会議 〜毒見〜


「なっなんですかあなた!」
 あの水牢の部屋を出て、後宮に向かった。百聞は一見にしかず。その力を見せろという事で。ただ、あの王様が娘を殺したくないだけじゃない。
 王に連れられて部屋に入ると、寝台の傍にいた次女が声を立てた。王の一言で、離れの間に移ったが。
「王……」
 もう駄目だと言いたげな医師の変わりに、リールは寝台に眠る少女を見つめた。

 ふと、ローゼの顔が浮かんだ。



「………」
「大丈夫でしょうか?」
「お前が、心配か?」
 果てなく意外そうにカイルは、つぶやいたレランを振り返った。
「あの小娘。ニクロケイル国王に礼を欠いたりしないでしょうか」
 そっちか。
「でも本当なんですか?」
 ひょこっと、セイジュが口を挟んだ。
「こんな所でそんな嘘をつくほど暇じゃない」
 えーーでも、やりそうですよねぇーー相手が彼女なら。

 あのあと会議は流されるままに終わり、リールはシャドナスタ王に連れて行かれた。行き先は後宮で、他に誰もついて行けない。しかたなく、通された応接間でアストリッドの親子とニクロケイルの王子とそれらの護衛と、何が悲しくてお茶を飲まなければならないのか。
 それでもきっちりと口をつけて、一人しゃべりだしたセイジュの受け答えをするカイル。

 睨まれている睨まれている。
 カイルはノルラド王に。セイジュはレランに。

「じゃぁ、シャフィアラの国王と仲がいいんですか?」
「あれが、円滑(えんかつ)な人間関係を計れるような女か?」
「―――それ、向こうも王子には言われたくないと思いますよ」
 ぴくりとも、カイルの表情は動かない。その代わりと言うか、その日の夜セイジュの悲鳴が聞こえたらしい。





「レアーシャ?」
「お静かに、ニクロケイル国王」
 かつて、その姿は正妃のようだと歌われた女性、イレンノーア。彼女が病で倒れた時、その中に命があると知った。そして、その体に元から、病を持っていたと。

 何かもが、遅かった。

 その命と引き換えに命を産むといわれた。それは、イレンノーアの意志であった。その娘までも病に倒れた時、あせりと怒りと悲しみに暮れて、まるで御伽(おとぎ)噺(ばなし)のようだと馬鹿にしていた“エアリアス”にも、過敏に反応していた。
 そして、いつしか。

 いつからだったろうか? あの薬の一番の買い手となっていたのは。

「レンと、クルーク、それに……」
 はっと、なれない単語をつぶやく女の声に意識が浮上する。
「アンカ……違う。――ぁあもう!」
 様子と、脈と顔色。爪と肌と髪を見て、女はつぶやく。
「あの薬はもうないのか?」
「そんな気休め必要ありません」
「何?」
 その気休めでレアーシャは生きていたぞ?
「あれよりも、もっと体に合うものを」
 だが、ここはシャフィアラではない。あの島でいくら薬を作っても、この島に同じ植物はない。同じものはできない。同じようにはできない。だから、シャフィアラのエアリアス。
 どちらかが欠ければ、機能を失う。

「……ぅ……」
 病人のうめき声に視線を上げる。とにかく、なんとかしなければ。
「今ある薬草と、……これまで使ったエアリアスの薬の瓶があれば用意して」
 あやうく、“毒草”もと言うところだったわ。

 パシャンと、うしろで水が跳ねた。

「リール、何かすることがあれば」
「シーネリー様。いえ、これは人とエアリアス家の問題ですから。お気遣いなく」
「………」
「きゃ! なんなんですか、あなたまで!! ここは後宮ですよ!」
 最初に薬草を持ってきた侍女が叫んだ。





「そういえば、アクアオーラの王は?」
「さっき、また水になって消えましたよ」
「追ったか……」
「誰をですか?」
「決まっているだろう」
「ならば、後宮に? あの水牢を出ても大丈夫なのでしょうか」
 レラン、気づかうねぇ。
「いいんじゃね? こっちの国王様それどころじゃないし。それに、後宮に表れても追い出されることないだろうし」
「なぜだ?」
「王子〜〜あの女性の美しさ! 見ましたか?」


「……あれは、本当に“女性”か?」
 ぽつりと、カイルの言葉が響いた。


「……王子ぃ〜〜確かにあなたの周りには……少し、人外的な女性が多いかもしれませんけどねぇ」
 まぇね〜リールと王妃だし。あとはティア?
「だからってあの王を女性とみなさなかったら、世の中の女性に失礼ですよ?」
「黙らせろ」
「は」
「マージでっ!?」
 セイジュは沈没した。

「ちょうどよい機会だ、お主に言っておくが」
 いい加減で耐(た)え切れないというように、ノルラド王が声をあげる。
「何か」
「四の獣王を会わせようなどと世迷言を、二度といわない事だな。これ以上エルディスの名を汚したくないのなら」
 何を、私情を持ち込んでいるのか。
「………引き会わせていただきます」
「なんのために」
「さぁ?」
「ふざけるな!」
「知らないのですよ、本当に」
「知らん?」
「はい」
 怒気をおこして立ち上がったノルラド王が、椅子に座りなおした。
「つまり、何をする気かもわからないあの女の言いなりになって四の獣王を引き会わそうとでも?」
「そういうことになりましょうねぇ」
 どがんと、テーブルに拳(こぶし)を叩きつけたノルラド王。
「いい加減にしろ!」
「冗談でも世迷言でもない」
「何?」
「それが、四の獣王の願いであることが事実。あのように過去を地下に隠しただけでは、逃げているのと同じですよ?」
「このっ」
バァン!
 ノルラド王が怒り狂うと思いきや、確実に蹴り開けただろうと問いかけたくなるほど派手(はで)な音を立てて扉が開いた。
「―――何してんの?」
「放してやれ」
 入ってきたリールの問いかけに、答えたのか。カイルはレランに声をかける。
「げほっがほっ。あっぶねーー死ぬとこだった」
 ちょっとまて。
 レランに首筋を押さえられて壁に押し付けられていたセイジュが座り込む。
 と、そこに、一直線に向かっていくリール。
「ちょっと来て」
「は?」
 声が上ずってセイジュは呆然と目の前に立つ……そりゃぁもう腰に手をあてれば完璧? なリールに問いかえす。
「なななんでしょうか?」
 あ、敬語だ敬語だ。この時点で力関係が計れてしまう。
「て、俺?」
 問い返しておきながら、言葉を送れて理解したセイジュ。
「あんた」
「あの、そこはそこに適任者がいるのでは……?」
 いまいち、セイジュを呼びつけに来る理由がわからない。
「お前」
 リールは笑っていた。はたから見えなくても。
「なんの御用で?」
「早くして頂戴。大丈夫、ちょっと毒見してもらうだけだから」
「死にます!」
「殺すならもっと簡単にやってるわよ」
 簡単に言ってのけるリール。ほら、飲み物に混ぜるのが簡単って呟(つぶや)かないでそこ。
「マジで!? 王子! 助けてください!」
「早く行け」
 だから、さっき〜レランにセイジュを解放するように言ったんだねカイル。
「なんで俺!?」
 カイルは、優雅(ゆうが)に口をつけていたお茶のカップをソーサーに戻した。カチャリと、音がする。そして口が開かれる。

「………適任だろう」
「………適任でしょう」
「………」
 三人の肯定が重なった。

「なーーぜだーーー……」
 リールに連行されていく、セイジュの叫び声がだんだん遠ざる。彼の叫び声が響くのはどうやら夜だけではなかったらしい。

「何かあったらどうなさるおつもりですか?」
 一緒にあの運命にセイジュを追い込んでおいて、今更気づかうレラン。
「心配か?」
「いえ、暴動でも起きるとのちのち面倒なので」
「その場合は一筆書いておくか、“彼は誠心誠意使えてくれました”とでも」

 またも、ノルラド王と王子たちはあっけに取られてしまっていた。


「誰かーー助けろーーー」
「遅いわよ!」
「ぎゃぁーー……」



「はて、今地獄の呼び声に答えるかのような断末魔(だんまつま)が」
 仕事の手を止めてカクウ。
「いい天気ですからね〜〜日ごろの行いの差でしょうね」


 相変わらず、セイジュの味方はいないらしい。


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