伝承


はじめ、この世界には“天”と“大地”と“”があった
大地を流れるは、を潤し、天から吹くと共に、木々を育(はぐく)んだ
木々はとなり、は滝となり、は吹きぬけた

ある日、天よりはるか高く、空よりも高い所にいたが、下りてきた
それは、とても激しく、荒々しいものだった
を巻き込み、前が見えないほどの豪雨、尽きない滝のような豪雨
目を開けていられないほどの光と共に、は木々に、降り立った

その瞬間、が生まれた

生まれたは木々を焼き、そしてを焼き尽くし、潤った大地を荒野に変えた

―――は消えた

と、と、は怒(いか)った
怒りを、に向けた
天から引きずり下ろされたは、元の力を二度と手にすることはなかった


そして、時がたった

もう一度育まれた、流れ落ちる、潤った、ざわめく。かなたのに追いやられた

大地のすべてがになろうとする時、大地の端に再びが現れた
すべてを無に帰(き)す力を持って






「………ばかばかしい」
 乱暴に、絽火は持っていた本を閉じ、そして―――

「――っ主! それは火谷の物ではない!!」
「――――?」
 目の前の本の存在を消すつもりだった絽火は振り返った。
「……主、なぜ火谷といいここといいその伝承の載る本を燃やそうとする」
「くだらない」
「……主、なぜその伝承を毛嫌いするの」
「好きになれとでも?」
「誰もそうは言っておらん」
「嫌いだわ」
「主……だから」
「肯定するわけ?」
「そうも言っておらん」
 おそらく、“石”の持つ意思を一番理解しているのは“種獣”―パラである。
「嫌いだわこんなもの……」
「主! 火が暴れる!!!」
「だから?」
「誰かが傷ついてからでは遅い」
「………」

ジジ……
 絽火の横で、赤く黒く揺らいでいた蝋燭(ろうそく)の火が乾いた音を立てた。

 パラが言葉を介するほど強い火の力を、絽火は生み出していた。―――そう、怒りから。
 絽火に灯された松明が、力を持って揺れる、意思を持って、薪を離れる―――その前に。

 激しく揺れていた蝋燭の火は落ち着き、ただ小さな音と共に燃える。

「…………」
「……。」

 乱暴に本を戻し、絽火は書庫をあとにした。壁際にいた人物に向けられた視線は絡むことなく。



「………気がついていたか。」
 国王が言う一言に、パラは首を振ることだけで答えた。
「―――もう、しゃべれないのか」
 少し、驚いたように国王は言う。頷いたパラはそれは至極当然だと言っているようだった。
 あの主が、むしろ力を外に現すことのほうが珍しい。いくつもの水がめが、割れて砕け散っている事だろう。―――水族の監視をする水は、綺麗に空気になって。―――また、来るだろうが。


 こつりと、靴音がする。部屋の中に人間は三人。国王は絽火が仕舞った本を手にとって、絽火が見ていたページをめくる。

 そこには、“続き”があった。



現れたに、ですら驚愕した

は言った
何処に住まわせていただけるのだろうかと

それに、が答えた
今いる場所を出る事はならんと

世界の端、になる事なかった大地の上に、の流れることなかった大地の上に、は住んだ

は、かなたのと呼ばれるの奥深く、に囲まれ、の流れとの通らない場所に住んだ

の下、に見えることない場所に住み

の中、を削り流れ住んだ

は、の上天に住み、絶えずを送った

によって、木々を育まれた

そして、時は流れる

大地のほとんどをで埋め尽くされた世界の中で何がおこっているか、すべてを把握するものはいない―――



「…………詭弁(きべん)だな」
「…陛下?」
「すべてを御(ぎょ)しきりたいと思うものが、いないはずないだろう」

 例え、それは人に在らずとも。


唐突にこんなもんを…
“伝承”を書くのは面白かった。例のごとくバイト中に思い浮かんだ…
大地があって、水と風で木ーーみたいなはじまりを。
伝承だけ並べてもよかったんだけど、やっぱり登場絽火&パラ&国王
はたして声をかけたのは鮗(このしろ)か嗄(かる)か…


目次
2006.08.20