第五火  灯す



 うなずくと、鮗が動いた。





 重い本を片手に持って、片腕だけ伸びた。

「ん〜〜〜〜んん………。」

コツ
 足が、止まった。



「…………………」
 背の高い壺が、廊下の隅においてあった。花を活けるた めだろうか? いや、花はない。

 絽火はじっと、壺を睨んでいた。


 その後ろ、鮗が追いついて、中庭に面した反対を壁に、 反対が柱で、中庭に降りられる廊下で、立ち尽くす絽火を 見た。

(……………何を?)


「燃えろ」


 鮗が不振がると同時に、絽火は一瞬にして壺の中の水を 蒸発させた。







パン!!!!
 棚に収めてあった小瓶が中からはじけて割れた。

「―――――っ!!」

 驚いて、振り返った。

「なっっ!!」

 粉々に割れた小瓶。………何を示すかは明かだ。

「…………もう、ばれたのか―――?」

 その声は、驚きながらも。どこか、納得しているよう だった。








「ずいぶん――――敵が多いのね。」

 絽火は声に出した。――――誰かに、聞かせていた。

「“水”はどこにでもあるから、監視にはもってこいね。」


 それだけ言って、また、歩き出した。部屋に帰るために。









「あーーーーやっちゃったーーー………」
 国王にパラを貸して、水族の監視を邪魔して。

 “長”と国王公認の話なら、話をおじゃんにするのは簡 単だ。――――ようは、自分が護衛に使えないとすれば、 お払い箱で帰れる。

が、だ、

「あーーーもう!!!」

 イライラを壁にぶつけて、

「っっと…………」
 修復者の言葉を思い出した。

「………………」
 そして、“長”の言葉も。


 まさかねぇ。だって、まさか自分が王都に来る羽目になる なんて。








おはようござまーーす!!!

しーーん。

あれ? 誰も突っ込んでくれないの? 一人でボケるのはキッツ イナーーー
は? この前と言ってることが違う? ―――ふふん。やっと 突っ込んでくれましたね。
そんなもん。気分に決まっているではないですか!!!

え? けんか売っているのか? って? まさか、皆様こそ私の神 様ですのに! なぜ!! 私を疑うので!!!
信じられない!!!? そんなバカなぁぁぁぁああーーーー

……………さぁ、突然の破壊神の登場は、一瞬にして城の者 に広まって―――――








「なまるのよね。」
「何が」
「体」

 もくもくと歴史書を読んでいた鮗は、わざわざ本を閉じ てこちらを見た。

「…………走れ」



 そんなわけで、日が暮れるまで走らされた。所有時間五 時間。よくまぁ走ったものよ自分――――――



「疲れる………………」
 ばしゃっと、お湯が跳ねた。髪を湯船に浮かばせて、端 にある段に座っている。――――近くに源泉があるとかで、 お湯だけはいつも張ってある。というか、使い流し? でな ければ、ほとんど女性のいないこの城で、女風呂にいつも 湯が張ってあるはずもない。

 数えてみれば、この城の兵士は200人に満たないようだ。 ―――――仮にも、国王の護衛が。
 草が茂るに任せた庭。灯の灯されない廊下、暖まらない 部屋。回りきれない、人手の足りない警備。

「……………………」

 ぶくぶくと、口を湯の中に入れていた絽火は、ゆっくり と立ち上がった。

 見える星空は、谷と違って。―――――でも、だけど。


…………今度は、星座の本でも借りようと思う――――







ぼぉ!!

「…………」
「「「「おお!!」」」」

 目の前の兵士は炎の術に意外なほど驚きを示す。

「こんなもんか。」

「「へぇ〜〜」」
「便利だ〜」

「………まぁ、普段はこんな事にしか使えないし。」

――火付け――

「ああ! あっちもいいですか!?」

「もちろん――――」






「――――――なんだこれは?」
「…………」

 その沈黙は、誰しもが不思議に遭遇して言葉を失ったよ うで、特別、嫌なものではなかった。自分を諭すように行 われるものではない。戒めるためでもない。口を閉ざさせ るものでもない。

「おい!」
 と、嗄(かる)が声を張り上げて、いつになく上機嫌な兵 士を呼ぶ。

「――――っ!! はいぃ!!」
 苛立ち声に驚いた兵士はあたふたと、あせってこちらに 近づく。

「これは、なんだ?」

 松明の木々の上で、揺れる炎。燃やすための木は、まっ たく燃えていない。どこから現れるのか? 絶えず炎がゆれ ている。ついでに言うならば、周りはとても暖かい。いつ もなら、照らされた顔は熱いが、足は寒いくらいだ、つい でに言うなら、いつもは、ここに火は灯されない。

「これは、あの破壊神――――……っと、」
「破壊神ね。」
 繰り返すように言うとあせったようだった。

――――まぁ、事実だろう。

「名前は確か………」

「絽火」

 はっきりと言うと、それですと答えた。

「彼女が、灯して回っているのですが―――……」
「他にも?」
「なんでも、普段はこんな事にしか使えないと。」
「………言ったのか?」
「たまたま、聞こえただけです。」



――――――そんなに、悲観的な女か?


……確かに

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2006.02.18