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小さな日常
 エルディス編の中のある日常風景です。なんとなく繋がっているようないないような感じで進んでいきます。
 父  母  護衛  護衛2  執務室  昼  お茶  夕食  夜 


「――ぁあ」
 足早に廊下を進んでいると、呼び止められた。誰だと首を向けると、義父が立っていた。中途半端に伸ばした手が、そのままである。
「どうかされましたか?」
 その遠慮は、いつ取れるのかと問いかけられた。
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「――まぁ」
 あえて、通り過ぎようとしたのに目の前に立ちはだかれた。
「王妃様」
 今気が付きましたと言わんばかりに腰を折った。そしてさくっと歩き始めようと――
「まぁまぁ。そろそろお茶の時間でなくて? リール?」
 最後に、強調するかのごとく名を呼ばれた。
「そうでしたか?」
 なので、問い返してみる。
「ぇえ。そうよ――そうなのよ」
 勝手に納得されたまま、引きずられた。
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護衛
「で、なんでいつも俺を指名するんですか」
「いやがらせ」
「………」
 よいしょと、壁を乗り越える。
「もう城下に降りている事は周知の事実なんですから、普通に城門を潜りましょうよ」
「いやよ」

* * *

「奴はどうした」
「……城下に行きました」
 それは、書類処理というなの政務を終えた時に言う言葉であろうか。その奴も、共に書類を運んだり雑務をすべき立場にいるはずなのだが。
 そして、朝からいなかったのだが、所在を聞かれるのはこれが今日初めてだ。
「……一人か」
「一人で、わざわざ城下に降りるくらいならこの場で寝こけるので切り捨てます」
 仕事は山のようにある。書類整理だけじゃない、本の整理や、周りの雑多な事まで。はては兵士の訓練もある。
「そうか、一人ではないか」
 そのまとう空気が重苦しくなる。一人で行かせれば怒り、付いていけば静かに嫉妬するのだ。黙って傍に控えているのが一番いい。
「それが仕事となるのだから、雲泥の差だな」
 さらに、空気が冷える。なぜ、共にいられないのか。それが問題だ。
「申し上げるなら、そこは、不本意ながら自らの意思で二人であるわけじゃないと思いますが」

* * *

「思うんだけど」
 片手に持つりんごに噛り付く。
「なんですか?」
 うだうだと付いてくる影。
「なんで付いてくるのよ」
 りんごを持っていない手の指で指し示した。
「あなたが城を抜け出すからでしょう……」
 がっくりと脱力している。
「いらないわよ」
「そうは言っても、何かあった時怒られるんですよ」
「付いてきたほうが怒ると思うけど」
 正しい判断を下している。
「それは……それを言ったら俺の首が飛びます」
「ふーん」
「それも含めていやがらせなんですよね?」
「そうよ」
 ……わかってましたけど……
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護衛2
「なぜ私が」
「ただの八つ当たり」
「それで王子に八つ当たられるのも私なのだが、小娘」
「だから八つ当たり」
 そしてそのレランの八つ当たりを受けるのが、現在木の上で今日は久々にと昼寝中の男。
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執務室
「なんで私が」
 すらすらと、走らせるペンのインクは、減っていく。
「筆跡は同じにしておいたほうが便利だぞ」
「言っとくけど、別に政務がしたいわけでも権力に興味もない」
「知っている。のちの自分のためだと思え」
「どういうことよ」
 じろりと、睨んだ。その視線にひるむことなく、真横に立つカイル。
 すっと、ペンを握る手に手が重なる。
 振り返ると、視線が重なった。その顔が、静かに何かを悔やむように歪む。
「――所詮権力(これしか)持っていないのだ。使いたい時に使えるようにしておけ」
 言葉を聴いて、すっと目を逸らした。そんなものがあるからこそ、消えていった人をよく知っている。
 一度閉じた目を、開いた。
「そこまで利用しなきゃならないほど、落ちぶれたくないわ」
「だろうな。だが――自分のものくらいは、自分で制御できるようにしておけ」
「つくづく、面倒よね」
 そういうと、カイルは身を硬くした。
 肩書きも権力もすべて、ほしくないと置いてきたのに。今また、その中に浸っている。生ぬるく濁った水の中を漂うような、不快感。
「――そうだな」
 それは疑問を持ってはいけないものの、静かな苦悩。
 いじめすぎたかと反省して、腕を伸ばした。首筋にまわして引き寄せるようにすると、それより早く唇が重なった。
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「王子妃様って、謎なかたよね」
「そうよね」
「双子の侍女のおかげで、仕事はほとんどないし、」
「お付をつれてくる令嬢はいても、あそこまで徹底して全部やってのけるんだからすごいわよね」
「しかも、専属の被服師の方見た!?」
「実は年上が好きとか?」
「王子様も見た目は静かだけど、この前見ちゃった、手を滑らせてるところ!」
「本当に!? やっぱり王子様が王子妃様一番だから」
「でも今、王子妃様あの被服師の方と二人だし……」
「まさか、」
「泥沼の三角関係」
「何か起こればいいのにーー!」

* * *

「という話を聞いたのだが」
「へぇ、それで」
 お茶を片手に、優雅に飲みながらこんな事を真顔で語る男。それをうさんくさそうに冷めた半眼で眺めながら、聞き流している。
「どういう状況がお好みか聞こうか迷ったのだが、ここはやはり意外性を駆使して突拍子もないことのほうがよかろうと」
 初めて、リールの表情が動いた。
「暇人」
「何か起こしてみようか? リーディール」
 手を伸ばして、切られることなく伸び始めた髪に口を寄せる。
「興味ないわ」
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お茶
 いつも昼にお茶を飲むのだが、王妃のおしゃべり好きのおかげか、カイルの手回しか、国王の甘さ加減なのか、珍しい茶葉が多々届けられる。
 お菓子は、城の料理長が作ったり、果実が届けられたり、他国から取り寄せたりいろいろ。
 おそらく、王妃のおこぼれなのだろう。
 じっと、カップの中身を見つめる。
 紫色を薄くして桃色を混ぜたような――おそらくそう呼ばれるであろう色の名を忘れてしまったのでこう呼ぶ。ものは驚くほど酸味が強く、飲みなれない。
 もちろんおいしいものは好きだが、ある種食べるものを選べない環境にあったこともあるだけに、痛い。
 己の好みで、えり好みできるなど、贅沢の象徴かと低く笑う。
 茶は趣向品だ。
 同じようにアズラルもお茶が好きで、特に特別な配合をされたものを好む。
 そういえば、最近それを頼まれない。
 ま、何か気に入った茶葉あるならそれはそれでいいだろうと納得した。
 一口飲んだまま、カップの中を満たしたままの液体を見つめる。
 侍女の声と共に、部屋に向かってくる足音と、気配。いつも突然なので、最近では侍女も驚かない。
 飲ませたら面白いと、扉が開かれる瞬間を待った。
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夕食
 時間が合えば――なぜか合わせられてよく四人で共に食事をする。なんの趣向かわからない。
 最近はなれたもので、王妃の問いかけ→国王の構図が出来上がっている。なんたって、無視するから。
 雑音は慣れれば耳に入らない事を身をもって知った。
 なので名指しで呼ばれることが増えた。……何も楽しくない。ちっとも嬉しくない。
 今日はお茶の話からはじまり、領地婦人の悪口とその娘の賞賛。人をほめるなんて珍しい。次に続いたのは新しいドレスの話で――夜会の話に続く。そうすると、最後は、たぶん。また孫か何かの小言かなと思うと、その通りだった。
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 眠る日も眠らない日も、眠れない日もある。いろいろな理由で。
 眠りたいのに眠れない日が、とても――
 ぼんやり、手の中にある本を見るともなく見つめる。ほとんど進まない。
 見かねたのか、何かが覗き込んでくる。いや、一人しかいないけど。
「眠いのか?」
「違う」
「寝ないのか?」
「………」
 ぼんやりと思考が続かない。頭が空のままだ。
 埒が明かないし、怒らないということをよく知った男は私を抱き上げる。
 さすがに抗議するが、聞いていない。
 そんな日は眠れと、寝台に沈まされる。
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