会議 〜そして幕が開かれよう〜


「連れてきたわよ」
「生贄(いけにえ)か?」
 目の前でリールが薬を飲んだにも関わらず信用しなかったシャドナスタ王。少なくとも、薬師と患者の間では、一定の信頼が築かれなければならない。薬師の調合した薬を、なんの疑いもなく飲んでくれる患者を。―――そこを利用して、そして今のシャフィアラがある。今のエアリアス家の手口も。悪行も。
 先にお前が中和剤を飲んででもいたら困ると、一言。曲りなりとも王族だ、毒殺という言葉は捨てられない。
 そういえばそう気にした様子もなく、なら一人連れてきて飲ませるわと、女は部屋を出て行った。ここは後宮だというのに男を連れてくるとは、いかにして侍女と兵士を言いくるめたものか。―――いい度胸だ。
 最悪、リールは黙殺するから。それか昏倒(こんとう)させる……

「飲め」
 グラスに並々と注がれた薄緑の液体。原液を薄めたようだった。
「あのですねぇ」
「大丈夫、墓なら立派に飾り立ててもらうから。外見」
「それはまた」
 嬉しくねぇーー!!! しかも、喜々として王子が行ないそうなっ!
 リールの一言に回りにいた侍女達に緊張が走る。見るからに顔が青ざめるものもいる。しかし、そんなもの目に入らないとリールはセイジュで遊んでいる。
「さぁ、早く」
 言葉の言い方だけはかわいかった。本性を知らなければかわいいと思えるだろう。たぶん。本性を知っていてなお、きっとあの王子は……
「レアーシャ様をお殺しになる気ですか!!」
 侍女の一人が騒いだ。
「黙れ」
 咎(とが)めるように、シャドナスタ王の注意がそちらに向いた。

「―――殺したくて、作ったわけじゃなかったのに」

 その言葉は、なんのための、誰のための言葉だったのか。
 囁きが聞こえたセイジュが息を殺した。―――あまりに、重すぎて。

「飲みますよ、飲めばいいんでしょう!」
「最初からそう言ったわ」
「ぐ」
 そんなやり取りに、国王がこちらを振り向いた。

「せーの」
 と、掛け声をかけて、セイジュは一気にグラスの中身を飲み下す。

 独特の草の感じと苦い味が広がって、そして消えた。

「―――? これは……」
 セイジュは、言葉を切った。
「さぁ、どうしますか?」
 これを、飲ませますか?
「―――そうしよう」
 これまで、そうであったように。
 小さくため息をついて、リールは香を焚(た)いた。

「……ぅ……ん?」
「レアーシャ様!!?」
 目を開いた少女を覗き込んで、リールは碗を手渡した。
「これ、は?」
「飲みなさい、レアーシャ」
「おとう、さま?」
 ともすれば碗を落としそうな細い手が震えている。
「でも、」
 自分の事は、本人が一番よくわかっている。そうリールは感じている。薬草の用意をさせている時にわかった。そう、彼女は死ぬ。死にたがっている。
「もういいの」
「レアーシャ」
「これ以上、人の迷惑になるなら」
「勘違(かんちが)いしないで」
「ぇ……?」
 鋭い声に、少女の目が見開かれる。はじめて、そこにいるのがいつもの医者でないことに気がついたように。
「あなた一人が生きようと死のうと、この世界では何もかわらない。けれど、自分で死ぬか生きるかも選べない人がいることを知っている?」
「ぁの?」
「この国にいた以上、あなたはもう亡くなっていないといけなかったのに、今生きていることをわかっている?」
 カタカタと、少女が震えだした。叫ぼうと一歩進んだ侍女を国王が制した。
「死ぬはずのない人が死んで、死ぬはずだったあなたが生かされているって知っている!?」
 手から碗を取りこぼす事ないように、支える手にリールは力をこめた。
「―――死んで逃げようなんて、考えない事ね」
 生きることのほうが辛いと、知っているから。

 震えながら、それでもゆっくりと碗を口に近づける少女に手を貸すリール。その、なれたしぐさ。
 さ湯に混ぜた薬がのどに流れる。久しぶりに飲み干す水は、まるで心に苦い物が広がっていくようで、―――そして消えた。

 数分、少女が息を整える声だけが響いていた。

「本当は、」
 ぽつりと、落ち着かした息をついて少女、王女レアーシャが言う。
 ただ静かに、リールはその目を見た。
「私なんか死んだらいいんだって思ってました」
 言葉の端に見えない幼さ。態度だけは毅然(きぜん)とするように教え込まれた。
「私の命と引き換えに、お母さんが死んでしまった……」
 ぎゅっと、白い布を握り締めてレアーシャが言う。
「私を殺してお母さんを生かせばよかったんだぁ!!」
 ただ言葉に固まったシャドナスタ王、侍女達。
 リールが少女を引き寄せて抱きしめた。レアーシャはリールにしがみ付いて、声をあげて泣いた。








「―――あの薬」
「何?」
「シャドナスタ王の口にさせなかったのはそのためですか?」
 あの味なら覚えがある。どこにでもあるような薬草と、エルディスで咲く花の香り。
「彼女は、自らが生きる意志がなかった」
 いくら治療したところで、無駄よ。
「――それでも、“エアリアス”の薬で生きながらえたんですか」
 だと、すれば。
「………エアリアス(私達)に惑わされてはいけないのよ」
 今のシャフィアラの島人だって、その昔自分だけが先に治療できるように毒を撒(ま)いた結果できた、患者なのだから。

 エアリアス家の薬は、毒だ。





「おかえり」
「―――ただいま」
 その言葉に息をつける。どこにいても、どこに行っても。帰ってこれる場所。
 陰謀も策略も期待も怨みも――忘れはしない。けれど、ふと、気がつけば帰ってくるこの場所。
 声を掛け合って、目を合わせたままの二人。はたから見れば見詰め合っている……
「あのぉ〜〜?」
「「黙らせろ」」
 綺麗に、かぶった。
「………」
 レランが、当然のごとく無言で剣を引き抜いた。


 やっぱりセイジュの悲鳴の響く一日だった。




「今日はいい日ですね〜〜」
 片手に酒盛り。
「やはり他人の不幸をツマミにするのがいいですね」
 ちょっと待てと、誰も言わない。どうあってもカクウはカイルの護衛ですから。

 どいつもコイツも人外か。

 大丈夫かよエルディス国。





「何をしている」
 心底、驚いたようにノルラド王は声を失ってそしてつぶやいた。しかし、誰も気がつかない。息子も、ニクロケイルの王子も声を失っていた。
「何をしている!!!」
 ついに、怒鳴った。
「ん?」
 用意されていた菓子をつまむ手を止めてリール。
 読んでいた本から目を離してカイル。
 地に向けて下ろしていた剣を止めてレラン。
 振り下ろされた剣を両手で挟むように止めていたセイジュが助かったと顔を輝かせた。

 四人が振り返ってノルラド王を見ている。妙な光景だ。

「………いったい、お前達は何がしたいんだ!」
「四の獣王を引き合わすこと」
「………」
「そんなことしてなんになるんですか?」
「――知らない」
「“知らない”?」
 意外そうに、カイルがリールに問いかけた。
「私は、ただ、」
 ただあの日の約束を果たすだけ。そうでしょう?
「再び大陸が沈んだら、どうしてくれる」
「そんなことない、絶対に」
「そんなことがなぜ言い切れる!」
「ラーリ様は絶対私達を滅ぼしたりしない!」
「ふざけるな娘!」
「―――止めよリール。お主が責められる事ではない」
「シーネリー様」
「………」
 静かにその名を呼んだリール。今まさにその王を疑っていたノルラド王が、ばつが悪いという感じで咳払いをした。
「アストリッドの王」
「なんだ」
「こう言ってすぐに信じてもらえることだとは言わない。ヴォルが一番危惧していたのは、自国の王の強情さであったくらいだ」
「………」
 それは、どういう意味だったのだろうか。オブシディアンの王が危惧していた事、アストリッドの王が危惧している事。それはたぶん、互いが互いを一度も、干渉することがなかったせい。
 国の名を考えたルチルクォーツ、今なお王のお気に入りのアクアオーラ。そして、信頼を勝ち取った少女を手足に使うレピドライト。
 地下に閉じ込められたオブシディアンとは、違う。自国の聖魔獣にも、王は会ったことがないのかもしれない。
「だが、私達は、もう限界だ」
「どういうことだ?」
「―――条件を出そう。リール、お主言わなかったが、なぜだ?」
「あの状況でどう言えといわれるのですか?」
「……そうだな。シャドナスタ王は? どこに?」
「ここだ」
 音なく開かれた扉。
 視線が集まって、シーネリーに移る。
「これは、私が言う事ではない。リール」
「私? ―――四の獣王達が集まるとき、四国の王、もしくは、各国の代表が立ち会うことを許可する、と」
「な、に?」
 ノルラド王は驚いたようだった。
「――何かあれば、そこで彼らを切ることも、できると」
「それは、どこだ」
 一歩進んで、シャドナスタ王が言う。

「四の獣王が集まる場所はエルン大陸の上、かつて「すべての始まり(オープ)」と呼ばれた場所」

「あの大陸は沈んだ」
「浮上しています。一部だけ。海流の乱れがそこから発していますから」
「何を愚かな」
「シャフィアラはエルン大陸に一番近いので、影響はすぐにわかります」
「“あの国に入ることはできない。”これは?」
「それはただ道を知らないだけ。でなければ、どうしてエアリアスの薬がここにあるんですか?」
 おそらく、アストリッドにもあるはずだ。エルディスにだって、あの薬を常時置いておく店があったように。
「そんな所に集まって、何をする気だ?」
「それは、みながそろった時にわかろう」
「ここでしゃべる気はないのか」
「これでも、私達には一大事であるからこそ。こちらの不利益になるかもしれない輩(やから)に話せるわけがない」
「―――違いない」
 面白かったらしく、しばしシャドナスタ王が声をあげて笑った。
「あ〜〜やっぱり、お前は水の中に入れておきたいな」
 ビシッと、シーネリーのうしろの窓にひびが入った。
「………」
 その氷のような表情に、部屋の中は沈黙した。
「いや、悪かった」
 ふっと、シーネリーが目を上げた。
「俺は賛成しよう」
「なっ」
「王!」
「うるせぇ………何を呆けているんだ?」
「意外」
「意外だな」
「………」
 この二人は、わざとなのか?
「だが、兵士も、術師も、連れて行かせてもらうがな」
 城の下にシーネリーを閉じ込めた、結界の術師。
 キリング・タイムの時、四人はそれぞれの力をあわせ聖魔獣の王を捕まえた。すなわち、結界と剣と言葉、そして術。それらの力は今なお、各国を支えている。
「少しだけ長い船旅になりそうだ。準備を!」
「ふざけるな!」
「本来ならば、人間に聖魔獣を制限することはできようもない。あの頃とは違って、あれだけの力を行使する王もいない」
 静かな、半分あきらめたようなシャドナスタ王の声だった。
「なのに、この700年以上を彼らはその仕打ちに耐えてきている。まして、人と同じ姿を取れるにも関わらず、人間を使って接触を計って来た。それこそ、彼らを信用するに値するのでは?」
「………」
「それに、知らない所で勝手にことを運ばれるのは不愉快だ。立ち会ってもよいということなんだ、万全の準備を期してその舞台に上がらせてもらおうか」





シャドナスタ王とその近辺の人々が気に入らず書き直す事数ヶ月……?
なんかもう2ヶ月に一回更新ペースですね。さすがに2ヶ月も更新してないと焦るので……
本当は1ヶ月に一回更新が理想なのに……(しくしく)
あ、「最後の国」のページ数が増えてますけど、ちょっと区切りを変えてページ増やしただけです。
内容になにも変わりないです。

そして、セイジュボロ雑巾☆いやぁ、楽しいなぁ。
レラン、活躍してません?

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