家族 〜王妃〜

「王がいない?」
「王妃もいない?」
 あわてたような報告を廊下で受け、繰り返したレランの後ろから、事実を正確に繰り返した声。セイジュがひょっこり現れた。
「ほうっておけ――晩餐までには戻るだろう」
 探すだけ無駄だ。探して死体が積みあがるようじゃ意味がない。
「しかし」
「王が、その意思で行動に出たのなら、なおのこと」
「たーいへんだねぇー」
「ああ、すまん」
 レランは、ふっと笑った。
「こいつが探しに行ってくれるそうだ」
「でぇ!?」
「こいつ一人消えたところで被害など微々たるもの。むしろない」
「なーーーにぃーー!?」
ずがん
 と、なぜか扉が蹴り開けられた。現れたのは王妃で――続くのは王で。
「リール。リール待て」
「いや」
「リール」
「だからと」
「場所は考えただろう」
「時と、場所を考えて」
 “時”を強調したリール。カイルは一瞬、考えた。そして――
「問題ないだろう?」
「兵士を脅すな」
 ふと目があったらしい兵士に、お前、なんでここにいる? 邪魔だ――邪魔しないよな? だから去れと暗に言っている。
「問題ないだろう?」
「鳥頭に同意を求めるな」
「問題ないだろう?」
「側近を困らせるな」
 そこの二人は論外とリール。
「鳥頭……」
「ごめん間違えた。雑巾だったわね」
「なお悪い!?」
 セイジュは膝を抱えていじけた。
「訂正したんだけど?」
 失礼ねとリール。
「そうだな」
「さわらないで」
 伸びてきた手をバシッと叩き落とす。
「……」
「何よ文句あるの」
「不満だ」
「あっそう」
「リーディール様ーーーぁぁぁあああ!」
「いーーたぁぁぁぁああ!」
「来た」
「きゃー! リーディール様!」
「着替えるんですわよ!」
「そうなの」
「締め付けがなくて足下はブーツですわ!」
「準備いいわね」
「アズラル様にしては珍しいと思ったらそんな理由でしたのね!」
 すうと、双子が息を吸った。
「「女の子ですわ!」」
「あの男……」
 なんで人が知る前に先回りするんだ。っていうか教えなさいよ。
「気がついてた?」
 どういうことだ、とカイルが目を細める。そんな様子は全く気にせず。リールは双子に連れさらわれた。

 そして、騒がしさは一瞬にして静まり、静寂。――ツンドラ地帯。
 風が、吹き付け、周りのものが凍り付く。はずだったのだが……
「おいっおいなんかさみいんだけど」
「そうか」
「そうか。じゃっねーよ! 兵士凍り付いてんじゃねーか!」
「そうだな」
「どーすんだよ! 誰が働くんだよ」
「お前だろう」
「ひぃ!?」
 背後に近づく寒々しい風におびえるセイジュ。
 賢明にもレランは、黙した。
「お前が、働くんだよな?」
 凍り付きそうな笑顔で言い放つ王。
「おたすけーー!?」
 まぬけな男の叫び声が響いたそな。




「だから、なんなの」
「なんなの? とは?」
「機嫌悪いんだけど」
「なるほど、機嫌の悪い恋人のご機嫌とりの方法を別の男に聞くんだなリーディール。この場合、男心を理解するという意味で間違ってないが致命的なミスを犯している」
「なんなのよそれは」
「それを察してしかるべきが恋人のっ」
「リーディール様。王様嫉妬しちゃいますよ?」
「そうですよ。怒りますよ」
「これに?」
 リールが指さした先に、不完全燃焼で焦げる物体。一番いいところで先に答えを言われてしまった男が一人。
「怒ってどーすんのよ」
「怒るって言うかー」
「なんと言うか」
「?」
「「悔しいんじゃないですか?」」
 双子の言葉に、あほじゃないのと口を閉じた。










「で? えーと?」
「何よ」
「僕に王に殺されてこいと?」
「近かったから」
「……あのですね。一応確認しますけど、妊婦ですよね?」
「二回目だし」
「たくましく育ちますよね」
「当たり前でしょう」
 私の子よ?
「ですよねー」
 はぁとカクウがため息をついた。
「さぁ戻りましょう。このままここにいると、きっと」
 どがんと蹴破られる扉。
「リーグラレル!」
「シャドナスタ王?」
 なんでいるんですか?

「リーグラレル。今からでも遅くない。まだ間に合うというよりも今しかない。後宮に住」
「お断りします」
 さくっと言い切るとライドレンドが泣き出した。あらまぁと抱き上げて、あやす。
「……」
 と、シャドナスタ王が口をつぐんだ。
「罪作りな人ですよねー」
「は?」
 カクウの場違いとも言えるのんきな声に問い返す。
「そんなに幸せそうに微笑みかけなくたって、いいじゃないですか」
 ……本当?



 シャドナスタ王に帰ってくれ、頼むから帰ってくれと懇願されたのでゲートに少しだけ挨拶をして馬車に揺られる。
 眠い。


 大変なことになっていた。
「なんなんだこの役立たず! もういい、自分で行く」
「王。ですからあの小娘が出かけていったのですよ?」
「それがどうした」
「自業自得です」
「………」
「それに本気で逃げたあの小娘が向かった先が知れません。もう少し情報が集まるまでは」
「必要ないでしょ」
 誰を捜す気? と問いかける。
「リール?」
 なにそのまぬけな顔。と、言おうとした途中で――ぼすっと、身が埋まった。
「無事で」
「苦しい」
 空気が、なんとも言えず凍り付いた。しかし、そこはさくっと何かを察して有り余ったと、レランがサクサクと部屋の人口を減らしている。
 あっという間に、二人……三人。
 止まらない口づけに抗議するように、ライドレンドが泣いた。




「あ〜のですね」
「なんだ」
「いや〜報告に来たはずなんですけどー」
「帰れ」
「えーそれはあれですよね。今回の報告の義務はもうなくなったってことですよね」
「安心しろ、手取りから引いておく」
「いじめっ子ですか……」
 そうですよねー王子ー王だしー
 どこか遠い目をして、カクウが呟いている。
「いい加減で放しなさい」
 カイルの腕の中にいたリールが、抗議した。一歩引いて、ライドレンドをあやす。母親の顔を見たライドが、落ち着いたのか笑う。
 そして、何を思ったのかライドをカクウに手渡した。見知らぬ人間の顔を見たライドレンドと、カクウが目を丸くした。
「リール、いきなり消えるな」
 それを最後まで見ないで、カイルがリールの肩をがしっとつかんで言う。
「帰ってきたわよ」
「そういう問題じゃない」
「あきらめなさいよ」
「――冗談だろう?」
 ひやりと、背筋を通り抜ける何か。でも負けない。
「だって、もう一人いるのよ」
「だから勝手に出かけるな……」
 カイルが、疲れたようにうめいた。
「言ったら止めるじゃない」
「当たり前だろう」
「だから言わない」
「あのなぁ。だからそういう問題じゃ」
「ぁ」
「なんだ!?」
「呼ばれた?」
 ゆっくりとお腹に手を当てるその姿。
「……」
 カイルが、がっくりと肩を落とした。楽しそうにリールが笑う。
「呼んだのよ?」
 お腹を撫でる手に手を引き寄せて――笑った。疲れたようにカイルが頭を上げる。
「頼むから、ハラハラさせないでくれ……」
 いいじゃない。あんたをハラハラさせられるのは私だけよ?

2010.01.03
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