夢
「――!」
 はっと夢の中で叫ぶ自分声を聞いて目が覚める。
 自分が何のためになぜその言葉を叫んでいたのか、はっきりと思い出せる。

 あれは、夢だ。

 だからこそ。

 真っ白く、私のみを包む寝台から身を起こす。滑り落ちてく流れを感じて、肌に感じる風が冷たい。
 そっと、隣を振り返った。先ほどまで、自分が身をもたれかけていた体。
 何もかも違う。意思も、精神も、志も。
 いつもより早く目が覚めてしまった。でなければ、彼がまだ隣にいることに説明がつかない。
 城(ここ)での生活。城(ここ)では、彼はやはり多忙な人物だ。
 昔のように、傍らで寝こけている姿など、見たことない。
 いつも、目覚めた時にはいない。
 珍しいものだ。

 すっと手を伸ばして、その青銀の髪をすく。持ち上げてぱらぱらと落として、またすいて。うつぶせになるように寝転がって、手だけ動かす。――あきない。
 しばらくして、その髪の一房を口元に運ぶ。
 手を離した。

「おきて、いるでしょ」
「珍しいな」
 すっと目を開いた彼は、天井を見つめたまま言う。
 一度口を閉じた私は、沈黙してしまった。
 問いかけに答えない事を、彼は咎めはしない。知っている。
「……ラーリ様を、夢に見たの」
 とても嬉しくて、だけど同じくらい残酷で。
「なにか、言われたのか?」
 首をふった。
 ぁあ、こうやって口にする事で余計に思い出す。あの獣の背、毛の感触。子供の姿で遊んだ事。笑い方、食べ方、シーンのからかい方。
 そして、最後の、言葉。
 涙が、止められない。視界がにじむ。
 かすれた声で、呼んだ。私は夢の中で叫んだのだ、「行かないで!」と。
「リール……」
 カイルの腕が伸びてきて私の頭をなでる。ひじを突いて状態を少し起こしたままの私は、動けない。
 カイルの腕に力がこもり、私の頭はカイルの胸の上に乗る。
 私は、泣いている。震えが止められない。
 その腕に、引き寄せられる。
「まだ、朝までもう少しある。だから眠れ――」
 嫌だという代わりに、首をふった。もう、夢は見たくない。
 のどが裂けるまで叫んでも、ラーリ様は、消えてしまうのだから。
 痛くなるほど握り締めていた手が取られて、指と指がからんだ。
「夢でしか、会えないだろう」
 それは、残酷だ。けれど、また嬉しい。
「――うん」



 寝息が聞こえてきて、ほっとする。同時に激しい怒りを覚える。
 故人(人か?)に嫉妬する自分がいる。どうあっても、あの王を越えられない自分にいらだちを覚える。
 比べる必要などない。かの王にとって娘であるのだから。
 ならせめて――あれが最良であったのか問いかけたい。いや、おそらく否定されるであろう。
 だからこそ、ここまで深い傷となっているのだから。
 先送りにした結果が、これだ。少しでも長くと願った結果が、これなんだ。
 静かに、その顔を見る。寝入る姿は本当に無防備だ。仮にここが宿であったり、安心感を得られない場所であればこうはいかない。
 その姿を作っているのは他でもない自分だと思うと、かなりの優越が心を占める。
 だが――
 もう自分は眠れない。覚悟はしていたし、理解していた。
 あんな風に泣く姿を見て、こうやって眠っている。こちらが眠れると思っているのか?
 幸いにして、目覚める時間まではもう少しだけ間がある。腕に力をこめて眠るその体を引き寄せる。
「リール」
 髪に、唇を寄せながらささやいた。
 せめて、この声が夢に届くように。
「よい、夢を」
 そして、穏やかな眠りを。




 目が覚めたら、やっぱり隣に人影はなかった。なれきったもので、特に感想もない。
 だが、そう。ひとつ言う事があるとすれば、ラーリ様の隣で寝ると、私がおきるまでラーリ様は動かなかった。
 心地よさに、しがみついた。束の間、一時の幸せ。すり抜けて零れ落ちて、欠片を拾い集めた。
 割れたものも欠けたものももとに戻らない。けれど、それは、新しい空気。

 新しい空気を、運んでくれた。
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