「許さない。ファイアを、あんなふうに利用するなんて――」









火の神 ファイア


 はるか昔、水と風と地と森と雷の神達が、世界に共存していた。彼らは他を犯すことなく。自然で。

 数十年の後、そこに、火が生まれた。それは火の神、ファイア。そして、その瞬間から森と水と風と大地に恐れられ、地の果てに、独り追いやられた。

 ファイアは、一人だった。
 今いる場所はほとんど何もなく、静かで。

 たった、一人。

 生まれながらにしてファイアは一人だった。周りのものたちは、ファイアを押し込めて鍵をかけた。厳重に厳重に。

 生まれたてのファイアは、自分の力の使い方がわからなかった。何も、あんなふうに森を燃やそうと思っていたわけではない。
 だが、あれがファイアの力だ。

 ファイアは、孤独だった。この世界に生れ落ちたのに、誰とも、かかわることなく。

 独り。

 たった独りでいることが悲しくて苦しくて辛くて耐え切れなくて、ファイアは涙を流した。そして、怒った。

 ないて泣いてないて泣いて、なき続けた。
 怒って怒って怒って怒って、岩をも燃やした。

 すると、ある日。

 ファイアの流した涙から青い鳥が、
 ファイアの出した炎から赤い鳥が生まれた。

 ファイアは、彼らに名前をつけた。

 それから、ファイアはもう独りではなかった。



 三つのもの達は共に過ごした。朝も、昼も、夜も。ファイアのまわりにはいつも、二匹の鳥がいた。

 それでも、この場所は出られなかった。このまま、三人で朽ち果ててしまうのだろうか?
 ファイアは、また悲しくなった。

 どうして、僕はこんな所にいるの?
 僕だって、みんなと仲良くなりたいのに。

 実際に、風と水は仲がよかった。森と地も。皆、定期的に集まって会話していた。

 どうして、僕は仲間はずれなの?


 それは、ファイアの強大な力を恐れてのことだった。
 でも、ファイアだって森を燃やしたかったわけじゃなかった。


 そんな風に、明るくも暗い日々が続いた。


 それから数日、赤い鳥が大怪我をして空を飛ぶ事ができなくなってしまった。あわててやってきた青い鳥に案内されて、ファイアは赤い鳥を見た。
 ―――痛い。
 傷は、深かった。
 でも、ファイアは赤い鳥に死なれるのは嫌だった。

 だから、自分の力を与えた。もう一度、この鳥が生まれた頃のように。

 赤い鳥は生きながらえた。

 こののち、ファイアは思った。

 僕の力が小さければ、みんな怖がらない?

 ファイアは、自分の力を皆に分け与える事にした。台地に、木々に、動物に。――そして、はては人まで。


 これが、種獣と術師と領域ができることになった。“本当”の理由――




※ ※ ※




 ある日、水の神ウォータは感じた。
 いつも流れているのに、これ以上進むのに困難がある。
 それは、ファイアの住む大地の方向だった。

 風の神ウィンドは、空を渡っていて見た。
 ファイアの周りを飛び交う二羽の鳥の存在を。


 これは、何?
 あれは、なんだ?

 それぞれの話を聞いた水と風は、恐れた。
 まさか、ファイアは私達を襲うつもりではないだろうか?

 そんなことさせない。

 水も、風も、他の種族も、自分の力を使って種獣を作り出した。
 しかし、ファイアのように二匹、しかも同時に二匹生み出すことなど到底不可能だった。


 水と風、地の神アーラスは焦った。ファイアは力を大地に、木々に移している。自身が、すごしやすく、反撃しやすく。報復をするつもりだろうか?

 ファイアの周りにあった木々は燃えつくされようとしている。大地はもう、水も流れない。


 どうしたら、どうしたら。

 誰かが、言った。“雷”にやらせよう。


 かなたの地に追いやられた雷の神サンダーは引っ張り出され、“火”を押さえ込む役目を背負った――



 孤独に耐えようとファイアは力を外のものに与えた。
 雷は、その力をすべてつぎ込んで火を抑える責務を負った。
 水と風と大地、そして森の神フォレス。これらはいつまでも、火の恐怖に怯えていた。

 誰もが恐れた。孤独と、自身を脅かすほどの力を。



 これは、恐怖によって始まった。悲しみの物語。



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2007.03.15