第十三世  何の音?

 とりあえず、もう逃がすまいと腕をつかむ四利に引かれて、部屋に帰ったと思ったら服を着替えさせられた。
 ―――どうやら、“会議”の時に着る正装らしい。
 窓から見えた夕日は、まるで太陽が地に飲み込まれてゆくようで。――――何故だか、もう戻ってこないようだった。

 着替えが済むと、すぐに四利に引っ張られてとある部屋に案内された。―――どうやら、朝言っていた“会議”とやらを行う所(ところ)らしい。
 部屋の中には、真ん中に細長いテーブルが置かれ、十一の椅子があった。私と四利を確認して、中にいた次女と兵士は外に出て行った。一番近くの椅子に座ってすぐに、私は何か音を聞いた。


ピチャンッ……

ピチャンッ………

「?」
 ―――何の音だろうか? でも、誰も気づいていないのかまったくその音には反応しない。水が滴るような音は、とても小さく弱く。気づかなくても不思議はない。

 ――――空耳?
と、決め付けるにはしっかりとした音だけど。

「………………」
 気にしなくてもいいか。音から意識を部屋へと移した。
 ここは、部屋というより大聖堂? ―――とにかく、でかくて広い。高い天井。長いテーブル。真っ白な布がかかっていて、上には何も乗っていない。花もフォークもスプーンも。ただただ細長いテーブルに、白い白いテーブルクロス。座る王と私の位置は、ゆうに20mは離れている。
 そして左右、窓のあるほうもないほうも、赤いカーテンがかかっている。

 入って奥、正面に一瀬―――王様。
 その反対。細長いテーブルの反対に自分。――――十音。

 開かれた扉をくぐって、続々とやってきた人々は迷わず席に着いた。
 王様に近いほうから。右側に四利、六羅(ろくら)、というらしい少年。それと八蛇。―――どこか人事なよくわからない男だ。たぶん、二十はいってるはず。
 左には、三臥、五依、七羽、九姫(くき)という女の子。この子は十五くらいだろうか。

 人が座って椅子が埋まる中、四利の横、王様の左前が二席空いている。――――なんで?

ピチャンッ……

ピチャンッ………

 また――――
 耳に響きだした音。

「―――――おい、どうした」
 一瀬の、低い声がする。原因はそう、時間になっても現れない二乃と二架だ。四利はゆっくり息を吐いた。
「今、探させていますから」
「伝えたのか?」
「侍女の話だと………朝から見ていないそうです」

「「朝から!?」」
 ガダっと、三臥と五依が声をあげた。
 ―――え? その心配をする声に、周りの皆(みな)は目を見張った。…………一瀬でさえ。いつもならば、何の反応もしないのに。
「あ、ぁぁ。」
 四利は少なからず驚いた声で、肯定するので精一杯だった。
「「………」」
 そんな視線を感じて、三臥と五依ははっとわれに返って椅子に座りなおした。
 俺は、ゆっくりと外した視線を、いまだによく理解する気もない十音。どこか沈んでいる? に、持っていった。
「知らないか?」
「…………早くに、部屋を出たから。その後は知らない」
「そうか、」

ピチャンッ……

ピチョンッ……

 ――――なんだろう? まるで心音のように一定で、どこか後を残す音。

カツッカツッ!
「……………」
 苛々と、テーブルを叩く王。その恐ろしい雰囲気に皆畏縮(いしゅく)する中、私は、

ピチャンッ……
ピチャンッ……

 また、水の音――――そう、水音だ―――を聞いていた。

 ――――何の、音―――?




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