもしれないな」
「?」
「ずいぶんと人事みたいにしているようだな。」
「それは、お前たちに他ならないだろう」

 ――――人事?!

「だったら人事らしくしておきたいわ。」
「そんなに冷静でいていい事だと。」

「………それで、いつまでいる気だ。」

(―――――話そらしやがった!!)
(―――――そうきたか)

「あいにくと、ここにはお前達が口にできるような物はない。」
 何を思ったのか、言い出す言葉はそれか。
「別に人間二、三日食べなくても平気だし。」

「「……………」」
 確かに蓄(たくわ)えはありそうというか、お前が語るなというか。

「なによ?」
「別に」
「説得したければそれに見合う行動をとれ。」
「黙れ」


くっくっくっ……
 三人のやり取りを見ながら、王が面白そうに笑っている。


「お前まで笑うんかい!!」
 リールは叫んだ。………どうやらなれたらしく、もう児龍が起きることは なかった。

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