第十五火 この時間は、永遠?



いい陽気ですねぇ〜〜これはもうわたくしに昼寝しろと言っておりますよ。
ぁああ、安眠。いい言葉ですねぇ〜
しっかし風も強いですねぇ〜わたくし空気と同じくらい澄んで広い心を持っているので、飛ばされてしまいそうですね。

何を白々しい事を、と!? 皆様!? どうしてそんなに辛口なのですかぁーーー




 待っているだけでは、物事は解決しない?
 時が来れば解決する?
 そんな、必ず解決する事じゃない。
 誰かが引き金を引くだけ。
 誰も解決させたいわけじゃない。

 ただ、おそらく。

 人は誰よりも高い地位を望むことがある――


「何も、ないな」
「まるで、それが問題だといいたいようですね」
「ああ」
「陛下」
「おかしいだろう? まさか、もうあきらめるわけない。それに、“偵察”も十分だ」
「――彼女が、引き付けているのに?」
「限界があるだろう」
「………」
「また、民を犠牲にするつもりなのか」
 椅子に座ったまま、国王は拳を合わせて握り締めている。
「標的は俺だろう? なぜ、なぜ来ない――」
「ですが……」
「あの男はまた城下を火の海にするつもりなのか!」



「なーーんか。暇ねぇ」
どうやら、この前までの一件で、絽火は自分の地位を確立したらしいですよぉ。廊下を歩いても睨まれる事もないし、立ち入り禁止だと追い出されることもないし。いやぁ〜快適ですねぇ。
当初の目的どおり、国王様の護衛をすることになりました〜拍手〜〜

あれ……? これは……焼き石……あつっ!!? 熱う! あついっすよ!? ぎゃーーわたくしに向かって降ってくるぅ!?

「暇なのよ!」
 廊下の真ん中で断言して、腕を振り回した絽火。
「こんなに暇なら、まだ鮗(このしろ)のスパルタを受けているほうがましだわ」
「ほぉ」
「!?」
 タイミングよく、廊下の角の向こうから声がする。
「……ぇ゛?」
「陛下から、お前の仕事を言い付かったのだが、そうか。そっちのほうがお望みとあらば、答えない手はないな」
「いやっお気遣いなくっ!?」
「ならばそうだな、また歴史事象をまとめてもらおうか?」
 冗談じゃないわ! 絽火の叫び声が響いた。そのうしろから追っかける鮗さんの声も。

 廊下を走る影と、追う影。危険を察知して避ける兵士。門番を言いくるめて中に入ってきた人影が、そんな人々を見て声を張り上げた。

「絽火ちゃん!」
「えっ?!」
「何をしているの! まだ安静にしていないといけないでしょう!」
「……こ、こんにちは翠さん」
 廊下を全速力で走っていた絽火は立ち止まった。
「さぁ行きましょう!」
 ……どこに?
「翠! 何をしている!」
 家のものから翠様が塀を乗り越えたー(逃げ出した)と報告を受けた嗄(かる)が全力で翠を探していました。
「あなたには関係ないわ。ね、女同士で楽しみましょう!?」
「……あの仕事が……」
「ちょっと来い」
「はっ?」
 と、追いついてきた鮗に引きずられていく絽火。
 角を曲がって、光が当たらない影。向こうのほうで翠と嗄の言い争いが聞こえる。
「……陛下が、城下で買い物をしてこいと」
「何を」
「日用品を」
「……つまり、翠さんを連れ出せ。と?」
「そういうことだ」
「そんっなに国王様は翠さんが苦手なのね」
「……」
 嗄と国王と鮗で話し合った結果らしい。翠が絽火を出しに城に入り浸ろうとしている。と、苦々しく嗄は語った。
 そんなものお前がほおっていた所為(せい)だろうと国王に言われて撃沈したらしい。痴話喧嘩なら外でやれ、終わるまで帰ってくるなといいたいところだが、いつ向こうが動き出すかわからないのにそれもできない。だが、城にいられると何よりもまず嗄の気が散る。ついでに国王も。
 と言うことで、
「私に相手をしろって?」
「仕事だ」
「初仕事!?」

 王都っていったい……。

ぅわぁ、城では苦手な女性は追い出すらしいですよ。ってそれが自分の結婚相手でもですかぁ〜? まぁでも仕事とプライベートは別ですよねぇ〜わたくしも、これは仕事です。 休日最高!! そりゃぁねぇ、新婚さんなら休日に買い物とか映画とか遊園地とか行きたいですよねぇ。え? この世界にない? なら公園にでも行くんじゃないんですか?

それなのに、夫は休日もない! 夜になっても帰ってこない!

う〜〜ん。絽火ならきっぱりと夫の存在を忘れそうな展開ですね。久しぶりに早く帰ってくれば「あんた誰?」みたいなね! 夕飯も一人分しかないとね! 「ぁあ食べに行ってくれば?」って感じでしょうかねぇ!



「こんにちは!」
「おや? 奥様?」
「今日はこの子の服を見に来たの! わぁ〜ここのお店って初めて!」
 王都でも、一、二位を争う高級呉服店。いつもなら、翠のために嗄が家にやってこさせる店。
「……」
 噂には聞いていた絽火も、実情を目の前にして倒れたくなった。
(服!? いらないし!!?)
 ……それ?

 数分後。

「やっぱり赤髪にはこれかしら? う〜ん。でも髪に合わせて赤でもいいかしら?」
「翠さん?」
「何ぃ? どっちがいい!?」
 赤いワンピースと青いワンピース。究極の選択?
「あの、服はありますから」
「あんな黒の術服は可愛くない!」
「……仕事ですから」
「私服でいいじゃない!」
「……」
 すでに、店の中は翠が引っ掻き回したのですごい惨状。かかっていた服はすべて下げられて、畳んであった服も広げられて。もちろん、すべて絽火のサイズにあうもの。ちらりと視線をやると店主は出てきているものの……。コメントは控えたいらしい。
 嗄は貴族だが、翠は城下を離れた違う町の出身だ。いわゆる普通の民である。それなのに家から出られないで人を使う毎日。さらに言うなら夫は帰っても来ない。
 つまらない毎日の鬱憤(うっぷん)が溜まっている。
「でも私お金が――」
「嗄が払うわよ?」
「……」
 半分は国王が払うのか?
「えっと――」
 確実に一着は買わないと帰してもらえない――?
「ほらほら! 着てみて!」
 ごそごそと着替える。色が変わって白いワンピースだった。
「似合うわねぇ〜ねぇ!」
「ぇえ奥様」
「……じゃ、これで……」
 もうどうでもいいや、着ないし。
「あら? これがいいのね!」
「まぁ(なんでもいいよ……)」
「わかったわ。じゃ、これ全部!」
 にこやかに、周りを一周。
「はっ!?」
「お城に送っといて! 行くわよ!」
「え? このまま!?」
 ワンピースのまま絽火は引きずられていった。


「ふふふ〜〜ふ〜ふ〜ふふっふ〜〜」
 陽気に歌いだす翠。右手には絽火、の腕。左手には氷菓子。
「………」
「おいしくない?」
「おいしいですけども……」
 火谷では考えられもしない氷菓子。果汁を搾り取って糖を加えたものを固めている。食べやすいように丸く長い棒状で、いくつも味の種類がある。
「あら? ここじゃなかったかしら?」
 道を曲がって、首をかしげる翠。
(迷子?)
 なんだか、いろいろ不安だ。



「行ったか」
 所変わって王城。国王が鮗の報告を聞いて息をついた。
「ぇえ、まぁ」
 沈んだままの嗄の声。
「なんだ、まだ不安なのか?」
「翠は……」
「翠だからな……」
「そのためにあの女を連れて行かせたのでは?」
 不安の消しきれない二人に、鮗が声をかける。
「翠と」
「絽火だぞ?」
「……」
 被害額が高くつきそうだった。



「あら? あのお店!」
「へ?」
「あっちもいいわ!」
「ちょっ」
「きゃーー可愛い帽子!」
「っ!?」
「そうだわ! 洋服棚!」
「……」
「あっちに行きましょう!」

 行く場所があったんじゃないのか――

「あ、ここの店だわ」
「?」
 今度は、髪を切ったり染めたりする所らしい。
「こんにーちわ」
「奥様!」
 ほっとしたように、店の代表のお姉さんがやってくる。
「こちらにわざわざ足を運んでいただきまして」
「いいのいいの。それより、今日はこの子の髪を整えてあげて!」
「「はぁっ!?」」


チョキチョキ――
 見事な赤毛だと賛辞さる――それは地毛だ。短く切るのは嫌だというと、痛んだ毛先だけを切られる。それから真っ直ぐに伸びた髪をゆるく巻かれた。

「――まだ終わんないんですか……?」
 いい加減で、あきた。というか、もういいと思う。
「奥様が、たぶん……」
 ちらりと視線を上げれば、待ち人として他の婦人と会話に花を咲かせている翠。……これで帰りましょうなんていえば怒られそうだ。
「それで、今度は何を始めるんです?」
 時間を長引かせるのも大変だろうと思う。
 すでにまかれた髪が今度はいくつものピンでまとめ上げられている。行く束かはそのまま流れている状態。
「何か、ありませんか……?」
 こっちはこっちで必死だった。



「なんだこれは」
 鮗は、やってきた三台の馬車から下ろされた荷物の量に驚いていた。
「翠嬢からこちらに送り届けるようにと伺(うかが)っているのですが、いかがいたしましょうか」
「店主!」
「これは、嗄様。こちらを――」
「?」
 金額の書かれた請求書を押し付けられた。
「………今月中には払う……」
「いつもご贔屓に、ありがとうござます」
 そして、店主は帰った。
がらがらがら
 と、そこに別の馬車。
「何事だ?」
「こんにちは、洋服棚をお届けに参りました」
ごとんごとん
「失礼足します。装飾品を運んで――」
「靴屋ですが――」
「メルセーベルの帽子屋で〜す」

ぅわ! 入り口の惨状! 戦争ですね!

「「「「毎度、ありがとうございます!」」」」
 馬車は去った。

「……全部運ぶか……」
 やってきて呆れている国王の一言に。兵士が総動員した。城の部屋は余っていたから。

何が偉いってこの国の兵士だと思いますよ。すばらしい順応っぷり! さすがなれ!
ちなみに、請求書の合計金額に嗄が頭を抱えてましたよ〜〜



「大変! もうお昼をすぎているじゃない!」
「――そうですね」
 あわてて立ち上がった翠に、眠気眼(まなこ)で絽火が振り返る。
「まぁ、かわいい! やっぱり髪型は変えなくちゃ!」
 あの後結局、結論に至った。“大丈夫、このまま待っていればいつか気がつく”。髪がいくつものピンで編みこまれた状態で絽火はうたた寝をしていた。にも関わらず気がつかない翠。

「おなかすいていない? お昼にしましょう!」
「はぁい」
 次は食事か……

もうお昼というよりおやつの時間じゃないですか。駄目ですよ! 三食きちんと食べないと!! 健康の基本ですよ!!

 そしてお昼。お茶。買い物。徘徊。夕方になっていく。

 日が暮れる――

「日暮れは好き?」
「――? 好きですよ」
 昼が夜に連れて行かれる。流れる雲の色が闇を運ぶ。沈みきらない太陽はいつの間にか、もう見えない。一瞬のようで、昼よりも夜よりも存在感が強い。長い長い影が、ぶつかって進む。
「嫌いなの、私」
「――どうしてですか?」
 聞いてきたのだ、聞いてほしいんだろう。
「……夜は、長いでしょう?」
「短い」
「ぇ?」
「夜中すごしたって――いえ、何も」
 町を照らす灯りが増える。人々が帰路につく。鳥も。
「それより、何か買わないんですか?」
「だって、必要ないものまで嗄が用意しているんですもの」
 必要なものはそろっているらしい。
「ほしい物がすべてあるって、案外つまらないのね」
 じゃぁなんであんなに買ったんだよ……
「夕飯はどうする?」
 食べるのが前提なのか……。
「これと言って――」
「私酒場とか行ってみたい!」
「あそこの店がいいんじゃないですか!」
「ぇえ〜あそこ行き着けなのよ……」
「……」
 どう見ても要予約そうな料理店なのに……


「……よく来るんですか?」
「前はね」
 入った瞬間に一番奥の景色のいい場所に案内される。しかも翠さんは手馴れた様子で料理を注文した。
 今日一日の結論。翠さんってもしかして――案外世間知らず?
 聞き出すと地元では女神を崇める神殿に勤めていたと。両親は早くに他界し姉が王都で侍女として働いていて、その稼ぎを受け取っていたそうで。
 その姉が不幸にしてなくなって、代わりに侍女として働くようになったのが十五の時だそうだ……なんというか、特殊環境?

自分の方だって十分特殊だとわかっておりませんねぇ絽火。なんたって火谷の術師ですよ!
ぁあ。もっと一般的に常識の通じる女性がほしいですね。
いないってーー? そうでうよねぇ〜〜ぎゃーなんかどす黒い物が見えるーーー!!?


 さて食事も運ばれて――またも質問攻め。しばらく、おいしい料理を囲みながら――ふと、“女の友達”と、彼女の事を呼べるのかと思った。

「ぁあ楽しかった!」
 だろうな。絽火は呟いた。
「おいしい?」
「ええ」
 食後のデザートを三品も用意させて、翠はお茶のみ。ニコニコとテーブルに肘をついて、組んだ手にあごを乗せて、絽火が食べる様子を見ている。
「本当に楽しかったわ――これで当分、わがままは言わなくてすみそう」
「……」
「寂しいなんて、軍人の妻が言ったらいけないのかしらね」
 一口、お茶を口に含む翠。
「さぁ?」
「住み慣れた町と違って、もともとここは広い場所じゃないから」
 種族の力を直に感じ、心の奥底で、恐れる人々。自分達の生活を潤させると同時に、言い切れない恐怖心にさらされる。――もし、反発でもされたら――勝てない?
 その力をただ話しに聞いているだけの民とはわけが違う。
「人間は、非力なものね」
「――」
 沈黙した絽火を横目に、翠は通りを眺める。
「聞いてしまったの、何かが起こるって」
 翠は、その翡翠の目を真っ直ぐに絽火に向けた。
「あなたがここに来た事と、関係があるのでしょう?」
「知りません」
「……それが終われば、嗄は帰ってきてくれるの」
 一つ、翠は息をついた。

「生きて、いればね」





「―――陛下!」
「萩(はぎ)!?」
 執務室に、突然入ってきた護衛の姿。

「奴らが動きました! 目標は、王都(ここ)!」


 それは、権力に振り回される人々のお話――



目次
2007.04.10