聖魔獣 〜その手を〜


 はっと、リールが目覚めると、そこは自分の部屋。エアリアス家で自分の仕事場として、その塔を仕事場にする役職の地位に就いて寝泊りした寝台の上にいた。
 ゆっくりと回りを見渡す。あの頃と変わらない家具、窓。
 さらりと、髪が流れる。

「――!!?」
 部屋の中にも、外にも見つけられない人を探して、リールは走り出した。




「王子〜いいんですかぁ〜?」
 眠い目をこすって、セイジュが声をかける。

 いきなり航路をシャフィアラに向かわせたのは、昨晩。もう日も昇っている。カルバード王は違う船で、ニクロケイルに向かった。もう着いたころだ。

 昨晩、シャフィアラの島は目の前と言う所まで来た時、船の前にレピドライトの王のお付がやってきて、王子に乗れといった。驚いた表情の王子(普段見られないだけに貴重だ。むしろ逆に寒気が走ったりする)は、すぐに背に跨(またが)った。悲痛な声をあげるレランを無視して。
 ちなみに、セイジュはその頃夢の中だ。そしてその後すぐに殺さるところだった。レランに。

「……行くぞ」
 海岸沿いに森があって、カイルはそこから出てきた。
 小船が一隻砂浜に上がっている。四人も乗ればいっぱいになる小船。

 レランとセイジュは船を浜に寄せたら、森の近くで主が来るのを待っていた。
 空が白んで、日が昇りきったころに、王子が森の中から姿を現した。

 王の言い方を借りるなら、一人で。

 無言で、目の前まで王子が進んでくるのを待つレラン。それよりも小船に近い所に、立っているセイジュ。

 さくさくと、砂を踏んで歩く音が、一つ、二つ――

「ちょっとひどいんじゃない?」

 その声は、精一杯怒りを含ませてはいても、収まっていない呼吸の荒さを感じさせるようだった。
「……ひどい格好だな」
「あんたもね」
 確かに、昨夜のカイルもひどかった。何がといえば、全速に近い速さで飛ぶシーンの背にいたのである。そういえばレピドライトに乗るのも初めてだった。

 それに比べれば、リールはもっとひどい。
 朝露にぬれた植物は所々足をぬらし、腕をぬらしている。茨の草はその鋭さを増したように、肌に赤い線がにじんでいるし。髪に至っては言うまでもない。
 しかし、露が髪にかかり、太陽の光が当たる。反射して輝いた髪の色はまるで黄金のようだった。

 いつものように剣を刺して、いつものように服を着て、靴を履いて。
 またどこか、旅に出かける格好だった。少なくとも汚れている部分を除けば。


「はぐっ!?」
 何か言おうとしたセイジュは、言う前にレランに首を絞められた。そのまま小船まで引きずられる。


 少し、遠かった。
 カイルと、リールの距離は。
 いつも、再びエルディスで会ってから不自然なくらい開かれていた距離。
 どちらも、進むわけではない。視線をそらすわけでもない。

 どこか、笑い出せそうに穏やかな時間。

「――俺と来ないか?」

 伸ばされた手は、そう。

 前にも同じ光景を見たことがあっただけに――リールは笑ってしまった。

 その笑いに、カイルは気分を害したように顔をしかめた。それでも。この気持ちが今でも変わらないことに、感謝した。

 本当に、泣きたいのか笑いたいのかわからない。ただ、時々――適わないなぁって思う。

 もう、ためらう理由もなかった。


 伸ばされた手の先、自分の気持ち。

 リールは、その手を掴んだ。




聖魔獣編 〜終〜




切りのいい所ですが(え?悪い?)これにて聖魔獣編を終了とします。
今回一番書きたかったのは最後!!最後です!!
ずっっっと書きたくて書きたくて!!
いやぁ、一区切り☆

書いていてきつかったかのは四の獣王です。この編は彼らの話であり、リールの話です。
せっかくあんなに頑張って外見を考えて描いてもらったのに!!(汗)
かつての約束。そのためにこれまでのリールがあり、このためにラーリが生きていた。

ちなみに、「予告」で表しているのはここまでになります。

次の編の編題は内緒。


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