はるか炎の地で


 声が、聞こえる。
 ここは、そうか。我は主に、送られたのか――



「だから、言ったのだ」
「だれ、だ」
「あのように若くして力のある娘につくなど、自滅行為だと」
「――メタ」

 広くて、何も見えない空間だった。

 暗闇と言うよりも、“無”。

 そこに、灯った明かり。

 一つは、弱弱しい赤い光。
 一つは、無に有を生む黒い輝き。


 火の神、ファイアの主従は三種。

 青の鳥、オルト。
 赤の鳥、パラ。
 そして黒の獣、メタ。

「火谷の“長”につくならまだしも、あんな小娘に」
「主を侮辱するか」
 パラの気迫に、一瞬、メタは言葉を失った。

 その昔、オルトとパラに術師の下におりるように、ファイアは言った。
 火の術を使う術師には、導く物が必要だったから、火の使い方を謝ってはいけないから。

 かつて、その身が生まれた時のように、すべてを消し去ることにならないでほしいから。

 だけど、再びこの地に独りきり。

 だから、生み出した。
 黒の獣、三の種獣、メタを。


 メタは嫌っていた、ファイアを放り出して地に下りる赤(パラ)と青(オルト)を。

 それはもしかしたら、目の前にいるのは自分なのに、ファイアが二の火鳥の身を案ずるのが、気に入らなかったのかもしれない。
 長い長い年月の間、小さな嫉妬はやがて、大きな憎しみに変わっていた。

 本来ならば、火鳥を敬ってこそすれ、蔑(さげす)むなど許されない。


 しかし、今は、外見的にも、メタはパラに勝(まさ)っていた。
 大きな獣、それは、今のパラに勝てる。
 その力も、すべて――

 だからこそ、まるで自分が優位にいるかのようだった。



「――お主は、知らぬ事が多すぎる」
「なんだと!!?」
 知らず、図星だったのかもしれない。だからこそ、逆上したメタ。

「とにかく、我は戻る」
「どうやって? その傷で呼ばれもしないのに?」
「――」
 万全なら、問題ない。
 主の呼び声なしに向こうに渡ることなど。
 ――だが、

 なぜ、主が我をこちらに送ったのか、わかっているだろう?

 ふと、メタの心を優越感が満たしている。
 この鳥は、所詮、役に立つ事がなかったのか。

 下の地で!

「無様なものだな! 結局何も役に立たなかったのか!」
「黙れ!」
 カッと、パラに怒りが襲った。
 あろうことか、主まで侮辱している。

「――メタ、他の何を侮辱しても、主を侮辱することは許さん」
「はっ」
 どいつも、こいつも、主主主あるじ――

「そんなに主がいいなら! 帰ってこなければいいだろう!?」
「何!?」

 なぜファイアは、こいつらばかり優遇する――
 たまに帰ってきては、こいつらはファイアに配列することができる――

 ただこの何もない地で、ただ日々をすごし、門が開かれた時だけファイアのもとで眠る――

 下にも、ファイアの元にも……行く場所も呼ばれる場所もいるべき場所も戻るべき場所もない!!

「メタ……?」
「その名でっ」
 その名で、呼ぶなぁーー!!!

 黒い炎が爆発して、無の空間に溢れた。








『――タ――メタ』
「誰だっ!?」
『寂しい思いを、させてしまったね』
「ファイア!!?」
『パラから、少し聞いた』
 “パラ”その言葉は、メタの神経を逆なでする。
『怒らないで、メタ……あのね』
「……?」
『君にも、下におりてもらいたいんだ。駄目、かな?』
「なっファイア! 私はもう必要ないのですか!?」
『違うよ。メタ。だからこそ、行ってもらいたいんだ』
「どうしてですか!? 私ではご不満でも!?」
『――そうじゃないんだ』
「ならなぜ!?」

『“それ”を知ってもらうために、かな』

「ファイア!?」
『もう主の候補は見つけてあるんだ、きっと、気に入ってくれるよ』
「冗談ではありません!」
『ごめんね、メタ。寂しかったんだよね』
「なっ」
『独りきりで寂しいのは、僕はよくわかっているはずだったのに』
「ファイア!!?」
 メタの体が、少しずつ薄くなっていく。それは地におりていく証拠。
『大丈夫、すぐ、会えるから――』

 それが、最後の言葉。

 メタの姿が、火の粉となって消えた。


「ファイア……」
 現れたのは、赤い火鳥。
『彼は、とてもよく似ているね』
 昔の君と。
 下におりるなど、冗談ではないと言っていた君と。
 なのに、ある日突然――少女のもとに行くと、言ったね。
「冗談ではありません」
『それ、彼も同じ事を言うだろうね』

 その昔、赤い鳥は青い鳥に嫉妬した――


『――ぁあ、眠い。ねぇパラ、君の傷が癒えるまでは昔のように隣で寝ておくれ』
「仰せのままに、ファイア」



 そして再び、あの地で主に会えるまで。





パラの話が書きたかったのに・・
まぁ元気でやってますってことで。

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2007.07.13