最後の国 〜集まる〜


「ここなんていかがですか?」
「どこでもいい。条件に合えば、な」
「それでは」
 少年の言葉通り、道を歩いてきた。さっきの港からさほど遠くない。路地を入り、日陰。あまり日当たりのいいとは言えない場所を通り、路地をまた曲がる。それなりに光の入る道に出て左手、五番目にある宿屋に到着した。
「いらっしゃい」
 中は薄暗く。少し狭く見える。カウンターのおじさんに視線を向けただけで、少年は一番奥の席に案内した。店の背側にリールとカイルが座り、店の中を一望できる。それほど広くもない上に、眺めもあまりいいとは言えない。反対にレランと少年。六人掛けのテーブルは、静かに埋められた。
「ご注文は決まりしだいお呼びを」
 水の入ったコップとお絞りを置いたおじさんが去る。しばしの沈黙。一口、水を口に含んだ少年。
 コトリと、コップがテーブルに置かれる。

「お久しぶりです、エルカベイル様――」

 まだ。沈黙していた。不機嫌そうなカイルの表情は変わらない。

「―――っと、カイル様とお呼びすべきでしたか」
「………知り合い?」
 どこか呆然と、半ば納得しながらリールがカイルに問いかけると、足と腕を組んで目を閉じていたカイルがリールを見る。
「俺の、護衛の一人だ」
「まだいたの」
「いるな」
 まだいるんかい。あきれたようにリールはカイルを見た。
「はじめましてエアリー・リール……さん。カクウ・イアクと申します」
 途中で、カイルに睨まれて“さん”をつけたとリールでもわかった。
「そう」
 退屈だと言いたげにリールは返事を返す。
「……食事にしますか?」
「そうしろ」
 カイルが言い切った。


 カウンターに行き、何かを注文するカクウ。三人は各自水を飲んだり、手を拭いていたり。
「すぐ作ってくれるそうです」
「そう」
 おなかすいたとリールはつぶやく。
「しかし、本当に久しぶりですね。くるなら一報下さればいいのに」
「まだ連絡を取り合っているんだろ」
「ええ、セイジュと、レランさんと」
 レラン“さん”? それに呼び捨て。リールはなるほどと手をついた。カクウの中での二人の位置か。
 言葉を切ってあさって向くカイルに、この会話は打ち切られたと悟ったカクウはリールに声をかける。
「何か飲みますか?」
「そうね」
 二人の中で、心が通じ合った。“お酒”。もう昼間だからと、カイルが言う事はなかった。
「何がいいですか? ちなみに、品揃えは抜群(ばつぐん)です」
「おすすめで」
「“おすすめ”、ですか……?」
「何よ」
「以外に、難しいことを言うのですね」
「は?」
「僕達は、初対面ですけど、間に王子を挟むとなると……」
 真剣に悩むカクウ。彼も、あのカイルの連れている女性に純粋な興味と、どう対応すべきかわかっているらしい。しかし、
「それ、言っていいの?」
 その“王子”は椅子に腰掛けて足を組んで偉そうにしていた。こちらの話などどこ吹く風で。一応の偽名は知っているようなのに。
「大丈夫ですよ。ここにいるのは皆、同じようなわけあり人ですから。それに、その一言で首が飛ぶと、身をもって知っている者達ですし」
 暗がりで、幾人かの他の客達の気配が動く。聞き耳を立てられていたことは知っていたが。
「………嫌な奴」
「ちなみに、ここにいる半分は僕の仲間ですから。では、用意しますね」
 そう去り際に言い残してカクウは席を離れた。何かカウンターの中の男と話しこんでいる。
「変な奴が多いのね」
 リールは、カイルに言い切った。
「………そうだな」

 少したって、カクウが帰ってきた。瓶とグラスを持って。

「まぁ、スポンサーもいることですし―――こちらは?」
 この店で、一番いいお酒。
 にやりと、リールとカクウは笑いあった。―――とてつもなく、まともでない顔で。
「飲んでみたかったんですけど、残念ながら僕の給料じゃ手も届きませんし」
「そんなに安いの?」
 少し、意外そうにリールは言う。
「ええ、割に会わないと思いますよ。だって、どれだけ僕達はこき使われていると思っているのか……」
 誰かに聞かせたいがために、カクウはさめざめと言い出した。
「……もっと真面目に仕事をするんだな」
 カイルは、言い切った。
「そんな! 今よりがんばれだなんて……」
「白々しい。まともに報告書も書かない奴が」
「あれって、けっこう大変なんですよ、王子。直に伝えたほうが、重みがありますしね」
「だったら、伝えに来い」
「交通費」
「自腹だ」
「そんなぁ王子ぃ〜」
「まともに書くんだな」
 報告書。
「まともに書いても帰ってくるんですが」
「気に入らないからな」
「………」
 ええ知っていますけど。
 カイルの正確を再認識しつつ、カクウは瓶を開けた。

「「かんぱーい!」」
 かちんと、グラスがなる。三人は口をつけ、レランはそのままグラスを置いた。いつもいいものを飲みなれているカイルでさえ、目を見張る。
「おいしい」
「そうでしょう!」
 そう言って注ぎ足すカクウ。
「どんどん行きましょう。次も」
 すでに、もう三本用意してあった。リールも笑う。
「お待ちどう」
 食事とつまみとお酒がばっちり用意され、宴会となった。


「………まったく、酔いつぶれて眠るまで飲む奴がどこにいる」
 そう言って、しかし特別起こっているようには見えないカイルはリールを抱き上げた。床に転がる酒瓶を見る。―――じゅう……?
「店主、部屋を借りたいのだが」
「もう、用意してあります。カクウ様に言われまして」
「そうか」
 鍵を受け取って、カイルはカクウを担いだレランを振り返る。そしてまた店主に向き直る。
「代金はまとめて言え」
「畏(かしこ)まりました」
 恭(うやうや)しく頭を下げる店主をうしろに、カイルとレランは階段を上がった。

 リールを寝室に連れて行き、ブーツと上着を脱がせて寝台に寝かせる。
「………ん……」
 寝返りを打ったリールの額(ひたい)にかかる髪を、手を伸ばして払う。
「………」
 静かな、沈黙。


 レランはカクウを寝台に寝かせ、四つの部屋につながる部屋に戻ってきた。入り口はここ。寝室が中に四つ。置かれていたお湯でお茶を入れる。十分に茶葉を蒸らしきった頃、小娘を連れて先に寝室に入った主が出てくる。椅子に座り、本を取り出す。
「あまり、飲まれなかったですね」
「そうだな」
 さほど興味無げに、カイルは答えた。

 そのうちにカイルも寝室に向かい眠った。レランはその部屋のカイルが寝る寝室の前に立っていた。


「おはよーー」
 朝になって、のんびりとリールがおきてくる。
「よく寝たな」
「そうね」
 すでに、起床し本を読んでいるカイル。さすがのカクウも、あくびをしつつも主より遅くおきるわけには行かないと早く起きていた。レラン? 言うまでもない。
「王子ーー食事にしましょうよー」
「そうだな」
 そう言ってカイルがリールを連れて部屋を出た。
「え? 置いてかれた!?」
 出遅れたカクウを残して、レランはあとを追った。

「「いただきまーす」」
 そして、食事。元気に挨拶をするリールとカクウ。黙々と食べ始めるレラン。カイルは、どうもまだ起ききっていないようだ。飲み物のカップを前にぼーっとしていた。
「………!」
 おいしそうに食べるリールの斜め前で、カクウが食事の手を止めた。本人はこっそりのつもりだろうが、ばればれで緑の野菜をレランのさらに移す。
「おい……」
 カイルがつっこんだ。
「だってーーこの野菜嫌いなんですってーー」
「二十歳も過ぎて」
 レランはポツリとつぶやき、頭を抱えた。
「………年上?」
 どー見ても十六歳。驚いたようにリールが言った。
「ひどいですね」
 カクウは苦笑した。
「確かに僕は二十一歳で皆さんの中で最年少ですが、セイジュよりましでしょう?」
「なんで?」
 リールは聞いてみた。
「彼は馬鹿ですから」
 カクウはにっこりと、その少年のような容貌(ようぼう)に合わないことを言い切った。そして、誰も何も言わなかった。無言で肯定していた。特にレランは。



「で、どうする」
「どーしようかなーー」
 正直、リールもこのあとどうすればいいのか決めかねていた。言われた事はした。あとは? 王達が動くのを待てばいいのだろうか。でも、そう簡単に動けるわけではないし。一度、帰れば……
「……」
 そこまで考えてリールは首を振った。まるで、ただラーリ様に会いたいがためにやって行くみたいだ。自分のすべき事はすんだとばかりに。これでずっと共にいられるとばかりに。でも、

 だけど……
 用事を終えた私は、いらないのだろうか――

「おい?」
 がくがくとリールを揺さぶったカイル。はっとリールは顔を上げる。心配するように、端からカクウも覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?」
 ちょっと意外そうにカクウが聞く。そんな風に愁傷な感じは受けなかっただけに。
「何か言った?」
「え゛!!? なな、なにも!」
 リールとカイルに睨まれて、カクウはあわてふためいた。

 道は狭く、人通りが多い。観光客も町人も皆、道を歩き、進む。商人の声が聞こえる。あてもなく、一行は道をふらつく。

 次は、どこへ?

 行き先の決まらない不安。このまま、帰らなければならないのだろうか。ふと、カイルによぎる思考。


「あ、いたいた〜〜王子〜〜国王陛下から伝言です。」
 と、道の向こうから声が聞こえる。瞬間、レランがセイジュの首もとに剣を突きつけた。
「ぅうううおおおい!! 何する!!?」
「声がでかい」
 人々は、何事かと目を向ける。
「やめときなさいよ。余計目立つわよ?」
「そうですね」
 リールの忠告と、カクウの同意。
「…………なんだ?」
 王子――カイルはセイジュを見た。国王――父上の伝言?
 道の端により、突然現れた場違いな馬鹿に皆の視線が向かう。一呼吸置いて、セイジュは言った。

「これより四大会議が行われる。お前が行け。」

「おい、なんだと……?」
 後ろで低い声がする。再び剣をぬいたレランがセイジュに切りかかる。
「なんだよ!!! 俺はいつものように木の上で昼寝してたらやって来た国王陛下に「たまには仕事をくれてやる。あれに伝えろ」って言われてきただけなんだぞ!!!」
 やっぱり馬鹿だ、カクウは再認識。リールはここまでアホかとあきれている。
「だからと言って、お前はなんと言う口の聞き方をするんだ!!!」
 容赦ないレランの一撃。
「ぎゃひーー!!」
 セイジュは逃げ出した。
「待て! 貴様!!」
「会議はどこであるんだ?」
「あ、ここだそうですよ。ニクロケイル」
 父親の意図を読みきれず、カイルは眉をひそめた。
「なんのことよ?」
 リールは問いかけた。
「――昔、キリングタイムを止めた王達は五年に一度会議を開こうと定めた。それぞれの国の状況や、情報の交換のために。王達が集まって会話を交わすだけでも、十分に会議を開く意義がある。ただ、シャフィアラの王だけは参加していない、過去参加していたかもわからない」
「なんで?」
「公式に、会議を開いていると記録がない」
「そうね、そんな話初めて聞いたわ」
「………」
 ふと、この小娘に話していいものかとレランは思う。――無駄な考えだとすぐに打ち捨てたが。主が小娘といる限り、エルディスのことも各国の事も筒抜けだ。
 さて、カイルとリールが真面目に話をしている間、こそっと逃げようとしたセイジュはレランに襟首をつかまれていた。

「まぁ、いい。つまり、父上は来ないという事だな」
 とすると……
 カイルが思案する中、リールが声をかけた。心なしか、震える声で。
「つまり、エルディスとアストリッドとニクロケイルの王が来るの……?」
「……? ああ、そうだがエルディスの代表は俺と言うことに……」
 もう、リールは話を聞いていなかった。その事実に驚愕し、震えている。
「……リール?」
 次にかけたカイルの声に、リールははっきりと顔を上げた。その顔に確信が浮かび、そして微笑んだ。レランに寒気を運ぶには十分な笑みだ。

「ねぇ、お願いがあるの――」






久々に更新!前回は去年とかね!!10月とかね!!
「聖魔獣編―最後の国」です!
リールとカイルがまだ行っていない四大大国の一つになるニクロケイルで、リールは同じく四獣王最後の一人シーネリーに会う。
カクウ・・あんたって・・

わぁい、今回レランをそんなにいじめてないよ☆
つまり、あんまり活躍してないとも言う・・
次はもっと活躍する事でしょう(曖昧な天気予報風。)

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