会議 〜会議開会〜


 リールの申し出はこうだ。
「会議に参加させてほしい」
 ―――違うか。何か、提案か言いたい事があるらしい。各国の王に。聖魔獣に関係がないと、考えるほうが無理だ。もちろん、参加する事自体は問題ない。

 会議に参加できるのは、各国の王、次の王位継承者。それぞれ護衛は二人まで。それと、会議の存在を証明する意味で、会議を行なっていると知る一番地位の高い貴族や大臣などから選ばれた一人が視聴する。質問や、意見の発言も許される。民の意見を聞く事も重要だとの意見が、かつての王達から発せられたおかげだ。

 つまり、レランとセイジュを護衛につければエルディスの視聴者の席があまる。そこだ、俺が言いたいのは、父上は俺が、そこに誰を選ぶかわかって行かせているのか? もちろん、空席でも問題ないが。
 ちなみに、カイルの頭にカクウのことはもうない。

「何がしたい」
 いつになく真剣にカイルはリールに問う。
「――それは……」
 これまでの行動に見合った理由を聞くまでは、参加させるわけにはいかない――

「あのぉ〜〜」
 場違いなほど、高い声。
「移動しましょうよ」
 もっともなカクウの意見だった。

 再び宿屋に帰る。飲み物と食事を部屋に運ぶように指示して階段を上がる。あっさりとレランとセイジュとカクウを部屋の外に残して、扉を閉じた。


「………あれま」
 のほほんと、カクウがつぶやく。
「置いてかれましたね」
「出遅れた……」
 セイジュが呻く。
「………」
「丁度いいぜ、下でなんか食おう」
「そう言えば、あなたまだいるんですね」
 冷ややかなカクウの声。
「お前こそ、まだニクロケイルにいるんだな」
「………」
 睨(にら)みあう二人に目もくれず、レランは扉越しの壁に寄りかかる。
「ありゃま、行かないの?」
「行きたければお前達で行ってこい」
「じゃ、僕も……」
「お前も来るんだよ」
 カクウは、セイジュに引っ張られた。
「なんでですか、僕があなたと食事に行く理由はそこらへんの虫の大きさほどもないって聞いてますか!」
 ずるずると、セイジュはカクウを引っ張られて階段を下って行った。
「………騒々(そうぞう)しい」
 レランは、こめかみに皴(しわ)を寄せていた。ゆっくりと息を吐き、緊張をほぐす。
「………主は……」
 話すつもりなのだろうか。あの渡し船には、ここ数週間納品が途絶え困っているエアリアス家の薬が積み込まれていた、と――



「………」
 部屋の外の騒々しさが収まると、部屋の中は沈黙したまま動きを止めた。
 このまま、黙っていたら、どうなるのだろうか。そんな考えを、リールは頭の中から打ち消す。言葉をつむごうと唇を開くも、音にならない。
 そんな様子を見るわけでもなく、カイルはただ椅子に座っている。

「―――どうした?」

 むしろその沈黙ですら気にかからないカイルが自(みずか)ら声をかけてくれたのは、リール自身を気づかっての行動だとわかる。
「……昔」
「………」
 静かに、カイルはリールを振り向いた。

「ラーリ様と、約束をしたの――」



 それから数週間、カイルとリールとレランとセイジュにカクウ。騒がしい面々を含んだ一行はニクロケイルに滞在した。会議が始まるまで、そして、会議が開かれるまで。




「く、苦しい……」
「日ごろの行いの差だ」
 きっちりと軍服を着こなせていないセイジュ。一番上のボタンまで留め、苦しげに呻(うめ)く。隣に立つレランはどこ吹く風で、普段着こなしている軍服に装飾品が一つ。それとエルディスの紋章。
「うわあ、似合いませんね」
 そんなセイジュを一目見て、カクウが一言。
「特別変わりありませんね」
 レランにも一言。
「あえてゆうなら、豪華(ごうか)に飾り立てたとでも言うべきでしょうか」
 そしてまとめ。
「「………」」
 二人は嫌そうに顔をしかめた。
 そこへ、扉が開く音がする。外で待っていた護衛は主を出迎える。
 ダークグリーンの礼服に身をつつんだカイルと、水色ともうす緑色とも取れるドレスを翻(ひるがえ)すリールが現れる。
 リールは肩を覆い少しだけ胸元の開くドレス。裾は長く床まで届き、たくさん使われた布が真っ直ぐに下りる。すっかり靴を隠してしまって、履いているのが普段のブーツだとわからない。
 カイルは胸にはエルディスの紋章、さらにそれをから伸びる紐ですら編みこまれる。しかし、髪はいつものようにまとめ上げただけ。
 二人とも、適度に面倒は省(はぶ)いていた。レランが頭を抱えようとするのも無理はない。
「ぉお、似合いますね」
 セイジュの言葉は棒読みだ。
「お世辞?」
「切れ」
「………」
 無言で、レランは剣を引き抜いた。
「ぅぅぅうううおおいーー……おーい?」
 あわてふためく間にセイジュは置いて行かれた。






「開門」
 ウィルディア城門が開く。表向き普段と変わらない様子の町、海。人々。すべてをかい潜って、四大大国のうち三国の代表が到着していた。

「失礼します」
 案内に立った神官が、また、同じ神官が道を進む。一瞬、この前とほとんど変わっていない面々に怪訝(けげん)そうにした。表情も何も変わっていなくてもわかる。空気で。
「―――気乗りじゃないのね」
「ああ」
 カイルはリールを気づかうように腕を寄せ、リールはその腕につかまっている。――人々にはさぞや仲良く映ることだろう。いつになく接近した二人は、こそっと会話を楽しんでいた?
「はじめて?」
「いや、―――それでも数年は前だな」
「何が嫌なのよ」
「会議を開いていると言えば聞こえはいいがな。どうせ、父上が来ていないことに対して小言を漏らされるな。それに、まだ若いと言ってあまり重要には取り扱わない」
「………よくわかってるのね」
「………」
 身も蓋(ふた)もない。
「ここのところ、あまり国同士で仲が良いとは言えないからな」
「――?」
「自国で手一杯と言う印象を受ける」
「ここも?」
「エルディスも、ここも――」
 ニクロケイルも? リールは少し、驚いたようだった。
「どこも大変なのね」
「そうだな、数年前とはまた、事情が違いすぎる」
「………」
 ふと、沈黙したリールをカイルは見下ろした。
「それでも、やるのか?」
「約束よ」
 時が、来たら―――
「そうか」
「こちらでございます」
 立ち止まって見上げた先の扉。あの水牢の部屋であることに、三人は驚愕した。
「なん、で?」
「こちらのほうが、雰囲気が出ると王が」
「そうじゃない」
「……?」
「私達が来たときより近いけど?」
「この通路は、会議が終わり次第(しだい)塞(ふさ)ぎます」
「大掛かりね……」
「何の話ですかぁーー? でぇ!?」
 レランに黙らされたセイジュは黙認された。

ごぉん
 ゆっくりと扉が開く。
「どうぞ、王達はすでに」
 すでに出遅れたか。カイルは舌打ちをする。約束の時間までゆうに半刻(はんこく)はあるというのに。
ざぁぁあ――とぷん
 水が流れて、演奏が止んだ。

「お嬢様はこちらに」
 促されて、リールは入り口近く(と言っても遠い。単純に王達より入り口よりだというだけで。)の席に腰を下ろす。カイルとレランとセイジュはそのまま進み、エルディスの色である緑を飾られた席に着く。護衛の二人は、うしろに立った。

「ずいぶんと余裕だな、女と暇を持て余すほどにか」
 さっそく、アストリッドのノルラド王から激励(げきれい)が飛んできた。
「ええ、まだ干からびない程度に」
「………」
 ここに来て不機嫌になる理由の一端は、本人の性格の所為(せい)だとリールは確信した。
「エルディスの王子よ、カルバート王は?」
「国王は来ません」
 その一言に、場が静まり返った。
「それはまた、こんな大事な場に来ないなど相応の理由あってのことですか?」
 初めて聞く声にリールが視線を向けると、シャドナスタ国王の横に青年がいる。よく見ればノルラド王の横にもいる。――つまり、各国の王子達、か。ニクロケイルは王位継承権問題で荒れそうだとカイルは言ったが、何が問題となるのだろうか。
「さぁ、私には計り知れませんが?」
「………」
「まずは皆様、開会の式に移りたいと思いますがいかに?」
 会場となったニクロケイルの神官が言う。
「そうしろ」
 シャドナスタ国王の一言で、開会に移るらしい。いまだに始まってなかったのかとリールは少し呆れ顔だ。だって、始まったあとより前のほうが楽しそうだ。
「では皆様、お立ち下さい。――先の王達、そして国を立てた王達の栄光と功績(こうせき)を称(たた)え――」
 長くなりそうだとリールは読んだ。


 そして長かった。


 再び椅子に腰掛ける頃には、もうリールはあきていた。目の前で繰り広げられる性質(たち)の悪い男共の腹の探りあいなど興味ない。同じく視聴に来ていた神官はなれたもので、涼しい顔で受け答えを一字一句逃さずといった感じで聞き入っている。もう一人アストリッドからやって来た老齢の男性は、黙して何も言わない。表情も動かない。
 型にはまったような笑みを崩さない神官と、無表情でただ前を見ている老人。その横に座ってあきれているリールが、一番異質だった。

 しかし、かといって聞き流せるほど軽い話でもないことは確かだった。ゆっくりと椅子に座りなおし、話を聞く。言葉の端々に隠された棘と毒と皮肉を取り除けば、なんとも真剣なお国事情が読み取れない――事もないような気がしてくる。

 アストリッドとニクロケイルで一番の問題は環境によるものらしい。砂漠化する土地と、荒れ狂う海。エルディスでは領地内外での反発が、そろそろ見過ごせなくなっているようだった。

 ここで一つ補足をするならば、エルディスを除く三国はその国自体が一つの国として働いている。エルディスは違い、他国をまとめ上げているだけの存在。収める土地の中にさらに国があるようなものだ。かつてキギロン王は各国を吸収してではなく、他国との同盟を結ぶことによってエルディス国を作り上げた。国の中に含ませてしまうことなど、簡単であっただろうに。

「ですから! わが国の――」
「フェイル、口を慎め」
「……はい陛下」
 ニクロケイルの王子は、まだ若い。そうか、若いだけに実力が伴わなければ、下からまだ王座を奪われる。
「ここ数年、天候がとても不安定です。思ったように収穫は望めず、民は不安にかられています」
 アストリッドの王子――バイアが言う。
「確かに、海のあれもひどい」
 シャドナスタ王も同意する。
「砂地は増えるばかりだ、盗人は砂の海を横断している」

(―――なんつーか)
 辛気臭い。暗すぎる。
 あまりにいろいろと駆け巡って話が進むので、リールにはどうも事実がつかみにくいところもある。

「まぁ、そんなに気に病まれるなら国に帰ってからでもよいかと。天候以外にお話は?」
 神官が口を挟んだ。即座に睨まれる。ひくっと、息を飲んで神官は沈黙した。

「―――まぁ、よかろう」
 早々に視線をそらしてノルラド王は言う。
「もう、よしとすべきだ。こんなもの過去を立てるだけにしかすぎない」
 早々に、切り上げるらしい。

 皆何も言わない。ぁあそうか、今はもうこんな会議なんて誰も必要としてないのか。王達は仲が悪いとカイルが言ったが本当のようだ。―――? 一瞬、不満そうにカイルの顔が歪んだ。
(……? なんで?)
 むしろ、真っ先に帰りそうなのに。

「――ゴホン」
 わざとらしい神官の咳払い。
「では、閉会の式に」
 本当に閉会にするつもりらしい……。誰も反対しないし。
 シャドナスタ王が自国の神官に声をかける。最後に視聴者が一言述べる事になっているからだ。
「私は、変わらずここに出席し、各国の王に拝謁できた事がとても嬉しく、また誇りに存じます。そして、五年後も」
 しっかりと自分の主張をしているし。

「エイダル」
 ノルラド王は問いかけた。目を開いた老人は立ち上がって礼を取ったが、やはり何も言わなかった。

「………」
 つまらないわね。何か言ったらどうなのよ。
「リール」
 ふと、老人を見て、その先が視界に入る。やはり、おかしい。この部屋に入って、水牢は変わらずにある、なのに、いない――いたはずに位置に丁度言った視線が、動かなかった。
「……リール」
「はい?」
 二度目の言葉にはっと前を向いた。視線が刺さる―――何よりも刺々しい視線はレランだって言う……

 睨み付けてくる視線にまず睨み返してから、前を見た。円を囲むように座る王と王子たちの視線を受けて、先を見据えた。

「一つ、申し上げたい事があります」

 何があっても、これだけは叶える。


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