第十二世  思うだけで、感じるだけで、

「“会議”を?」
「そうだ」
「だけど、一瀬」
「問題でもあるか」
「――――ないけど、だけど、」

 ――――いけない。何かが、本能が告げる。

 早足で進む廊下。広く長く響音高く。
「夕刻に、全員を集めろ」
「一瀬!!!」
 自分の言葉を、一瀬が聞かなくなってから幾年がたっただろう。もう、声は届かないのだろうか?

「おい」
「「「は!!」」」
「聴いていたな、用意しろ。」
 命令に、一瀬の後ろについていた兵士が走り去る。月に一度行う定例会議。「元」に選ばれた者達が、こん後の方針を決める。――――国のことは王である一瀬と大臣が執り行うが、俺たちには特権がある。「元」の餌というだけで。それの事や、何か意見がある事などをまとめて話す場、十人………十一人がそろう場でもある。――――つまり、前置きを消せば、“どれくらい記憶を失っているか確認するため”に設(もう)けられた空間。

 ――――嫌な時間だ。

 ゆっくりと振り返って、十音を見た。この世界の理(ことわり)を、ようやく理解しだした少女は腕をつかまれて引っ張られていることにご立腹だ。
 ――――この子(十音)に、聞かせる話じゃない。――――彼女は、代わりにしかすぎないのだから。


「……………十音。時間になったら迎えに行くから。――――部屋にいてくれないか?」
 お願いのような命令をして、四利は私を兵士の一人に引き渡した。


「――――時間は、夕方でいいんだね」
 一瀬の後を追って、執務室に入った。
「そうだな」
「―――何を、考えている」
 一瀬は机に座って、見るともなしに見て積み上げている。
「と、言うのは?」
 一瀬は、面白そうに俺を見上げた。
「――――!っ」
 その顔に、寒気が走った。
(なんだ………)
 ――――“危険”。
「っ!」
 自分中で鳴る警鐘の意味を理解して、俺は驚愕した。

 ―――――いつから、俺は一瀬を恐ろしいと感じるようになったのだろうか?

 考え込んだ四利を前に、王は興味を失ったようだった。

(さて、どうでる?)
 ―――どうなる?

(楽しみだな)

 時は進んで時間はまわる。―――――止まらない。


 止まらない時間。傾く日。いつもより長いようで、もっと早く。――――いや、いつものように昼が過ぎて、もう―――太陽は、長い影を落とし始めた。


 照らしつける日差しは、和らいで。風が、冷たく感じてきた。暖かな昼間を過ごした服は、暖かな場所になれた身体は、吹きつける風に身を震わす。



「誰に聞いたか知らないが、二度とその話をするな。」
 歩き去った人物は振り返らない。

「ふっ…………」
 理不尽だと叫びたい言葉を前に、もう何も言えない自分がいた。悔しくて苦しくて悲しくて。泣くことしかできない自分はとても無力で。
 知ってしまった思いは誰にも伝えられない。どうする事もできない。

(な………んで……なん……で……なんで……)
「なんで………なんで何で何でなんでぇ!!!」

 握り締めた砂と土。座り込んだ地面。空に消えていく叫び声と地に吸い込まれる涙が、ただとても虚(むな)しい。


「十音。」
 いつの間にか部屋を脱走した女。いくらか怒り気味に探しに来た四利は、十音の姿に声を張り上げたが、叫びと共に泣く十音にはさすがに驚いた。
「………ど、どうした?」
「……〜〜〜〜なんでもない!」
 交差する思いを、すれ違う気持ちは、もう重なる事はない。合わさらないし、ぶつからないし。

 ――――あの子達を“誰”と呼ぶ―――
 ――――だから“忘れて”あげる―――

(だけど、それじゃあ………)
 悲しすぎるよ―――

 空はこんなに青いのに、どうしてうまくいかないの?
 世界は、こんなにも広くて、私はとてもちっぽけで。だけど、人の思いは、どうしてこんなにも深いの? どうして? 傷つけたくないだけなのに。そうして、こんなにも悲しくなるの―――?

 だって、それじゃぁ…………悲しいじゃない。




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