終 火



ぁあーーよく寝た。
皆様、最近寝ておりますかぁ〜? わたくしは寝るに寝すぎて……十八年後!?
何かの遊びですか!? なんのいじめですか!?

わたくしの十八年分のツッコミを奪ったのですね!?

禁断症状出しますよ!? 暴れますよ!

なっお前が暴れても無意味だ!? なぜですか!?

答え→絽火が暴れたほうが被害は深刻。

ぁあ! そうですよねぇ〜さっすが皆様!

よくわかっっ!!!? ……あれはなんですかぁ!?

ぎぃやぁーー燃えた大岩が追っかけてくるぅーーー!!!




 その姿を見た城下の人々は、みな振り返った。


「だ・か・ら! 私のおかげだってわからないの!?」
「ふざけんな! だいたいその言葉通りに行って道に迷わなかった日があるとでも思っているのか!!?」
「なんですってーー!!」

 城の城門を目の前にして言い争う、少年と少女の姿が見える。
 黒いフードから零れだした髪を、左右に振っている。

「……」
「鮗(このしろ)様!」
 どうしたらいいものか悩んだ兵士が、助かったと言うように目を輝かせる。

 確かに、そうだな。――まったく、“また”これか。
 どうあっても、おとなしく門をくぐってはくれないようだ。
 だからと言って、どうして私が呼ばれなければならないのか。

「……何をしている?」
「「!!?」」
 振り返った時に翻る髪、驚いてこちらを見る目。

 どれもこれもが、思い起こさせ、訪問を告げる声、何もかもがなつかしい。

「早く中に入れ」




「「はじめまして!!」
「火谷の術師、火華(かか)と」
「軌絽(きろ)と申します」

 謁見の間に、幼さの残る声が二つ響く。

 一人は髪の短い少年、その身を黒いローブに包んでいる。
 もう一人は髪を肩口まで伸ばした少女、こちらのローブは若干短く、足下の靴が見え隠れしている。
 二人とも、顔立ちはよく似ている。おそらく、双子。
 さらに赤い髪、紅蓮の目。
 今の王が即位して一番の大事となった時、王の傍にいた火術師の証。

「よくきたな」
 対して、国王の声は低く、しかしよく響いた。
 玉座に座った国王の横に、少年がいる。少しだけおろおろとする姿は、まだあどけなさが際立つ。

 国王の周囲にいる護衛、壁際の兵士、そして侍女達ですら、その容姿に目を見張り、歓迎した。

 国王の前で謁見の間だというのに、双子はきょろきょろと落ち着かない。
 どうも、物珍しさが勝つらしい。

「……お前達、歳はいくつだったか?」
 少女には全く聞こえていなかったらしく、無視。少年が振り返って言う。
「はい! 十五です!」
「お前より二つ下だな」
「はい、父上――陛下」
 隣の少年が、あわてて言い直す。いつもなら注意されるも、今日はなかった。
「……?」
 少年が首をかしげるのと、再び、この間に詠唱が響くのは同じだった。

「「リプライド!」」

 二人の声が重なって、高い高い詠唱だった。





「――!」
 はっと、腰元を超えた長い髪を翻(ひるがえ)して振り返った。
「――“長”? 何か?」
 その様子に、傍にいた男が声をかける。
「あの子達、無事に着いたみたいね」
「なら、そうか!」
「そうよ」





「「赤き炎よ舞い降りて、我に手をかせ永遠に」」

「日高く輝くこの時間、彼の者の力を我らが借りて」

「「我らに力を貸したまえ!」」

「炎よ我に従いて、呼び出し現れ燃え上がれ!」

「「我の歩みを照らしだせ!! 現れよ火鳥(ファイアー・バード)。パラ!!!」」


 舞い上がった炎から、姿が形作られる。
 ゆっくりとその姿を現す――火鳥。

「久しぶりだな」
『――そうだな』
 現れたパラは、迷わず伸ばされた国王の腕に止まった。
 その横にいた少年は驚いて、目をぱちくりとしていた。

「なぁ〜んでぇ〜」
「やっぱり……」
 そんな様子を見て、ふてくされている少女と、がっくりと項垂(うなだ)れた少年。
「? なんだ?」
 その一言がきっかけになった。
「どーしてぇ! だって私の腕に止まってくれた事ないのに!!」
「……は?」
「どうせどうせ、僕らは借りの者で、ただ呼び出しの仲介をしただけですよぉ」
「おい?」
 双子は、いじけていた。
「……どういうことだ?」
 今度は、国王は火鳥に問いかける。パラはまたかと言うようにがっくりと頭を覆っているように、見える。
『我の主は、一人だ』
「――そうだったな」
 国王は、まるで思い出すかのように、懐かしむかのように。そしてまるで何かを悔やんでいるようだった。

「ひどいくないひどくない? だっていつもそうだわっ! 母様と一緒でも触れさせてもくれないし」
「それ以前に飛んで逃げられるし」
「……お前達」
 ふたちで顔を突き合わせて嘆く双子に、国王は苦笑しつつ声をかけた。
「「はい」」
 どこか元気がない。
「聞いていると思うが、お前達には私の息子の護衛をしてもらう」
「「!」」
 ピンッと、二人の背筋が伸びた。
「「はい!」」
(まぁ、ほぼ遊び相手なんだがな)
 だからこそ、息子に近い年齢の子どもをと、伝えた。
「洸(こう)、挨拶は?」
 その息子はいまだにびくびくしていたが、“話に聞いていた”火鳥には興味があるらしい。
 おどおどとその羽に伸ばしていた手を驚いて引っ込めた。
「はっはじめまして!」
「こんにちは!」
 途切れるような声に、答えたのは明るい声。
「違うだろバカ!」
 焦ったように、少年が押さえつける。
 確か、少年が兄であったはずだ。
「誰がバカよーー!」
 少女は怒った。
「お前だ!」
「ひっどい! 何よそれ!!」
『火華、軌絽』
 こんどは、ビキシと音を立てて二人は固まった。
 その様子を見ながら、国王は笑っていた。
「あまり怒るな」
『そう言われても、ここははっきりとしておかなければならん。遊びに来ているわけではないのだから』
 そう言ったパラの瞳は、穏やかに笑っているように見えた。
「……そうだな」
 一緒になって、そう言ってみた。
「「ぇえ!?」」
 驚きあわてたのは、赤の双子。
「待って! 待ってパラ様!」
「ここまで来てまさか……」
『修行が免れると思っているのか!? 主はお前達と同年の頃は山にこもっていたぞ』
「お母さんと」「母様と」
「「一緒にしないで!!」」
 二人の声が重なって、今度こそ、飛晶(ひしょう)は声を上げて笑い出した――




ぉお! 楽しそうな一面ですねぇ。
いやぁ。この双子いい性格してますねぇ本人に聞こえたらまず間違いなく黒焦げです。
なにぉーそれはお前だけだとーー!!

そういえば、最近ちょっと被害妄想激しくない? と聞かれました。
何をおっしゃいますかーー!! 事実ですーー事実ですーですーですーー

国王様も元気そうですねぇ〜
ここだけの話、実は、この人結婚してないんですよっ!
息子も前の前くらいにわたくしを飛ばしてくれた火事の時に両親を失った子を引き取ったんです! 息子として!
ゆくゆくは国王ですかぁ〜玉の輿ですねぇ〜〜でもそれはわたくしじゃないんですね……

なんで結婚しなかったんでしょうねぇ? ふふふっ答えは知らないですけど知ってますよ!
そうであるとしか考えられません!

さぁそれでは! わたくしこれにてお話を締めたいと思います!

では皆様! お手を拝借! 三、三、七びょーしっ!

なにぃーーわたくしが締めじゃないですとぉーーー!!?





 絽火(ろか)は歩いていた。それは、上に向かう山道。視線が、目線が高くなる。
 少しでも、近づいて、少しでも、思い出して。

「よろしくね、パラ」
 あの子達を、そして、“国王”を。
 無言で部屋を出て行った絽火を、男は追わなかった。


 歩いているのは、火谷で一番高い崖の上。いつもと同じ、黒いローブで。
 空が近くて、風も吹いている。

 輝く空を見上げて、ある方向を見つめる。

 その先は王都。

 風が、長く伸ばした髪をなびかせる。

 もう一度振り仰いで、閉じた瞳の先に映すのは、洸源と呼ばれるあの城。
 おそらく交わされるであろう会話を予想して、口元に笑みが浮かぶ。
 穏やかな赤の目が宿すものは、あの時と変わらない。

「―――」
 静かに、口が動く。その声は、風に乗って届いただろうか?






「炎よ、我に手をかせ、永遠に」





* おわり *


戻   目次 あとがき
2007.07.08