家族 〜差し込んだ光〜

 二度目だというのを多用して、自由に振舞っていた。今度は女の子だと気合を入れるアズラルとセナとユアに呆れて、もう何も言わない。
 思いのほか、喜んでいるのは前王妃―フレアイラ(お義母さん)で、妙な気分だ。
 膨らんできた重みに、目を向ける。――ただ、静かで。
 静かに、本当に静かだった。
 目が覚めたのは真夜中であることが不思議だった。隣で寝る影は疲れ果てているのか寝息が規則正しい。
 そっと起き上がって窓を開ける。開かれたバルコニーの下には松明の灯が揺れていた。
 日々が穏やかすぎて、忘れられない。
 ふいに吹いた風の流れにむせる。のどを鳴らして、咳き込む。ほっとした時、腕を引かれた。
「冷やすなと言われただろう!」
「起きたの?」
 しまった、あんなにぐっすり寝ていたのに邪魔をした。
「そんな事はどうでもいい!」
 寝台まで運ばれて、掛布をかけられる。そして厳重に窓をしめて、戻ってくる。
「まったく」
「だから二回目……」
「わかっている!」
 わかってないから……
 呆れていると、腕が伸びてきた。拒まずにいると引き寄せられる。しかし、やはり疲れていたのかすぐに眠りに入る。寝息が混じって、夜に音が混じる。
「………」
 冴えてしまった目でぼんやり前を見る。手を伸ばして前髪を掻き分けて、その閉じた瞳の下を思い浮かべる。
 ライドに受け継がれたのがその瞳である事が、とても嬉しかった。
(だから、今度も――お願い)
 願わくば、この子も。同じ色を受け継ぎますように。




 長雨の続く天気の中、ぽっかりと開いた晴れの日。そんな日に生まれた女の子は、金の髪と青い目をしていて、まるでカルバートとフレアイラを混ぜたようだった。
「私に似ていてかわいいわ! しかも女の子!!」
 同じ金色の髪を嬉しく思った王妃は、ライドが産まれた時にもまして興奮していた。
「リール、この子の名は?」
 問いかけたカルバードの問いに、リールは視線を送ることで答えた。
 壁際で頭を抱えたカイルが、途方にくれていた。



「ティクレイヤだ」
「そう。ならティクスね」
「……」
 そうきたかと、カイルが喘いだ。いいじゃないと答えて、そっと頬をつつく。幸せな夢でも見ているのか、寝ているティクスは笑っている。
 ――二人目。信じられない。
 反対側の乳母車で、ライドが眠っていた。助けて、あげてね。二人で、助け合ってね。
「……なに」
「いや」
 背中から抱きしめられて、その手に手を重ねた。視線の先は二人に向かっていて、きっと、思うことは一緒だ。
「大きくなるのね」
「そうだな」
 信じられない。



「わぁ、小さいんですね」
「そうよ」
 二人目とはいえ、というか二人になったのだから、その分疲れる。合間にうとうとと眠りかけていると、声が聞こえてきた。
 そこにいたのはいや、人の事いえないだろうと思う、獣王(ループ)。
「一人で来たの?」
「いいえ、タキストが……あれ?」
 おそらく後ろにいたのだろう。影も形も見えないが、その辺にいると思う。
「いいわよ」
 なんか、警戒されてるのよね。いい加減もういいと思うけど。
「すみません」
「なんで謝るのよ」
「ごめんなさい」
 堂々巡りか?
「出てきて大丈夫なの?」
「はい。それはみんなで新しく決めました」
 決まりごとを作るのは四獣王。守るのも、改変するも。すべて。元に戻りつつある世界では、きっと、守るべきだというものは、いらない。
「元気そうでよかったわ」
「ありがとうございます」
「そうだ。お菓子があるんだけど――」
「王に毒でも盛るつもりか!!?」
 突然現れたタキストがしっかとループを引き寄せた。それを見て、ふふと、微笑んで言う。
「じゃぁ変わりに食べるといいわ」
 あの薬草入りクッキー、まだあるんだから。



 確実に胃を悪くしたであろうお付をつれて、たびたびすみませんと謝りながら獣王が森へ帰る。
 なれない気配に緊張したのか、同時に泣き出したライドとティクスをあやす。
「大丈夫、怖くないわよ。驚いたのよね?」
 ね? と、続ける。
 ゆっくりとゆりかごを揺らしながら、歌う。その歌は自分でもなつかしく。暖かく。小さい手に伸ばした指を握られて、微笑む。
 こんなに幸せで、いいのだろうか。この手を赤く染めた事は、ついこの前のことなのに。
「不思議ね」
 どこから、定められたのだろう。
 きっと、どこかにおいてきたあきらめの悪さを、引き継いだのがカイルなのだから。
「本当に、諦めが悪いのね」
「ほめ言葉だろう?」
「よく言う」
 入ってきた影に声をかけて、すぐに返ってくる言葉。よくもまぁ言えるものだ。
「ループ王が来たと聞いたが、遅かったか」
「遅すぎ」
「そうか」
 のしかかるような重さに安心する。
「忙しそうね」
「そうでもない」
「そう?」
 その目を見ると、笑っていた。
「いつ飛び立っていくのかはらはらしていた頃に比べれば、はるかにましだ」
「へぇ」
 曖昧に笑うと、抱きしめていた腕に力がこもる。
「リール」
「何」
「……ここまでしたのに、どこか不安なんだ」
「は? 今更何言い出す気?」
「いや……」
 言いよどんだのは、一瞬。だが。

「ぎぃやぁぁぁああああーーーー!!!!?」

 ごっと、鈍い音がした。すべてをぶち壊すには、あまりにも丁度いい叫び声だ。
「あいつら」
「元気よね」
「リーディールさまぁ〜!」
「セナ、何泣いてるの」
「ライドレンドさまのお洋服がぁ〜」
「ティクレリアさまお洋服も〜」
「だから、着きる前に成長するから!」
「「問題ありません!」」
「言い切るな!」
 途端に騒がしく、部屋の中が活気付く。
 なにか言いかかったカイルが伸ばした手は、力なく落ちた。
「あいつら……」
 きっと、今日の彼らは徹夜だ。

2010.09.20
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