第弐火 ファイアー・バード



 訪問を告げる声と共に、目の前の扉が開いた。“服装を正せ”と、 言われても、術服しかないのだから関係ない。新品は、先月用意させ たばかりだ。入り口での簡単なチェックでは、武器の所有の有無を確 認させられた。――――私の“武器”は、あなた達とは違うのよ。 という言葉は飲み込んだ。

 部屋は広く長かった。壇上にいる国王の顔は見えないし、顔が見える 位置まで着たら今度はひざをついて頭を下げた。―――――“挨拶”を、 するために。

「……………。」

 沈黙しかない部屋で、私は周りにいた者共のことを考えた。

 水族。地族。森族。風族。……雷族はいないようだった。あとは、 兵士と、じじい。まぁ、役職で言えば大臣だろう。王政といっても、 それを補佐する宰相と、五人の大臣がいる。さらに、格種族の“長” が政治にかかわったりする。ただ、火谷の“長”のように、ずっと 自分の谷を守る“長”もいれば、常に王の隣に控える“長”もいる。
―――まぁ、いろいろ。
 左右を埋め尽くす人々の流れに、うんざりと目をそらした。


「お前が火谷の術師か?」
「――――はい。国王陛下。」
 その確認するような疑問形な聞き方に怒りを燃やしつつ、絽火は言った。
「火谷の術師“絽…」
「谷で一番の術師を連れてくるように命令したはずだが。」
――――お前が?

 周りが、あざけるように笑う音がした。

「………………。」
 名のろうと思ったが中断。どうやら私の名前に興味はないみたい。
―――――そう、ならこっちだって考えはあるもの。

 ゆっくりと顔を上げて、自分を見下す者共の前に立ち上がった。 視線を、国王に、次に私をあざける者共に移して、そして―――――



「リプライド!」



 高く詠唱を響かせた。



      
「赤き炎よ舞い降りて、我に手をかせ永遠に。

日高く輝くこの時間。

炎よ我に従いて、呼び出し現れ燃え上がれ!

我の歩みを照らしだせ!!


現れよ火鳥(ファイアー・バード)


パラ!!!!!」






 女が立ち上がった瞬間、剣に手をかける鮗(このしろ)を押さえて、 目の前の光景に見入った。一瞬にして舞い上がった炎が、水平に伸ば された女術師の左腕に絡(から)み、上に向いた手のひらに集まる。

 はじめてだった。火術師の術を使う様子を見るのは。他の術師は 前王の取り巻きとして、そして、今なお俺の監視としてこの場に いる者共だ。―――――前より数が増えているのは、どうやら俺が 玉座(ここ)にいることが気に入らない奴が増えたということだろう。 萩(はぎ)が偵察に行っているが、この状況を見ればほとんどのことは 推測できる。しかし、詠唱を始めた女術師を、その左上に燃え上がった 炎が中に四散すると共に現れたものを、呆然と見る父上の回し者を上 から眺めるのは、久しぶりに面白かった。

 現れた火鳥。赤い羽根の“ファイアー・バード”、赤い炎をまとって。

 女は機嫌よさそうに、こっちを睨んだ。

―――――思わぬ誤算だ。そして、予想し得ない事態だろう。




(―――――っまさか!!!)

 種獣を呼び出した!!?


こんにちわーー!! 絽火の機嫌がいいので炭にされることはないでしょい!!
ここでは“種獣”の説明を。

種族の獣――――種獣
格種族に存在する第二の守り手。火なら炎を、水なら水を、地なら大地を。 それぞれを操る術師と共に、それの間に入る存在。
いうならば、力の源が石。守るのが獣。使うのが術師。
簡単にいきましょう!! 人々に力を与えるのが神様なら、

その神の使いが“獣”。
力を与えられたのが、“術師”ということになります。

“石”。火族なら火揺石。谷のどこかに、すべての力を担う石が隠されている。
あとは、それを授かったものがその力を凝縮して小さな“石”を生み出す。
発生する。

つまり、間に入るべき種獣を従わせることのできる術師は、 神の使いを従わせるだけの力量を持つということだ。格種族 でも、種獣を呼び出せるのは数人。“長”と、それに近い力 を持つ者。
まぁ、強いねぇ! って感じ。

どうやら、絽火の力がなみなみならないって、回りの人たちは 理解したみたい。それぞれ目配せしあってる。もちろん、好意的 とは言えないね。まぁ、そんな感じ。


 押し黙った周りを面白そうに見ていた国王は―――。隣の臣下と 会話して、はじめて絽火と向き合った。


「それが――――お前の力か。」

 ゆっくりと、絽火は不適に笑った。そして、火鳥が頭上を旋回し、 鳴いた。


「聞いていると思うが、」
 国王は、本題を切り出した。

「お前には俺の護衛をしてもらう。」

「は?」

「……………。」
 国王は、黙った。

「書状を送ったが。」
 ―――――聞いていないのか?

「………パラ!!!」
 少し考えたらしい女術師は、火鳥を呼んだ。

「“長”に詳細を――――事としだいによっては、炭にしてきて かまわないわ。」

 うわぁ〜〜ぶっそうだーーー……

「……………おい。」
「はい?」
 にっこりと、笑顔な絽火。
「……………。」
 国王は止めようとして、やめた。
「というわけで、国王陛下、“火鳥”パラが帰ってくるまでこの お話は保留に。」
「なぜ目の前に依頼者がいるのに確認をとる。」
「私はその依頼状を見てないので。」
「…………。」
 ―――――あっそ。





 国王が、信用に値するか観察しているとき、開かれていた窓から 出て行った火鳥が帰ってきた。

「パラ?」
 ずいぶんと早い帰りに、絽火が怪訝そうに振り返った瞬間。

「キェエエェェェェーーーー!!!」

「イタ!! いたいた!! 痛い痛いぃ!」
 突然現れた蒼い火鳥に、絽火はつつかれた。――――――激しく。 髪を引っ張られ頭皮につつかれ…………あ〜〜ぁあ。

「――――っっこんの〜〜!」

 一瞬にして、切れた絽火は蒼い炎の火鳥の足を掴んだ。

「割くわよ!!!!!」

ぶす!
 足を掴まれた火鳥は、それでも絽火を攻撃した。

ぶち!!!
 うわ、不吉な音………。にげよ〜〜とっ。

「ファイアーインパッ!!!」

 詠唱の途中で右手の火の塊を火鳥の頭に………あ! 逃げられた。

ドゴーーン!!!
 床に穴が開いた。

「「「………………」」」

「〜〜〜〜っっっっつこんの〜〜!!!」

 目の前に下りてきた蒼い火鳥が、いきなり手紙を加えて絽火に 突きつけた。

「???」
 ピタッっとそれまでの暴れ具合が嘘のように絽火は止まった。

「何これ?」
 受け取って、何も書いてない封筒の表紙を眺める。

(あれは………。)
 見間違うはずもない。数日前、火谷に送った自分の手紙。王は 現れた火鳥が持ってきたことを理解した。

 ぺらっと、裏側にして、押してある印を見た。
「どっかで見たことあるわね〜〜〜。」


 この国の印だよ!!!


 キュピーン!! 蒼い火鳥の目が鋭くなった。

「イタ! イタイタイタ!!!」
 またはじまる攻撃。
「この!! オルト! いい加減に〜〜〜しろぉ!!!」

 先ほどの術を今度こそ命中させて、絽火は手紙を開いた。

「………………。」
 静かになった謁見の間。絽火の周りはぼろぼろだ。

 がさがさと乱暴に紙をめくる音。――――破くなよ?





      
「………………燃えろ

 絽火は短くそう言って、手の中の手紙を消し炭にした。 まぁ、灰も残らない。

「「「―――――」」」

「証拠隠滅(しょうこいんめつ)。さ!! 帰ろパラ!」

 用はないというように絽火は出口を振り返った。―――もちろん、 そのまま 謁見の間を後にしただろう。蒼い火鳥が壁のように燃える 火を出さなければ。



ゴオォ!!
 突然絽火と出口の間に炎が上がった。

「―――――っ!!!」

 絽火は驚いたようだ。

「………………絽火。」
 ゆっくりと揺れる炎の中から、人の声と姿が浮かんだ。

「“長”」
 絽火は炎を睨みながら、炎の向こうを睨んだ。


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2006.02.06