三人 〜動き出す〜


「王。」
 リールの叫びが落ち着き、ストンと淵に腰を下ろしたのを確認して、カイ ルは王に話しかけた。
「セイファート王をどうお思いで?」
「それはどういう意味だエルディスの使いよ。」
 まったく引くことなく言い放ったカイルを見る王の声が、警戒をおび低く なる。
「そのままですが?」
「儂がわざわざ話すと。」
 さっきとは違う獰猛(どうもう)な笑みで、王はおかしそうに笑った。

(直球勝負?)
(王子。また何かもくろんでいませんよね)
 基本として、レランの不安は現実になると思ったほうが早い。
(行動意欲がおありなのはよろしいと思います。が、)
 この娘のためであることであれば話は別である。

「たまには、上(地上)の情報も必要だと思うことはおありでしょう。」
「……………」
 うっとうしそうにカイルを見ていた目が、あきれながらつぶやいた。

「上(地上)にはお前のような人間ばかりか?」

「それはないわね」
「王子がもう一人でもいさえすれば、世界が征服されないのがおかしい事か と。」
「お前ら俺を何だと思ってる?」
「自覚症状ないあたりがきついわね。」
「ありのままを述べるだけです。」
「………………とにかく、質問に答えていただきましょうか。」

 何か聞き出そうとするカイルと、話したくないのだろうヴォルケーノが軽 く受け流すのが聞こえる。面白そうに眺めていたリールだが、眠る子龍をな でる手の動きが止まる。………うとうとと、眠りの淵に下りてった――――


 ………夢の中で、自分の体に布がかかるのを感じた―――――


 娘は睡魔に襲われている。それもそうだ。消え去ったセイファートの力の 場に、儂の力が加わった。体がなれんのだろう。
 受け入れるのは簡単だが、受け入れる対象がかわるときつい。………まぁ、 なれだ。






「おきろ」
 突然レランに起こされたリールは、夢が夢であると知った。
(………寝てたのか……)
 ぼーーーっとしているのは、寝起きだということだけでなく、自分が眠っ ていたことにも驚いて行動が伴(ともな)わない。

 ひざの上の子龍を抱いてのろのろ立ち上がり、顔を洗いに行った。その時 も、子龍はリールから離れない。

 カイルが後ろにいたが、なんとも複雑そうだった。まぁきっとうまく話を はぐらかされたんでしょうね。

「やさぐれるな!」
 にこやかに、朝の挨拶を。
「寝起きの悪さは世界一だな。やっと起きたのか。」

ぴし!

「地上への道はヴォルケーノ王が案内をしてくれるそうだ。もと来た道を通 る必要はない。」
「あっそ」
 徐々に冷えていく空気を感じ取ったのか、児龍が小さく鳴いた。






「名はトゥール。」
 丸一日ヴォルケーノの背に乗って、洞窟を東へ。神殿以外の唯一の地上へ の入り口――――巨大な石の階段の前で、やっと引き剥がすことに成功した 子龍をつまみながらヴォルケーノが言った。
「ばいばい」
 ヴォルケーノの爪に首根っこをつかまれて、宙に浮く格好のトゥールに声 をかけた。
 キーーとかすれる音は、昨日聞いた時より声という音に近かった。

 階段といっても、……まあ階段といえば階段よ。でもね、誰から見て階段 に見えるかが重要でしょうが!!! 上がるというよりよじ登って、三人は地 下を後にした。

………ほら、利用するのはオブシディアンだし。




 三人の気配を見送って、ヴォルケーノは振り返った。

「時間がない―――か…………」
 つぶやく言葉は少なすぎて、トゥールにはなんだかわからない。
 完璧に人とのかかわりを絶った自分には、待つことしかできないか? そこ まで考えて、ヴォルケーノは自嘲気味に笑った。たかだか三日でよくもまぁ 変わったものだ――――それもさだめなら、受け入れてもよいと考えていた のに――――…………




「あの化け狸といい勝負だな。あの爺(じじい)。」
 年齢でいけばいったいいくつか?! 砂漠の空の下、小さな町の露店商路を 歩きながら、カイルはずっとぼやいていた。

「あれからずっと問い詰めてたの〜? 暇人ね。」
 どうせ話すわけないじゃない。そういえば、どっかの王は一人で語るのが 好きだったわね。
 そんなことをいいながら、リールは空の下にあるであろう出てきた場所を 振り返った。

「だいいち、仕事しろ。」
「王子、少し落ち着いて下さい。」
「俺は冷静だが?」
(この人はわかっていらっしゃるのか?)
 城にいたうち、わかっていた事だが、どれほどまでに理想的な王子像を作 り上げていたのかよくわかる。

「しゃべらしとけば〜〜そのうち話題に詰まって黙るわよ。」
「お前もお前だ」
「意味わかんないわよ。」



 そう、リールが深い眠りに落ちた時。

「そこの娘。あまり一人にさせないほうがいい。………………でなければ――――……どうやら内に秘めるのが得意なようだな。」
「何が言いたい。」
 言いかけて、はぐらかす。さっきからこれの繰り返しだ。
「そうだな。―――――面倒な事になる。」
「…………」

 納得のいく説明はくれない王だが、説得力はありそうだった。







「あーーー!!!! あれおいしそう!」
((――――いきなりそれかい!!))
 階段の先の天井をふさぐ石をどけると、そこは海岸の絶壁の下にある洞窟 だった。そこからまた上へと上り、眼下に見えた港町へとやって来た。まだ 日の熱い時間だが、送られる潮風に熱さも半減される。人々は忙しく露店商 路を歩いていた。

 日に何回も何回も通る人、一定の期間ごとに通る人、やって来てまた戻っ てくる人、過ぎ去ってもう一度も通らない人。いろんな人が渡り歩く。一本 の道を。

 昼食は何処か入って食べてもよかったが、並ぶ露店商に食をそそられる。
 カイルから財布を奪って、リールはちょこちょこいろいろ買って、戻って くる。三人でなんだかいろいろ食べながら、またもカイルが愚痴愚痴ぐちり だす。…………よほど、アストリッド王とはあわないらしい。

 レランの真面目な突っ込みと、リールのからかいが混じる。活気付く道に 溶け込んで、笑い声が生まれた。






 …………――――なんだかあまりに楽しくて、自分が何処にいるのか、何 処に近づくことになるのか、そんなことも忘れていた。


――――今は一人じゃないのだからそんな思いが心にあった………道を進み ながら、常にまわりを警戒することもなく。



 ……………だから、気づかなかった。
 前なら絶対、気づいた気配を。



「リーディッ!!」

 ………つかまれた右腕が強く引かれて、体ごと振り返るしかなかった。

〜三人〜  終了


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