第壱火  ふざけた王都



やあやあ皆さん「今晩は」

え?? 「こんにちは」だってぇ?

そーーんな。得に重要でもないこと、つっこんではいけません。

さて、谷を追われた絽火は――――――………危ないあぶない。 それでは話が変わってしまう。
さて、99.9%の不満と、0.1%の火谷の命運を背負って、 すでに絽火は王都にいます。
まぁ、それまで何をしでかしたかは………

――――――ふ! 普通にっ!! 乗りあい馬車を三つほど乗り続け るだけですよ!!!

前にも話したようにこの国は王政。そして自然の力を操る術師の 一族が住んでいる。
大陸が一つ。王族と民と術師が住む。
とても大きな大陸さ。

え? 海の向こうに国はないのか?
さぁねぇ。たとえあったにしたにせよ、この国の技術じゃ行けな いし。



「あんたらの王様が来いって言うから来てやったのよ!!!!」



……………ああ、女のヒステリーが聞こえる………

――――では、皆さんまた今度!!!





「確かに、火谷より使者が来ると言う連絡はある。しかし、」

 門に立つ男は絽火をもう一度見直す。

「お前なわけがあるまい。」

………外見。わがままそうな娘。

ぴしっっっ!
 絽火のほおが不満そうにつりあがった。

「その手の込んだ変装をといて自分の職に戻れ女。」

「そう。そ〜〜なの。――――っいいわ!!! 後で後悔するのは お前よ!!」
 と、言いつつ。右の手に火を生み出し出したその時。


「何事だ?」
「隊長! いえ、この娘が、自分は火谷の代表だと申すので………」

 言葉を途中から聴かずに、目の前を見下ろした。不機嫌そうに立 つ女は横に伸ばした手をもう下ろしていたが、不振そうに見下ろす とさらに気に入らないのか睨んできた。
 服装は、黒。すっぽりと黒いマントに体を覆われているので、他 にないが、とりあえず、武器を持っているようには思えない。不自 然なふくらみもない。髪と目は赤い。こちらでは見ない火族の色。

(―――――――これが?)
 本当に火谷一の術者か?


 門番に置いた兵士も、陛下が火谷一の術者を指名したのは知って いる。―――だからだろう。現れたのがこんな小娘であるなら普通 は通すはずもない。

――――――だが、しかし、だ。

 はっきり言ってわがままを言っていられる状況でもない。




「……………………―――――――来い。」
 長く沈黙した後言うと、怪訝(けげん)そうに首をかしげた。そし て一言。

「帰れると思ったのに。」

「「………」」

 こいつでないことを祈るばかりだ。





「陛下は今お会いできない。」
「はぁぁあ?」
 静に言うと、聞きとがめたのか声のトーンが上がる。
「なによそれぇ!!! そっちが呼んどいて会わないですってぇぇえ?」

―――――今、“会えない”だけで、“会わない”わけではない。

「数日は忙しい。―――――あと一日。早く着ていればよかったのにな。」
「どういう意味かしら?」

 無視して、歩いた。





「城での滞在はこの部屋を使え。食事は朝と夜二回。風呂は一階だ、 誰かに聞け。」

 大まかに必要な所だけを案内しながら、こぢんまりとした部屋へ 案内された。その部屋は、特別広いと言うほどはない部屋。でも、 一人で生活するには十分な広さの部屋。ベッドと棚とテーブルと椅子。
あとソファ。とりあえず最低限必要そうな家具はある。

「最低でも一週間は滞在できるだけの準備はしておけ。」
「最低?」
「最低だ。」
「何か必要なら――――――」
「それあんたの?」
 財布らしきものを取り出した男に問う。
「――――? そうだが。」
「いらない。ってか、あんたに払ってもらう理由がわからない。」
「何も必要ないわけではあるまい。」
「違う。そういうのは国王が用意するべきでしょ。」
 ――――――あんたの命令じゃない。
「まぁ。その国王が用意していないからあんたが払うのか知らないけど。」
「こちらが呼んだのだから。」
「違う。呼んだのは国王であってあんたじゃない。王であって、臣下 じゃない。」

 もらうなら、王にもらうわ。だから、いらない。

「………………で、どうするのだ。」
「べつに。」

 開かれていた扉をくぐり部屋の中に入った。そして振り返る。

「今日は疲れたからもう寝るわ。夜の食事はいらない。」
――――――じゃぁね。


 バンと勢いよく閉じられた扉の前に、立ち尽くす男の光景は、 さぞやめずらしかっただろう。







――――――女!!!?

女だと!!?

なぜ、女なのだ――――?


「火谷は落ちた。」
 ざわめきを沈めて、ひときわ傲慢(ごうまん)そうな男は立ち上がった。

(((((火谷は落ちた!!!)))))

「火谷などとるに足らんと言う事ではないか!!!」


 女性には、なぜか優れた術師は生まれない。遺伝的にもっていた はずの力を、使うことができない。――――――そのかわり、子へ と引き継がれる。出産と共に力を失う術師は多い。ただでさえどの 種族でも少ない女術師は、優れた術を扱うものにとって取るに足ら ない存在だった。
 例え、力を使えても、子を産めば消える。術の質を失う。力が衰える。
 息子を産んだ女は受け入れられるが、娘を産んだ女は冷遇される―――――。
 いかに、力のある子供を生むかが問題だ。

「しかし、それでも陛下の命令ですぞ? 火谷の“長”もよほど勇気がある。」
「あの娘より強いものがいないとはね。」
 どうせ女の力が衰えようがたいした問題じゃない。どうせ元から 相手にすらならない。だからこそ、女の術師なんて――――――


「勝利の扉の開ける音に。」
「「「「「「「「「「音に。」」」」」」」」」」

 酒で満たされた杯があがって。音がはじけた。



「……………。」
 ゆっくりと、杯を空にしながら思考する。
(――――――なんだ?)
 この底知れぬ不安は?
(計画は万全だ。コマも、状況も。)
 そして、確実にこちらによい方向に風が吹く。

 しかし、

(なんだ――――――?)
 離れることはない。不安。



 何に? なぜに?







「あーーーーふざけてる。」

 朝起きた瞬間から文句を言っていた絽火は、通りを歩く今も 文句を言っている。

 何にってすべてに。
 いやもうねぇ、“長”がふざけてるだの。呼んどいて現れな いのはどうかしてるだの。だいたい追い払おうとするなんてど んな忠誠心なわけぇえ!

…………絽火の余波がここまで…

「はぁ。」

 一通り叫んだ後。(←すれ違う人々は驚いた。)
 絽火は、階段に腰を下ろした。

「おなかすいたーーーー」

 そりゃ、あんだけ騒げばね。

 露店を眺めて、財布に手を伸ばしてやめる。どちらにせよ、
こちらでは火谷の硬貨は使えない。希少価値はあるにしても お金として使えない。どこかで換金(かんきん)しなくては。
――――絽火は立ち上がった。





「いらっしゃいませ。」
 人のよさそうに見える、店の主人がカウンターの後ろにいる。

「こんにちわーー」
 やる気なく返事をした絽火はカウンターの上に、左右の耳に つけていた耳飾を置いた。

「換金してちょうだい。」

「これは………“火揺石(ひゆせき)”。」
「有名なの?」

 表情の読めない主人の反応に、絽火は火揺石(これ)が高く売れ ないのかと思った。
 主人は、そんな絽火の反応を注意深く観察した。

 ―――――この娘。田舎者? まるでこの石の価値を理解している ふうではない。――――ならば、相場のより安く換金できそうだ。


「これだったら、6000ククだ。」
「その値段でどれぐらい使えるのか具体例で示して。」

 にやりと、主人は心の中で笑った。しめた、これなら安く払って もわかるまい。この娘王都の貨幣価値を知らないようだ。

「それが本物なら10000ククはくだらない。」

 第三者の声に二人は入り口を見た。

「もし本当に売るのなら俺に売ってくれ。そこの主人より見る眼は いいと思うが。」

 ブーツの足音をきつく響かせて、男がカウンターに歩み寄る。
 主人が見るからに青ざめた。ただ、絽火は男を振り返ってみて いるので気づいていない。

「?」
「あまり評判のよい店ではないが自業自得か。」
「お客様、何をお探しで?」
 主人はなるべく平静を装って答えた。
「火揺石。」
 男は答えた。
「っ……。」
 主人は沈黙した。

 男はカウンターにのる石を手に取った。

火の揺れる石―――――火揺石(ひゆせき)は火谷の石。火術師が 術を使うとき、回復するとき使うもの。中に火が入っていて、絶 えず揺れることから名がついたといわれる。いまでは火谷でも貴 重な石は、大きなもので手のひら大。小さなもので小指の爪くらい。
どこで、どう取れるかは、谷の中でも機密事項だ。

 もちろん、たの種族でも存在する。それぞれの種族に力を与えた とされる原石は、大きさが大人と同じくらい。それぞれに特徴が あり、いまも、格種族の“長”が引き継いでいる。

 特徴? そんなの火が入っていたり水が入っていたり、森を見たり、 照らしたり。使えたり使えなかったりするんだよ!! ちなみにどれも 人間にとったら貴重だからね。質の問題もあるけど、絽火から安く 買い取って、うまく高く売りつければ、当分は遊んで暮らせるよ。


「これなら9000クク払っても問題はないと思うが?」
 ごまかして、金を騙し取る気か? そんなことがばれたら国王の 律を破ることになるな。―――――縛り首か。


 笑顔の下にそんな脅しが見える………都会は怖い。


 ぐっと押し黙った主人。
 満足そうに見下して、男は絽火に向き直った。

「俺に売ってくれ。」

「売らないわ。」

 は?
 この場にいる人の行動が止まった。


「誰にもね。」


 固まった男からひょい! っと石を取り上げて、絽火は振り返る ことなく店をあとにした。
 残された男二人は呆然だ。






「おなかすいたーーーー……。」

 公園のベンチに座って、絽火は伸びながら空を見上げた。空腹感が 襲うらしい、さっきからそれしか言わない。――――だから、換金し に行ったのでは?

「…………。」

 お金なきゃ何も買えないよ!!! あってもこっちじゃ使えないよ!!!

「はぁ、」

 ため息をついて、遊ぶ子供を眺めはじめた。




 どうやらそれから数日は、昼食は抜きで過ごしたらしい。朝と夜は 城の食事を平らげて。昼間は部屋にこもったり廊下をうろついたり。
すれ違う人の歓迎しない、不振な声は聞こえなかったわけじゃない。
 なんとなく食事の量が増えていた気がしたときには、服装を正し 謁見の間に向かえと言われた。


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2006.02.03