秘密の部屋


「さぁ! 次は洸(こう)が鬼ね!」
「うん!」
「よっしゃ、行くか〜」

 もう見慣れて、微笑ましい光景だった。

 この国の王子と、双子の火術が遊ぶ姿は。歳の近い三人は、少し前に謁見を済ませてからすぐに遊びだしたぐらいだったから。

 よく廊下を走り侍女に、兵士達の訓練所に入っては兵士に、厨房でツマミ食いをしては料理長に、怒られ注意される事も多々ある。
 でも、こりずにまた遊ぶのだ。
 彼らを懲(こ)らしめられる人は、そういない。

 今日もいつものように、城中を使って鬼ごっこをするらしい。


ぅへぇ〜元気ですねぇ〜
その体力を分けてほしいですよ。わたくしに。
老けてんなぁ!? 何をおっしゃるウサギさん! わたくし、これでも心はいつも少年時代……ですよ!?


「いーち、にー」
 壁に向かって伏せて、洸王子が数を数える。
「わ〜」
 火華(かか)と軌絽(きろ)は走り出した。






「どーこっに隠れようかなぁ〜」

あ、間違えました。隠れ鬼です。この三人は隠れ鬼で遊んでいるのです!
鬼が来れば移動、移動! 物陰に隠れる!!
いやぁ〜これがまた楽しいのですよ。やはり遊びは奥が深い。
うんうん。

え? ありがたみが薄れるですとぉ!?

どうしてですか! わたくしを敬ってくれてかまいませんのに!



 階段を走り下りて、角を曲がる。

城中を使って隠れ鬼ですか? 盛大な遊びですねぇ。

「!」
 ふと、火華の視線の先の部屋。

『ここは、開かないんだ。父上が誰も入れてくれない』

 少し前に、洸が呟いた部屋。
 誰も寄せ付けないと言うように硬い扉の重苦しい雰囲気が、違った。

じ――
がちゃっ
(あいちゃった……)
 ふと思って扉に手をかけた火華。扉は開いた。

なにぃーー!? どうしたんですか!? わたくしだって入ったことないのに……


「お邪魔いたしまーす……」
 少しだけ、自分が通れるだけ開いた扉をくぐって、すぐに後ろ手に閉める。
 少し進むと白いカーテンが幾重にもかかって、中が窺えない。ひとつひとつめくって、進む。
「――わぁ」
 その部屋の中には、洋服棚が所狭しに並び、輝く宝石や帽子、カーテンの向こうには靴。
 まるで一人分には溢れてしまうそうだった。

 なぜか開いていたカーテンのおかげで、昼間の光に部屋の中が照らされている。

「きれい……」
 そっと、ガラスの中に納まっている宝石の一つを取り出す。

 そして銀の縁取りをされた姿鏡に、自分を映す。
 そこにいたのは、火術師として黒いローブを見につけた自分――

 落胆して、好奇心に引かれて、棚を開ける。
 手触りの違う服が、いくつもある――

「るるる〜」
 赤と青と白のワンピースや、中にあったいくつもの服を自分にあてる。
 邪魔になるフード付きのローブはぬいで、かけてある。

 ほかにも、噂に聞く夜会用のドレスかというもの、レースや白を貴重としたドレス。

 それも、これも。型は今とは違う。少し昔と言う印象であったが、火谷でローブしか着ない火華は気がつかなかった。

 やわらかい素材の服をそっと手にとって自分に当てる。また戻して、今度は次。

 誰の服なんだろう?
 こんなに綺麗な服を着れるんだから、やっぱり王女様なのかな?

 しかし、この城に王女はいない。

(なら、もっと昔の?)
 それなら、手がつけられていないのも――

「誰だ!」
「きゃぁ!?」
 突然、叩きつけるように響いた声に驚き、手にしていた服を取り落とす。
「……火華?」
「ぁ……陛下」
 呟いて、思い出した。陛下が、ここに人が入るのを嫌っていると。
「――申し訳ありません!」
 どうしよう。どうしよう。
 ただ、苦しかった。
 こんなに綺麗な服を持っている人が、とてもうらやましくて嫉妬した。
 勝手に入ったこと、自分がとても醜いこと、全部全部、嫌だった。

「……いや、怒鳴って申し訳ない」
「そんなことっ! 私が悪いんです!」
 そうだ、最初から入らなければ、こんな気持ちになることもなかったのに。
 ここを出たら、もう帰ってはこれないのに。

「――気に入ったか?」

「ぇ?」
 すっと近づいてきて、取り落とした服を拾って手渡してくれる国王様。

「あの……?」
「それとも、こんなに古い型は気に入らないか」
「そんなことありません!」
 思わず、叫んでしまった。はっと口を押さえる。
「……とても、きれいで……」
「嬉しかったか?」
「――はい」

「そうだろうな。普通」

「陛下?」
 なんだろう、その、含みのある言葉は。
「もし、それでよければ、着てみないか?」
「え!?」

 怯えていた火華の顔が、嬉しそうに笑った。
 外にいるからと伝え、着替えてみるといいと言った。

 捨てることなど、できはしなかった。
 何か、つながりを求めるように。むしろ閉じるように鍵をかけて省(かえり)みなかった。

 それを、再び開いたのは、あの少女の面影が重なったからだろうか?

「洸?」
 物思いは、自分が息子として認めた少年が廊下を走る音に引き戻される。
「父上!?」
 ぎょっとして、息子は飛びのいた。
「どうした?」
「いえ、なんでも――」
 伏せって言葉を濁す。
「軌絽は一緒じゃないのか?」
「洸〜!」
 言うと、向こうから声がした。
「ちっくしょういねぇぞ! ――陛下!? ぇえっと、こんにちは」
「ああ」
 面白いな。

そういう問題ですか!?

「どこに行ったんだろう」
「誰がだ?」
「父上はなぜここに?」
 どうやら、答えたくないらしい。察しはつくが。
「火華」
「軌絽! 言わないでよ!」
 どうやら、鬼ごっこの途中らしい。
 父親の力を借りて見つけたなんて、なさけない。と思う洸は自分の力で火華を見つけたいらしい。
 その好意が、なんであるのか。
 その姿に昔が重なる。

 となると、面白い物が見られそうだ。

「陛下?」
 気恥ずかしそうな声がする。
 洸と軌絽に黙っているように促して、扉を開ける。

「あのやっぱり――ぎゃあ!」

 出てきた火華は、国王以外の二人の姿に飛び上がった。
 その二人は、あんぐりと口を開けて固まっている。

「似合うじゃないか」
「本当ですか!?」
 ぱっと、火華の表情がよくなる。
「なぁ、洸」
「なっなんで僕にふるんですか!?」
「……」
 その様子に、火華がまた落胆する。
「っ!? かわ、いい……よ」
「本当に?」
「うん」
 コクコクコクと頷く息子。まるで首が取れそうだ。

「おまえー何してんの?」
「うるっさい黙って!」
 恥ずかしさからか、軌絽の言葉に叫びで返す火華。

 双子は、また言い争う。
 息子は、ぼけっと見ほれている。

「……どっからそんな服持ってきたんだよ」
「この部屋」
「ここっ!?」

 そう、この部屋は。

「火華」
「はいっ!」
 国王の言葉に、火華があわてる。
「もし、よければ――ここにある服を着ないか?」
「え゛!?」
 言葉とは裏腹に、嬉しそうな顔。
「だっ駄目です! 持ち主がいるでしょう!?」
「お前なら、大丈夫だ」
 その持ち主は着ない。いない。だから、捨てられないといつまでも置いてきた。
 時を封じ込めたくて。
「お前なら、大丈夫」
 そうだろう?
「……でも……」
 嬉しいのと、悪いのと、でも嬉しくて、だけど、だけどっ。
「好きに使え」
 国王は唯一ある部屋の鍵を火華に託した――



 その昔、とある女性を追い出すためにかかった被害額が、ふと思いおこされた。



あっはっはーーー笑えますねぇ〜
しかし、国王様。律儀すぎますよ。


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2007.07.11