第七火  襲ってきたのは、疲れ



いやーーいい天気ですねーー

雲行きは怪しいですけど。

え? なんなのかって?

それはさっしてくださいヨ。

「天気はいいけど雲行き怪し」

いわゆる、嵐の前触れって奴ですかね。

え!!!? そんなんないんじゃん!!?? そんなバカなぁーーーー…………


………ふふん。いいですよ。皆様さすがにお久ぶりですから。零下2℃にはたえましょう。


さてとどこまで行きました? そうそう城が明るくなって、絽火が焼死体を1つも積み上げて――――いませんね。

つまんねぇーーー………いいえ何も。






「――――ねぇ。あれ何?」
「――――」
 廊下を歩きながら、絽火は一転を指差した。もう、幾度目かわからない質問に機嫌悪そうに振り返って眺めた鮗(このしろ)は、さらに不機嫌になった。

「―――泉だ」
「泉?」
 絽火の指した一転。森の中がぽっかりそこだけ空いている。木がない。

「ふ〜〜ん」

 気のない返事をしたのは、少し前。言ってしまえば、最初に城の中を食堂に向かったあの日。




「――――今日は、休みだ。」
「休み?」
「自分は、隊の指導に行くから。お前は、休みだ。」
「――――あんたは?」
「は?」
「休み」
「お前の相手をしているのは休んでいるようなものだ。」
「…………あっそ」
 なんかムカつくーーーー

「明日はいつもの時間に書庫だ」
「はいはい」

 歩き去った鮗を目で追うこともなく、絽火は歩き出した。


「暇だーーー」
 と言いつつも、向かったのは例の泉だった。



「ここね〜〜」
 泉を、見るのは初めてだった。湖とか、池とか。水の流れを持つものは火谷にはなかった。井戸と、川。一つ家が沈んでしまうような水のたまり場はなかった。

 だから、とても珍しかった。

「………」
 風にゆれる水面が絽火の顔を映す。しばらく見て、離れた。

 ―――水面に残った絽火の顔が、わらった。


「――――!!!?」

バシャァァ!!! ザバァ!!

 静けさに、一瞬力が抜けた。振り返った絽火の背後で、水面が津波のように盛り上がり、絽火を襲った。

 絡み付く水に引き釣りこまれて、絽火の姿は泉を映す森から消えた。水面はとぷんと波打って、また、静かになった。






「――――!!!!??」
 それは、突然だった。いつものように棚の上で丸くなっていた火鳥―パラが頭を上げた。

「―――陛下。」
 珍しかったので、書類を運んだ嗄(かる)を見ていなかった。いぶかしんだ嗄が首を傾げるより先に、羽根を羽ばたかしたパラは開いていた窓から飛び立った。

「―――」
 考えていなかった。気がついたら二階から飛び降りてあとを追っていた。

「陛下!!?」
「どちらへ!?」
 もとからいた嗄と、タイミングよく入ってきた鮗の声が重なって、続いて地面に着地する音が二つ聞こえた。





「………」
 今は、昼間だと言うのに、この部屋は、いや、ここは地下だ。窓もなく、天井には洞窟を思い浮かばせる岩が並んでいる。

コォォォ―――
 人の頭と同じくらいの大きさの球体が、男の手の前で光っている。中に水を閉じ込めた様子を思い浮かばせる球体は、時折、泡が浮かび、沈み、消える。水面がゆれているように波うち動く。

 絽火が水に引き釣りこまれる様を映し出す“水凝石(すいこせき)”はまた光り輝いた。





「……………っ!」
 苦しい。

 なんで!!

 見た目よりも深くなっている泉に引き釣り込まれる。意思を持った水の縄が足を縛る。―――確実に、どこかで誰かが操っている。

(こんなもの………)
 力を使おうとした絽火を、脱力感が襲う。

(なんで……!!)

 力が出ない。苦しい。纏わりつく水がうっとうしい。身体が、重い――――

「………かは………」

 水の中を沈みながら、絽火は意識が遠のき始めていた。






「――――」
 空を飛ぶ火鳥の行く先がわからない。追いついた鮗と嗄が同じように走っている。

「いったい―――?」
「陛下! 何か心当たりでも?」
「ない」
「でしたら何で……」
「まぁ、そう言うな」

「この先は……」
「何か思い当たるのか」
「あ、いえ、たいしたことじゃありません。」
「なんだ。」
「―――泉が、あります。」
「ぁあ、あそこか。」

 そう、だいぶ前に、火谷の術師があそこはなんだと聞いた………





ザァァァァァ――――バン!!!

 そうこうしている間に、火鳥は森の先に消え、目の前には泉が現れた。


「………」
「「……。」」

 何もない。

 水面は穏やかに、心地よい場所である。時が、ゆっくりと進む。

「………」


――――!!
ぼぉ―――

 そこまでならとてもいい景色だった。森の中に現れた泉。あびる光。和む時間。ただし、空を下りてきた火鳥が炎で水面をわりさえしなければ。

バジャァ―――ジュウゥゥゥ―――
 飛び散った水で雨が降る。

 火の渦が泉に襲い掛かり、中心から水を蒸発させ、そして空に巻き上げた。深い亀裂が水に起こり、水を割る。そして、ゆっくりともとに戻る。


「…………」
 呆然と目の前で水が蒸発する様を見ていると、固まっていた。

「――な!!! いったい何を!!?」
 剣をぬいて止めにかかろうと進み出る鮗を止めた。

「な………陛下!!?」
「まて……」

バシャァ!!

「!!!?」
 大きな火柱が水の中から現れて、水の青に火の赤が映り美しかった。今度は、火鳥ではなく、泉の中からだった。火柱が収まって、水と火の粉が散る中、

がっ!!!
 泉の淵に、手が現れた。




(…………パラ!!)
 気を失いようになった意識が、パラの力を感じて目を見開いた。相変わらず足には水が絡んで、目には水面独特の揺れが映っている。

 こぽこぽと、空気が上がってゆく。いくら絽火でももう息が続かない。
(上(地上)へ!!)
 絽火は目を上げた。

(―――よくもやってくれたわね………)
 足元を振り返り、この力を操っている人物を思う。

 水を引き裂いて送られた力。――――ここを、出る。


―――ファイアー・ピラァ!!



 円を描いた手を上に伸ばして、火の柱を起こした。




ピシィ!
「!!!?」
 小さく、水凝石に亀裂が入る。

(――――まずい!)
 このままこれを割られ、力の抵抗を受けるなら―――

 男は、操っていた水を自身から切り離した。





ざばぁ!!!
「―――げほっ!! ………がほっがほっ……」

 泉から身体を引き上げて、岸に上がった。座り込んだままの絽火は激しくむせこんでいた。

「…………っ――――げほっ!!!」


 上がったままの息が荒い。―――――正直、怖かった。


「――――」

 きゅるきゅると、雑音が起こる。ノイズのように耳を痛めたあと、パラが目の前に降り立ち、羽ばたいている。

【――――主よ、だから言ったであろう】
「聞いていたわ」
【理解しろ】
「それは―――」
【ここは、火谷ではない。あそこでは火の加護がある。だが、ここにはない。ここは、火の力はほとんど影響していない。】
「なんで、火族があんな辺境に追いやられたのか、わかるような気がするわ。」

【向こうのつもりで力を使うことも、いずれ叶おう。だが、今ではない。火谷と同じように力を使い放出すれば、この場になれないうちは倒れよう。】

「倒れるって………」
【現に、今逃げられなかっただろう】
「………それは……」
【夜な夜な灯りを灯すのも確かに悪いとは言わない。だが、その間力を出し続けなければならないのを忘れたか。いくら火谷で常識であり、当たり前のことが、ここでは身体を蝕むとわからないのか】
「パラ」
【主よ、主の力を疑うわけでも否定する事もない。ただ、今は駄目だ。この火の力ではなく、別の種族の力が場にあるここでは、軽率な行動は控えろ。――――いつの間に、王都はでも種族の力に浸食されたのか………】

 火 水 土 風 森 雷 これらの力は特にその一族に与えられた地に濃く、逆に、王都は何にも侵略されない中立であったはずだ。それが今や、どうだ。

 火谷では火の力が強く、水海では水の力が強い。これは変わらない。しかし、王都を取り囲む風と、水の力。―――そして地。森族は中立を守り、雷族はそれどころではない。

【火族が力を使うには、とても不利だ。…………主よ、とにかく身体が慣れてきた今、何も考えずに力を使ってはいけない。】
 例え、火谷でなんの抵抗もなく行ってきた術であっても。
「〜〜〜〜」
 水が滴って、纏(まと)わりつく長い髪が邪魔。

【ここに来て違和感がなかったわけじゃあるまい。】

 どことなく、だるくて、眠い。何度か、鮗の前で眠りかかって、怒られた。

 そう、今も…………

 返事がなくなったので、いぶかしんでパラが目を向けると、絽火は半分目を閉じていた。
【――――主!!! 主!!!】
「眠い………」
【また水に襲われたらどうする!!】
「大丈夫よ、もうあきらめたでしょう……ってか、手を引いたんだから………」
 向こうが。

「眠い………何かあったらよろしく。パラ………」
【主!!】
 力を使って疲れていて、身体の調子が悪くなると今言った手前、眠るなとは言いがたいパラ。

――――しかし、
【主、帰ってから………】
 泉から上がって、そのまま。芝にうつ伏せるように伏せて、上に上げた腕に頭を乗せて、絽火は眠った。







――――ぅわぁ〜〜暴れるだけ暴れて眠りましたよあの女。そうだったんですね〜〜彼女。どうやら力の使いすぎ? なまじ敵なしなだけに。たちが悪い。うんうん。

ってかお二人さん? 残り三人の存在忘れてません?
おいおい火鳥のパラさんってば〜〜絽火の服を乾かしてる場合じゃないですってば!! 国王が見てますよ。最初から。

気付かなかったんだね〜〜絽火。それどころじゃないって〜〜?
いやぁ案外ぬけてる………さてと、悪口にだけは敏感なので、わたくしが燃やされたら困るなぁ〜

え!!!? 困らない!!!? そんな殺生な皆様〜〜………


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2006.07.10