第十弐火 騒がしい偵察者



さて、今日も王都では、

絽火が叫び、怒り狂う。そして負けないくらい怒り狂った鮗さんと鬼ごっこ! に、ほぼ城の兵士全員が慣れ親しんだ頃―――事件は起こった。







―――なーんて書いてあると、ミステリアスですよねぇ〜〜〜

ぇえ!!? なんですと!? 「お前少し黙れ」と!!?

ひ、ひどすぎですよ皆様! わたくしになんの怨みがあってそのような仕打ちをぉーー……











「行ってくれるな」
「もちろん、小父上様」
 闇夜にとける銀髪をなびかせて、女性が一人、馬車に乗り込んだ。





「なんか用?」
所変わって王都では、絽火が国王様に呼び出しくらってました〜〜。数日前から。ようやく謁見の時間に間に合ったみたいです。そうですよね〜絽火と違って暇じゃないですから国王様。あの方は一国の王様ですよ。見えませんけど。対して期日に間に合うように課題をこなさない絽火なんて、比べ物にならないほどあほじゃないですか!!
「………」
あれ、今日はおとなし……ぎげぎゃ!!?

「………ぁあ、お前か」
 どうやら前の謁見での会話が、国王様を放さなかったようで。嗄(かる)に呼ばれてようやく絽火に気がついたようですよ。
「帰っていい?」
「それは困る」
「なんで」
「そうお」

「へい!」
「飛晶(ひしょう)!!!」

ばぁぁん!!
 派手な音を立てて扉が開かれる。ような勢いに見えるだけで、実際は扉の横にいた兵士が大慌てで開けていた。謁見室に堂々と入ってきた女性。数人の兵士は目を見張り、嗄ですら、驚く。さらにあわててやってきたらしい鮗(このしろ)が入り口で固まる。

「――“のえ”?」

 なんじゃそりゃ?
 国王の言葉に絽火が小声で突っ込んだ。


「まぬけな声をあげるんじゃないわ」
 ころころと笑いながら、ずかずかと女性が中に進んでくる。一瞬、絽火に目をやり、視線が絡む。
 ―――。
 視線がそらされると、絽火は表情を消した。

「久しぶりね」
「……ずいぶんといきなりだな。次からは事前に連絡をしてくれ」
「あら? だって近くに寄ったのよ。それに、私は驚かすのが趣味なの」

 趣味悪。
悪趣味ですねぇ〜〜この女性。―――は!!? 初めて絽火と意見があった!! まさか!! 絽火にまともな思考があったと――ふげ!

「……。そうか、それでいったい、何用で?」
「別に、ただちょっと遊びたくなったの」
「何日いる気だ?」
「何よ。私がいたらいけないみたいに言うわね。気がすむまでよ」
「……宿の手配をしよう」
「いらないわよ」
「は?」
「だって、今は女性もいるんでしょう?」
「そうは言っても。第一、あれは女性に数えるわけにいかないだろ」

「どういう意味?」
 なんですって?
「聞こえたままだろ」
「何よ」

「いいじゃないの」
 国王の言葉を聞きとがめた絽火が声をあげた。それに返された言葉に苛立って、でも言い返せない。それを遮(さえぎ)って言うのえの声によって。
「だめだ」
「何よいいじゃない飛晶のケチ」
「誰がケチだ」
「それにもうすぐ収穫祭でしょう? 楽しみだわ」
「行く気なのか!?」
「何、その驚き方」
「どんな気まぐれだ?」
 誰よりも自分は優れているとし、万人に混ざる事を嫌う女が――
「ねぇ、飛晶。それよりもこの無礼な方はもしかして」

かっちーーん
どうも、この女性。絽火に喧嘩を売りに来たみたいですね。

「そうだのえ、これは見ての通り。火谷の術師だ。ぁあ、絽火。これは俺の従姉妹だ。のえと言う」

「噂どおりね」
「ふぅん。私が気に入らない種族の回し者?」
「………」
 ばちりと火花が散る。そうか、知っているのか。国王がそんな二人を珍しげに眺めた。

 そんな中窓の外で風が泣いた。それを確認したかのように、のえは絽火を連れ出した。
 半分、風の力を感じさせる女、のえはしばらく、この城に滞在するって。って、結局私何のために呼ばれたのよ。




「あ、」
「どうかしましたか? 陛下」
 隣にいて国王の書類処理を手伝っていた嗄が問いかける。
「いや、結局本題を切り出すのを忘れた」
「……」
 それは、のえ様に連れ去られたあの術師のことですか?

 目の前の書類を見つめて、国王は頷いた。もうすぐ、“収穫祭”だ。

 それぞれの種族を感じさせる土地とは違い、王都では四つの季がある。生の春季、長の夏季、収の秋季、蔵の冬季。一年は四季に分かれる。毎年秋季に行なわれる収穫祭まで、あと一週間。

 のえ、いったい。何をしに来た――?



「それで、のえ様。私に用事でも?」
「あなたに用事? うぬぼれるのも大概にしたら?」
「そのうぬぼれやを連れ出したのはそちらですが?」
「そうだったかしら」
「そうですか、では帰ります」
「何、それは」
「あなたと私じゃ、利害が合うと思えませんから。それに、私が今従うのはあなたじゃありませんし」
 ただ王の従姉妹だというだけで、力を振りかざすような女に用はない。
「なっ」
 それに、
「“風”の香りがしますよ。隠すつもりがないのかもしれませんけど」
 水族と一緒だ。風族も味方にはならない。火谷の外に、味方なんていないのかもしれない。

 呆然と立ち尽くした女を置いて、絽火は来た道を帰った。後ろではのえが、ひどく屈辱を受けていた。しかし同時に、まるで意を効したというようにその顔が歪み始めた。



「陛下は、今お会いできない」
「だから、さっき間違って出てきただけって言っているでしょう!」
「謁見の時間は終わった」
「融通(ゆうずう)のきかないわね」
「例外を認めていては切がない」
「ぁあ、そうね」
 苛立ちの収まらない絽火は、謁見の間の前から兵士に追い出されようとしていた。
「おい」
「はぃ?」
 低い声に振り返る。
「鮗様!?」
 その姿に兵士があわてふためいた。
「どこに行っていた!」
 あ、忘れてた。完璧。存在を。

ちょっとちょっと絽火。君のための貴重な時間をさいている鮗さんに対してなんという扱いですか。彼は今日も、絽火を探して四苦八苦。

「だいたい、あの歴史書をいつまで読む、」
「読み終わったけど?」
「そうか、ならば“本当”にそうか筆記試験だな」

 ――まじ?




 試験はさんざん? そんなはずないでしょ。
 受け取って眺めていた鮗の顔が青ざめたので、絽火は問題ないと確信した。

 こんなもの、余裕よ。


 日も暮れて、―――そう。長い一日はまだ終わらない。



「どうするべきだと思う?」
 ここは、執務室。最後の政務の最中の国王。今日の謁見時間は終了していた。
 さらに言うなら国王の、独り言。ではなく、パラに話しかけていた。
「今日は、来るのか――?」





「飛晶!!!」
「のえ……」
 夜も更けていく。遅くなってしまったが書庫に向かう途中で呼び止められる。銀髪をなびかせて、昼間よりも豪華に飾られたドレス―――どこで費用を出す気だ?
「ようやく見つけたわ! ねぇ、夜会に行きましょうよ!」
「公式なものではないだろう? 断る」
 どうせ、どこかの貴族の道楽だ。
「そんな事いわないで! せっかくなんだから!」
 正直、そんな暇があれば収穫祭のための準備をしたい。
「おじ様に言いつけるわよ!!」
「………」
 どうしたらいいのだろうか、このわがまま女は。まだあっちのほうがかわいく見えてくる。




「――あれは」
 何?
 こっそりとひっそりと、裏口から出て行く馬車。近づいて止めるべきか迷う。そうこうする間にパラの気配が近づく。目の前に飛んでくると同時に「あれは何」と問いかける。答えは、あの中に国王がいるって。
 驚いた瞬間、走り出した馬車。ひっそりとした雰囲気にあわず、早く、荒れ狂うように。
「パラ、追いかけて。すぐ追うわ」
 暗闇に輝く赤の羽根。火鳥は飛び去った。






「はぁ」
「ため息なんてつかないで頂戴よ」
 どうしたものか、嗄はまだいいとしても、鮗に黙ってきてしまった。いや、話をするものなら反対されただろうが。しかし、後が怖い。のえと共に来ていた供の者達に連れられて、馬車に乗り込んだ。行き先は、どうやら……
 困ったことに、あちら側と手を組んだ貴族の屋敷だ――



「ね! これが似合うわ!」
 ご丁寧(ていねい)なことに、仮面舞踏会だと。






「―――ぁああ、もう!」
 馬上で、絽火はいらだたしげに声を荒げた。パラの気配を追えばいいから、どこに行ったかわからなくなることもない。しかし、出かけた人物二人が、二人だ。
 走って、追いかけるわけにもいかない。兵士を捕まえれば、鮗は出かけているって、それに嗄って人も……。ずいぶんと、丁度いいタイミングじゃない?
 馬屋から一頭、一級の馬をかっぱらいたかったがばれると困るのでそこそこな馬を拝借した。




 たどり着いたのはなんとかって言う貴族の屋敷で。なんでも、今日は仮面舞踏会を開くって。表向きは夜会なのに、やってくる馬車はそれに似合わず異質だわ。ずいぶんと、楽しそうじゃない?
 警護たちの目を掻い潜って屋敷の窓下を、腰を低くして進む。簡単ね。あいていた窓を覗き込めば、丁度中の婦人が選んだドレスに着替え出て行くところだった。
 国王と、のえは中。
 さっき少しだけ会場を窺がった時、ずいぶんとこった仮装や仮面が多かった。自ら髪の色を色粉で染め上げる女、色とりどりのドレス。笑顔の張り付いた仮面が、向かい合って踊る光景。

「………」
 少し考えて、絽火は部屋の中のドレスを物色しだした――






「―――」
 何を、楽しめというのか。
 張り付いた仮面の下にも張り付いた笑顔を振りまいて、女共がよってくる。のえははじめこそダンスの相手をせがんだが、頑なに断っているとあきらめた。そして、こういった派手な空間が好きそうな男の誘いに乗って、広間の真ん中で踊っている。さすがと言うか、ダンスの姿は目を引く美しさがある。
 目元を覆う仮面。大きく開いた胸元には幾連もの宝石。切り裂かれたように背中の開いたドレス。舞う羽根。広がってゆれる銀の髪。そして、赤い唇が作り出した笑み――

 吐き気がする。

 くるくるくるくる女性が回る。めまぐるしく人々が動く。沸き立つ声。咲き誇る夜の華――

「おや、あんたは踊らねぇのかよ。あんな美人をほっといて」
「………」
 こういう、輩も多い。
 無言で立ち去ろうとすると、前を塞がれる。最初よりも近づかれて、小さく囁(ささや)かれる。
「そう警戒するなって。―――なぁ、あんたいい所の出だろ?」
「………何が目的だ?」
「いや、ちょーーーっと出世に手を貸してほしいなぁって」
「断る」
「え? ちょっとにーさん。知らないのかよ。俺は使えるぜ? なぁ、一つ話しにのらねぇか?」
「間に合っている」
「そんな事言うなよーー。今、一番高く売れる情報を教えてやろうか?」
「買う気はない」
「そういうなって、聞いとけよ。今一番よく売れるのは、火の女の情報だぜ?」
「―――」
「もし、心当たりがあるなら手を貸してほし……」
「消えろ」
 短く行って、足早に立ち去った。男は、舌打ちをしてその場を離れた。別の客を見つける気だろう。

 ――不愉快だ。

 元々、こういう場にはなれ切れない。香りたつ香水の香り。昼と違い、女達はめいめい飾り立てる。夜にあわせて。
 速いテンポの曲がそれに拍車をかける。せわしなく動く人の動きも。
 今は、男も女も髪を染めて色を変えるのが流行らしい。種族に合わせて。多いのはやはり、水族の青、森族の緑、風族の銀。それに、火族の赤――

「?」
 はっきりと目を引く赤い髪が、視界に入った。その髪に栄えるような黒のドレスを着ている。独りのようだ。しかし、とある男のダンスの誘いをやんわりと断って、こっちにくる。

「―――探しましたわ」
 そう、少しだけはぐれてしまっただけのように、何てことない会話。を、すればよかったんだ。

 だが、

「……ろ」
「楼璃(ろうり)をおいて、どなたと踊るつもりでしたの?」
 にっこりと、笑顔の仮面が笑う。まぶたから鼻の上までを覆う仮面をかぶって、絽火が苛立っていた。
「いや――すまない。そうだ、とりあえず外に出ないか?」
「そうですわね。少し、熱くなってしまいましたし」
 その手を取って、バルコニーに出た。





 バルコニーでも、隅のほう。人気(ひとけ)も人の視線も見えなくなった頃に絽火は自分から手を放した。と言うか振り払われた。
「なんだってこんなに考えなしなのよ」
「それは、だな」
「何かあったらどうするつもりよ! しかも、あの二人はいないっんぐ!」
 高くなった声が漏れると困るので、手を伸ばして口を塞いだ。
「俺だって来たかったわけじゃない。のえの付き添いだ」
 胡散臭そうに見上げる視線、手を放した。
「それで、独りで、誰にも言わずに、ここへ?」
「……そういうな」
「まったく」
「―――その服は?」
「服? ぁあ、忍び込んだ部屋にまだ封もあけられていない包みが十はあって。一つ拝借」
 強奪と言え。
 黒い、黒いドレス。のえのように露出が高いわけでもない。それでも、目を引く。赤と黒と言う対照的に華やかな色合い。横で高く一つに結い上げられた赤い髪が流れ落ちる。あらわになった首元に装飾品は何もなく、白い肌が際立つ。

「似合うな」

「ごまかさないでくれる?」

 ははっと、笑った。どうやら、彼女は俺が一人で行動しているのがお気に召さないらしい。
「ま、いいけどね。他に誰か護衛がついているならなおいいけどね」
「唐突すぎたからな」
「そう、丁度二人が城の外にいる時」
「………そうだな」
「誰の差し金?」
「さぁな」
 どこ吹く風の国王に、ごまかされた。
「……まぁいいわ。とにかく、あとは好きにして頂戴。一応、見させてもらうけど」
 ふと、風に乗って曲調の変化が聞こえた。
「―――踊らないか?」
「はぁ?」
 人の話聞いてる?





「まぁ、見て、あれ」
「?」
 感嘆の声を漏らす婦人の視線の先を追って、絶句した。あそこで踊っているのは――飛晶と、火族の女。なんで、いるの――? 優秀な護衛たちは足止めしたって言うのに、なんてこと!
 人々が踊りの美しさに目を奪われている。ダンスを断られただけに、何よりもそのことが悔しい。持っていたグラスを、乱暴にボーイにつき返した。声をかけてきた男を睨みつける。――計画は、失敗だ。


 それに拍車をかけるように、その一曲が終わると二人は会場から姿を消した。




なんかシリアスちっくですよ!!! 絽火がいるのに!!
何の間違いですかこれは!?




どうも仮面舞踏会のシーンが入ったのは「マリー・アントワネット」を映画で見た影響のような気が…
ほんとは、直に収穫祭だったのに……
のえが言った言葉が“夜会”なんだもん。自分で驚いたよ。

目次
2007.02.07