第十四火 火が揺れる石



ふぅ〜〜危なかった。いやぁ〜爆発した炎といっしょに外に弾き飛ばされてしまいましたよ。
帰ってくるのが大変でした。

「え? なんで無事なの?」って皆様、それはわたくし、日ごろから健康第一! で生活しておりますから。
「それは違う」はて、なぜでしょう? 皆様、人間まずは睡眠ですよ!
「お前人間なのか!?」………はて、どうでしょう?



「………」
 ふっと目が覚める。もう見慣れた天井。ここは城内。与えられた自室。
ばさぁぁああ――
「? パラ?」
 羽根の羽ばたきの音に首を傾ける。
「いつから?」
 この部屋に?
『―――』
 少しだけ、いらだったようなパラは何も言わない。
「……ごめんなさい」

『我は主に従う――だが、この世界で主意外がどうなろうと興味はない。主が気にかけるならば、我もそれに従うだけ』
 種獣が従うのは、自らを生み出した神。そして、自身を召喚した主のみ。

 絽火の無事を確認したと言う様に、パラの信念体が火となって消えた。――おそらく、すぐに……

ばぁん!
「陛下!」
「――っと」
「………」
「ちょっとお待ち下さい」
「……?」
 見たことのない婦人が、国王を追い出して部屋の中に入ってきた。
「陛下も困った事。起きられますか?」
「ええ、まぁ」
「でしたらこちらを」
 湯で絞った厚地の布が渡される。
「本当は湯に入りたいでしょうけども、今だけ我慢してもらえれば。おなか空いてまいせん? あなた、丸一日眠りっぱなしで、」
「えっと?」
「え? あらごめんなさい、私ばかり話してしまっていたわね」
「どちら様で……?」
「あ、ごめんなさい。私は嗄(かる)の婚約者の翠(すい)と申します」
 にこりと笑って、翠と名乗った女性がカーテンを盛大に開け放つ。光に髪の色が反射して、黄金に輝いていた。くるりと振り返って、翡翠色の瞳が絽火を見る。
「はぁ」
 “嗄”って確か、よく国王の隣にいる人ね。
「ほら、この城女手がまったくないでしょう? だから、あなたの介抱役にって」
「お手数をかけまして……」
「そんな気にしないで! 普段なら仕事場に来ると追い返されてしまうの。でも向こうから頼んでくるから見ものだったわ」

 笑う翠につられて、絽火も笑った。



「ご機嫌麗しゅう陛下」
 どこがだ。
 国王の隣に立っていた鮗(このしろ)が、ひくりと顔を引きつらせた。
 絽火の部屋から追い出されて不覚にも立ち尽くした国王に届いたしらせは、またも風族の男が謁見を申し出ているという事だった。
「東の復興費か……」
 さて、どこを削(けず)るか……
 そして謁見室でその男を前にしても、国王はまったく相手にする気もなく別の書類を見ている。呟きを逃さず聞いていた男が、負けじと声を大きくして意見する。
「幸(さいわ)いにして、あれだけの炎にも関わらず死者は少ないほうです――喜ぶべきか」
「つまり、燃えた民家の分だけ城下の民も燃えていればよかったとでも?」
「そんなっ滅相もない陛下!」
「暫(しばら)く、この城内での応接費のうち、無意味な優遇費を削るか」
「へっ陛下!?」
「―――去れ」
 いつものように押しかけてきた風族の男を、はじめて謁見の間から追い出した。

「二度と城の門をくぐらせるな」
「はっ」
 足早に謁見の間を去った鮗。それを見送って、国王も謁見の間を出た。そのうしろから、赤い火の粉を舞わせて火鳥が飛び去っていく。

 高く長い回廊を歩く、白いマントをはためかす国王。あとから舞う赤の火の粉。羽ばたいて高く舞う火鳥。

やっぱり、絽火とより様になる光景ですよねぇ〜〜
………何も、飛んできませんね? 何かあったのでしょうか?

 ――そういう心配?



「ひどいのよ嗄ったら、私が他の誰とも婚約できないように手を回しておきながら、いざ婚約者になったらずっっとほっとかれているの!!」
「はぁ……」
「しかも、いつの間にか回りにいるのは嗄の回し者たちだし、勝手に家を出て出歩く事もできないし!」
「いえ、それは……」
「買い物もいけないのよ!? ほしいものを言えば店がやってくるのよ!?」

 ………恐ろしいな。

「確かに嗄は、王都で五本の指に入る貴族の嫡男だ。その知識を持ってすれば、護衛にならずとも宰相とか大臣とか政務に関係する職に就けただろうに」
「まぁ、陛下」
 勝手に部屋に入ってきた国王に、むしろ絽火は喜んだ。これで、この果てない愚痴を聞かなくてすむ。
 翠は焦ったように長椅子から立ちあがろうと、
「そのままでいい」
「そういうわけには行きませんわ」
 いつの間にか用意させていたお茶や菓子を残して、翠は席を立つ。
「だって、独り占めはできませんもの。また会いましょう」
 ふふっと笑って、翠は部屋を足早に去った。
パタンっ
「……疲れた……」
「だろうな」
「―――苦手なの?」
「得意になれと?」
「………」
 扉の外では、また来るわねと翠に囁かれた嗄が頭を抱えていた。
「―――もう、いいんだな」
「負傷者は?」
 呟やくような問いかけには、答えられなかった。
「皆助けられた。無事だ」
「そう」
 耳を塞ぎたい。耳の奥、まるで取り付くと言わんばかりに響く、声。

 ――その炎で人を焼いた――

「すまない」
「? なんの話よ?」
 疲れからか、気持ちの沈み具合からか、絽火は力なく笑った。
 まるで何事もなかったとでも言うように、絽火は目の前のお茶と菓子に手をつける。
(――!)
 その、違和感。
「そうだな。これを、」
「? ――っ」
 右の手で受け取れるように、本を突きつける。
バサッ!
 一度は受け取られたはずの本がつかまれることなく、地に落ちた。
「………――っ!」
 一瞬の驚愕。絽火の右の腕をつかめば呻く。
「――傷は癒えたと、医師は言った」
「………まだ少し、時に痺(しび)れるだけ」
 離せというように、振り払われる。
 あの時、火の壁に突っ込んだ右腕。――安くはない、代償。

 “風”が邪魔をする―――



「長! 何を仰(おっしゃ)いますか!!」
「様子を見ようと言っただけだが」
「もう準備は完了に向かっております!」
「あとは出陣を待つだけ!」
「知っている」
 まさか、あの火の女にこんなにも警戒心を湧き立たせるとは思わなかったからこそ、すすめた。
 しかし、
「万一にも、抜かりはない」
「でしたら!」
「………」
 だが最終決定を下すのをためらわせてしまうのは、あの女のせいだ。

「何も計画を破綻(はたん)させるつもりはない。だが今は、待て」

 その時でないと、風が告げる。



 ただ過ぎ去る時間。確実に、進む時。
 何もなければ、この話はおしまい。
 何もなければ、この話は始まらない。

 だけど彼らは願う。この恐ろしくも保たれる沈黙が、少しでも長く続くように。

 その時が、一時の休息であると信じたいから。



こつ、こつっ
 寝台の端を叩いて、頭を抑える。少し立って、起き上がる。のそのそと術服に着替え。体をほぐす。
 この数日間、寝そべっている事のほうが多かった。
 軋(きし)む体をほぐして、手を伸ばす。

 窓を開け、空を見る。夜空に浮かぶ星の名は、数えるほどしか知らない。一度、冷たく感じる空気を吸い込んだ。

「―――我が左手に浮かべ炎――」



「?」
 一瞬、ほんの一瞬の事だった。何かを感じとった火鳥が頭をあげて、そして、羽ばたく。迷わずこちらに向かってきて、睨みつけている――ように思う。
 この火鳥が何かを感じるとしたら、それはこの城に一人しかいない人物の事だ。
それでもいつもなら、再びもとの姿勢に戻るのに。そんなにも急用だったらしい。



「――我が右手に宿れ炎――」
 絽火の左手で燃え上がっていた炎をそのままにして、次に右手の上に炎が燃え上がる。そして、少しだけ腕を上げる。目の高さよりも高く。
「……」
 息を吸って、吐いて。その炎から手を離す。一度大きく炎が揺らいで、そしてまた燃える。
「――我の――」



「わきゃ!?」
「!?」
 歩き出した廊下の先で、声が聞こえる。一瞬嗄が剣に手をかけて、そしてさらに驚いたように声をあげた。
「翠! ここで何をしている!」
 どうも、隠れようとして逆に壁にぶつかったらしい。
「えっと〜〜迷った?」
 しまった〜と、顔を歪ませて翠がいう。
「ふざけるな!」
 嘘をつけと、国王と鮗が呟いた。彼女がこの城で迷うはずがない。珍しく声を荒げて嗄が言い寄っている。
「何よ……そんなに怒鳴る事ないじゃない!」
 ふいっと顔をそむけて、なんと三人に背を向けて早足で廊下を進んでいく。
「おいっ!? 待て翠!」
「嫌よ!」
「帰ったんじゃなかったのか!?」
「――そんなに私を追い返したいのね!?」
「あのなぁ……」
 そのまま、嗄は翠を追って行ってしまった。
「行くか」
 国王の一言。鮗の頷き。パラまでも呆れたように旋回していた。

 城の中を駆け巡る婚約者同士が交わす喧騒に、他の兵士達までも笑っていた。

なんという夫婦でしょうかねぇ〜〜。あ、まだ結婚してませんね。まぁいいか。
廊下も明るく照らしてあるので、先が見えなくて困る事はないでしょうし。
と、いうか。彼女少し前までこの城で働いていたそうですよ。あ、前の国王様の時ね。ってことは……結構見かけよりも歳食っているってことに他なりませんね。



燃えよ炎、我が上で輝け
 絽火の手を離れて燃えあげる火がこれで七つ。

「―――」
 近づいてくる気配、確実に一人ではない。だけど、邪魔をされるわけにもいかない。

ココココッ
 次に誰が入ってこようとも。

―――がちゃっ

すべての炎よ、我の前に集まれ――“収縮”



 火鳥に急かされて、扉を口ばしでつつかれて開いた扉。どの場所よりも明るい光。見れば絽火の回りを浮遊していた炎が一点に集まって、見る間に輝きを失う。

 そして瞬間。

 ――!!

 見つめる目を焼き付けるほどの輝き。赤い炎が立ち上ってまるで炎の中にいるような錯覚。ものの数秒。

「―――火揺石?」
 絽火の目の前に漂うのは、紛れもなく石。種族の力となる、各神の恩恵。
「何度、勝手に入ってくれば気がすむのかしら?」
 顔色が、さらに悪くなった。それは部屋が暗くなったせいではない。
「……驚いた。そうやって“石”は作るのか?」
「………。石には二つの種類があるわ。一つは、かつて種族の神の恩恵を受けた場所などにできるもの。これが本物。もう一つは、自分の力を削って作り出すもの」
「力を削る?」
「削られた力が元に戻れば、それは新しい力を生み出している証拠。もし戻らないなら、それが自分の力の限界」
「お前は?」
「馬鹿にしているの?」
 かつて、両の耳と首と手首、さらには足首に光らせていた火揺石を、さして言う言葉。
「悪い」
「………」
 だが持っていたものはすべて、あの日、壁と共に四散した炎を一緒に砕け散った。
「絽火?」
 石を握り締めたまま、こちらを振り返るわけでもなく続けられた会話。打ち切られると同時に、いきなりこっちに向かってくる。
「……」
 正面に立たれて、見上げられる。ふと口が開いたが何も言わず、ただ石を突きつけられ宇。
「持っていて、これからずっと」
「……」
 考えて、別に何も問題がないと思う。受け取って見ると――その石の中で揺れる炎が見える。
 鮗が言っていた、上等品。
 受け取られた事に、誰が見ても明らかなくらい絽火はほっとしていた。

「人が燃えて死ぬのは、嫌―――」

 そして再び、倒れるように眠り込んだ。

「おいっ!?」
『―――主』
 パラの声が暗い。
 崩れた体を受け止めて、その熱さに驚く。
「なんだ……?」
『大丈夫だ』
「あ、ああ……」
『その石、決っして身から離すな』
「――なぜ?」
『その石を持つものはその加護を受ける。持っていれば、火によって焼け死ぬ事はない』
「……」


 想像上に、あの一見は絽火を蝕(むしば)んでいた。



………っは!! どうしましょう! あまりの絽火の破壊神からかけ離れてなんか人助けしてますよ慈善行事ですかと驚いて一瞬見た物が信じられず意識がフィードアウトしておりました。

いやぁ、ようやく帰って来れました。もう皆様、そんなに心配しないでくださいよぉ〜

――あ、“例のごとく忘れた”!!?

なんの例文ですか! そんな教科書があるなら持って来なさい!! 訂正文章出します!! というよりも作り直します! ぇえもう最初から、私好みに。



目次
2007.03.18